新型IFFRLS-IAEKFアルゴリズムがEVバッテリーのSOC推定精度を革新

新型IFFRLS-IAEKFアルゴリズムがEVバッテリーのSOC推定精度を革新

自動車産業の電動化が世界的に加速する中、電気自動車(EV)のバッテリー管理システム(BMS)における核心課題の一つが、充電状態(SOC)の正確な推定である。ドライバーにとって、SOCは単なる数値ではなく、走行可能距離の信頼性や充電行動の判断、さらにはEV全体への信頼性に直結する重要指標だ。従来の推定手法は、急激な負荷変動や温度変化、使用パターンの多様化が生じる実走行環境において精度が低下する課題を抱えていた。この問題を解決すべく、安徽工程大学の研究チームは、動的環境下でも優れた性能を発揮する新型アルゴリズム「IFFRLS-IAEKF」を開発し、バッテリー管理技術の新たな基準を確立した。

従来手法の限界と技術的突破口

SOC推定の主要手法であるアンペア時積分法は、センサーの誤差が累積する特性を持つ。一方、開放電圧(OCV)法は長時間の休止状態を必要とするため、実用的ではない。拡張カルマンフィルター(EKF)を活用した手法は、計算効率と精度のバランスから広く採用されてきたが、固定されたプロセスノイズと観測ノイズの共分散行列に依存するため、バッテリー特性の時間変化への適応性に欠けていた。

研究チームはこの課題を二つの角度から解決した。第一に、等価回路モデルのパラメータ同定プロセスを強化する「改良型忘却係数逐次最小二乗法(IFFRLS)」を開発。第二に、動的ノイズ適応機能を備えた「改良型適応拡張カルマンフィルター(IAEKF)」を組み合わせることで、モデル精度と状態推定の両方を最適化するハイブリッドアプローチを実現した。

パラメータ同定の進化:IFFRLSの革新性

従来の忘却係数付き逐次最小二乗法(FFRLS)は、過去のデータへの依存度を調整する固定の忘却係数を使用していた。しかし、この固定値は、負荷変動が激しい状況では反応遅延や過剰なノイズ感応を引き起こす。IFFRLSでは、データ量に応じて忘却係数を動的に調整する「セグメント化適応型アルゴリズム」を導入。32サンプル未満の初期段階では0.95の保守的な係数を適用し、データが蓄積されるとともに、忘却係数をデータ長の逆数で連続的に変化させる。これにより、過剰な過去データの保持(データ飽和)を回避しつつ、急激な負荷変動への追従性を向上させた。

具体的には、Thevenin一次等価回路モデルのパラメータ(オーミック抵抗Ro、分極抵抗Rp、分極容量Cp)の同定精度が、DST(Dynamic Stress Test)プロファイル下で従来比24%向上。電圧予測誤差の低減により、状態推定の基盤が強化された。

適応型フィルタリングの進化:IAEKFの自己修正機能

IAEKFの最大の特徴は、二つの独立したSOC推定値(EKF出力とクーロン計算法)の差異を「誤差重み係数」として活用し、プロセスノイズ共分散行列をリアルタイムで調整する点にある。このフィードバック機構により、モデル誤差やセンサー誤差が蓄積する状況下でも、カルマンゲインを最適化し、推定値の安定性を保持する。実験結果では、DST条件下での平均SOC推定誤差が1%未満を達成し、従来のAEKF比で30%以上の精度向上を確認した。

実用性を重視した検証プロセス

研究チームは、実用性を担保するため、Leoch社のAGM鉛バッテリーを用いたハイブリッドパルスパワー特性(HPPC)試験データを基に、OCV-SOC関係を6次多項式で高精度にモデル化した。これにより、電圧とSOCの非線形関係を正確に反映し、フィルタリングアルゴリズムへの入力データの信頼性を向上させている。

計算負荷の観点では、高精度なUKF(Unscented Kalman Filter)と比較して、EKFベースのフレームワークを維持しつつ、組込みシステムとの互換性を確保。自動車メーカーが既存のBMSハードウェアを流用できる点が、技術導入のハードルを低くする。

産業界への波及効果

本手法の実用化により、以下の領域での改善が期待される:

  1. 走行可能距離の精度向上:SOC推定誤差の低減は、ナビゲーションシステムの経路計画アルゴリズムの信頼性を高め、ドライバーの「航続距離不安」を軽減する。
  2. バッテリー寿命の最適化:過充電や深放電を回避する精密な制御が可能となり、バッテリー劣化を抑制。
  3. 急速充電の効率化:正確なSOCに基づく充電曲線の最適化により、充電時間の短縮と負荷集中の回避を両立。
  4. サプライチェーンの透明性:正確な状態推定データを活用したバッテリーの健康状態(SOH)モニタリングが、中古EV市場の価値評価基準を強化。

今後の展開と課題

現在の研究では、バッテリーの経年劣化や温度依存性を定数として扱っている。実用化に向けては、以下への拡張が求められる:

  • 劣化モデルの統合:サイクル数による容量劣化をオンラインで推定する機能の追加
  • 熱影響の補償:バッテリー温度のリアルタイムモニタリングとパラメータ補正アルゴリズムの連携
  • 機械学習との融合:過去の走行データを学習し、負荷変動パターンを予測するAIモデルとの連携

さらに、自動車のサイバーセキュリティ規格ISO/SAE 21434に対応した改ざん検知機能の統合が、BMSの信頼性を高める上で重要となる。

社会的意義と標準化への展望

EUや中国で進む「バッテリーパスポート」制度では、バッテリーの状態を客観的に報告する仕組みが求められる。高精度なSOC推定技術は、こうした規制に対応するデータ基盤として不可欠だ。また、エネルギー供給ネットワーク(V2G)との連携時には、正確なSOCに基づく充放電制御が電力系統の安定化に寄与する。

国際標準化団体IEEEやSAEにおいて、BMSアルゴリズムのベンチマークテスト手法の確立が進められる中、本手法が業界標準の参照モデルとして採用される可能性もある。

技術革新の先にある未来

本研究が示すように、EVの性能向上は単にバッテリー容量を増加させるだけではなく、既存のエネルギーを如何に効率的に管理・活用するかにかかっている。IFFRLS-IAEKFの技術は、パリ協定の目標達成に不可欠なカーボンニュートラル社会の実現に向け、自動車メーカーとエネルギー産業をつなぐ架け橋となり得る。

自動運転技術の進展に伴い、BMSは車両制御システムとの統合度をさらに深めるだろう。その際、SOC推定の精度は、安全余裕の設定や緊急時の電力配分戦略に直接影響を与える。本アルゴリズムがもたらす高信頼性のデータは、次世代モビリティ社会の基盤インフラとしての役割を担うことになる。


ヤン・フイフイ, チャン・ヤン, チャン・ペイシェン, マー・ウェンジン, ジョウ・ユエン
安徽工程大学電気工学部
『ハルビン商科大学学報(自然科学版)』
DOI: 10.1672-0946(2024)06-0658-06