EV向け新型ワイヤレス充電システムの安定電力供給を実現

EV向け新型ワイヤレス充電システムの安定電力供給を実現

電気自動車(EV)向けワイヤレス充電技術において画期的な進展が、湖南工業大学と湖南大学の共同研究チームによってもたらされた。李忠奇博士を中心に、張晨希、王建斌、王忠梅、黄守道教授らが開発した新型の非接触電力伝送(WPT)システムは、コイルの位置ずれや負荷変動といった実環境下でも、安定した定電流・定電圧出力を実現する。本成果は中国電工技術学会誌に掲載され、従来の有線充電と同等の信頼性と利便性をワイヤレス技術で達成するための課題解決に光を当てた。

技術的課題の核心

ワイヤレス充電の最大の課題は、電力伝送の安定性である。有線接続では物理的な接触が保証されるが、WPTでは送受信コイル間の電磁界結合に依存する。この結合効率は「結合係数」と呼ばれるコイル間の距離と位置関係に敏感に反応する。EVを充電パッド上に停車させる際、完全な位置合わせは現実的に困難であり、数センチのずれでも磁気結合が大きく変動し、出力電流・電圧が不安定になる。特にリチウムイオンバッテリーは、寿命と安全性のため「定電流(CC)→定電圧(CV)」の2段階充電プロトコルが必須であるため、システムの出力安定性が極めて重要だ。

従来の解決策では、複数のコンデンサやインダクタを組み合わせた補償回路や、送受信側に多数のスイッチング素子を配置する方式が提案されてきた。しかしこれらの設計はシステムの複雑化、コスト増、故障リスクの上昇を招き、国際標準であるSAE J2954(79–90 kHz帯)との互換性の問題もあった。

二重の技術革新

李らが提案したシステムは、「段階積層コイル(SSC)」構造と「可変周波数再構成型S/SP制御戦略」の二つの革新により、これらの課題をシンプルかつ効率的に解決する。

1. SSCコイル設計

従来の矩形コイルでは、中心位置からのずれに伴い結合係数が急激に低下する。これを克服するため、メインコイルの周縁部に補助コイルを戦略的に配置した。送信側ではY軸方向に2つの補助コイルを積層し、受信側ではX軸方向に配置する非対称構造を採用。位置ずれが生じた際、メインコイルと補助コイルの結合変化が相殺されるように設計された。

具体的には、X軸方向にずれた場合、受信側補助コイルの一方が送信側の強磁界領域に入り、もう一方が領域外に出る。この時、補助コイルの結合増加分がメインコイルの減少分を相殺し、全体の結合係数が平坦化される。数値最適化アルゴリズムを用いてコイル寸法や巻数を調整し、±187mmのずれ範囲で結合変動率5%未満を達成した。

2. 周波数再構成制御

複雑な回路切り替えを不要とするため、受信側1つの機械式スイッチと動作周波数の変更で充電モードを切替える手法を開発。二つの補償トポロジーを採用する:

  • S/Sモード(定電流):80.5kHzで動作。スイッチ開放時、直列コンデンサ配置によりCC出力を実現。
  • S/SPモード(定電圧):85.0kHzに周波数をシフト。スイッチ閉鎖で並列コンデンサを追加接続しCV出力に移行。

各モードで使用するコンデンサを共通化することで部品点数を削減。ゼロ位相角(ZPA)条件を満たすことで、効率91.24%(CC)・93.3%(CV)の高効率伝送を両モードで維持する。

実証実験の結果

500Wプロトタイプを用いた実験では、位置ずれに対する堅牢性が確認された:

  • X軸方向187mm(送信コイル径の55%)ずれ:結合係数変動5%未満
  • Y軸方向120mmずれ:変動率1%
  • 定電流モード:6.3A±3.58%
  • 定電圧モード:74V±4.83%

これらの値は従来システムに比べ大幅な改善を示し、バッテリー充電プロファイルの厳密な遵守を可能にした。

産業へのインパクト

本技術は自動車メーカーに対し、以下のメリットをもたらす:

  1. コスト削減:コンデンサ数を7個から3個に削減
  2. 信頼性向上:スイッチング素子の最小化
  3. デザイン自由度:車体底部の空間効率改善
  4. 規格適合性:SAE J2954標準帯域準拠

消費者にとっては、従来要求された精密な駐車位置調整が不要になり、利便性が飛躍的に向上する。充電パッドの設置位置許容範囲が広がることで、公共充電インフラの整備コスト低減にも寄与するだろう。

学術的意義

本研究は電磁気学と電力電子技術の融合的アプローチを示した点で重要である。コイル構造を単なる受動部品ではなく、能動的な制御要素として再定義したことが革新の鍵となった。また、複雑さを増すEV技術において、「単純さ」が持つ工学的価値を改めて提示した。

今後の展開

研究チームは現在、以下の拡張開発を進めている:

  • 高出力化:大型EVや急速充電への適用
  • 自動制御:バッテリー状態のリアルタイム監視とモード切替
  • 動的充電:走行中充電システムへの応用

これらが実現すれば、ワイヤレス充電は単なる駐車中の補助手段から、EVの核心インフラへと進化を遂げるだろう。

研究チーム:

李忠奇(湖南工業大学)、張晨希(湖南大学)、王建斌(湖南工業大学)、王忠梅(湖南大学)、黄守道教授(湖南大学)

掲載誌:

中国電工技術学会誌

DOI:

10.19595/j.cnki.1000-6753.tces.232107