BPニューラルネットワークを活用したEV無線充電の位置合わせ技術革新
電気自動車(EV)の普及が世界的に加速する中、充電インフラの高度化への関心が高まっている。特に注目を集めるワイヤレス電力伝送技術は、従来のプラグイン方式に比べ利便性が高いが、車両側の受信コイルと地上の送信コイルの正確な位置合わせが課題であった。これまでの技術では、位置ずれが生じると伝送効率が大幅に低下し、厳密な位置調整が求められていた。
この課題を解決する画期的な手法が、バックプロパゲーション(BP)ニューラルネットワークを応用した新しいアプローチとして発表された。本研究は、電力伝送システムから発生する電磁界を検知コイルで測定し、機械学習によって受信コイルの位置を高精度に推定するもので、実用レベルの性能が実証されている。
■ ワイヤレス充電の基本原理と課題 最新のワイヤレス充電システムでは、磁気共鳴結合を利用したエネルギー伝送が主流である。送受信コイル間の距離が20cm程度の場合、80%以上の高効率伝送を維持するには、両者の水平方向の位置ずれを10cm以内に抑える必要がある。従来は磁気センサーやRFIDタグを用いた位置検出法が試みられてきたが、追加ハードウェアが必要でコスト増や設置制約などの問題を抱えていた。
■ 機械学習を応用した新しい位置検出手法 研究チームは、送電パッド周辺に配置した4つの検出コイルから得られる電圧情報に着目。これらの電圧値と受信コイルの位置関係が複雑な非線形特性を示す点を、BPニューラルネットワークのパターン認識能力で解決した。入力層に4つの電圧値、出力層にX-Y座標を設定した3層構造のネットワークを構築し、有限要素法シミュレーションで生成した1,600データポイントから最適なモデルを構築した。
学習プロセスでは、隠れ層のニューロン数を最適化する比較実験を実施。5、10、15ニューロンの構成を検証した結果、5ニューロンのシンプルな構造が0.907cmの平均誤差という最高精度を達成した。この知見は、単純なネットワーク構造で十分な性能が得られることを示し、実装コストの低減に寄与する重要な発見となった。
■ 実環境での検証と結果 シミュレーション結果を基に、実際の充電システムを再現した試験装置を構築。390Vの交流電源とLCC-S補償回路を組み合わせ、車両の最低地上高を想定した20cm間隔で評価を実施した。4つの検出コイルには、整流ダイオードとRCフィルタを組み合わせた信号処理回路を接続。マイクロコントローラで取得したデータを事前学習済みネットワークに入力し、位置座標をリアルタイム算出するシステムを構築した。
実測データを用いたテストでは、シミュレーション結果と高い整合性を確認。代表的なテストポイント(-2.5cm, -7.5cm)で1.8cmの誤差が生じたものの、全体的な平均誤差は1.5cm以内に収まり、実用に耐える精度を実証した。測定ノイズや手動位置決めの誤差が要因と考えられる誤差も、許容範囲内に抑制されている。
■ 技術的特徴と実用メリット 従来技術との最大の差異は、追加ハードウェアが不要な点にある。既存の充電パッドに検出コイルを統合可能で、専用センサーや外部デバイスを必要としない。ソフトウェア中心の設計により、システムアップグレードや環境変化への適応も柔軟に対応可能である。
具体的な実装例として、車載制御装置に学習済みモデルを組み込み、充電ステーション側の簡易回路と連携する構成が提案されている。ドライバーへの視覚・音声ガイダンスや、自動駐車システムとの連動により、ユーザー体験の向上が期待される。
■ 産業界への波及効果 商用車分野では、バスや配送車両の充電時間短縮による運用効率改善が期待できる。充電スポットの処理能力向上により、待機時間削減と利用者満足度向上が同時に実現可能だ。更に、省エネ性能の向上は部品寿命の延長につながり、サステナビリティ目標達成に寄与する。
安全面では、国際電気標準会議(IEC)が定める電磁界曝露基準の厳守が重要課題であった。本技術の高精度位置合わせにより、不要な漏洩磁界を低減し、医療機器などへの干渉リスクを軽減できる。
■ 将来の展開可能性 現在の二次元位置検出から、三次元座標(Z軸)や姿勢角(ピッチ・ヨー)への拡張が次の研究段階として想定される。路面の傾斜や車両の荷重状態変化への対応が可能になれば、より複雑な実環境での適用範囲が広がる。
マルチコイル送電システムとの組み合わせでは、検出位置に応じて最適な送電コイルを選択起動するインテリジェント制御が実現可能。待機電力の削減と伝送効率の最大化を両立する高度な運用が期待される。
■ 業界標準化への影響 自動車技術会(SAE)やワイヤレスパワーコンソーシアム(WPC)が進める規格策定において、本手法が位置検出の基準技術として採用される可能性がある。特に学習機能を組み込んだ自己適応型システムは、将来の規格拡張において重要な位置を占めるだろう。
この研究は電気工学と人工知能の融合が生み出した成功例であり、異分野連携の重要性を改めて示すものとなった。都市の電動化が進む現代社会において、技術的信頼性とユーザー利便性を両立するソリューションとして、広範な普及が見込まれる。
(著者情報)
パン・ジーシン(江蘇方天電力技術有限公司)
ヤン・シャオメイ、ワン・チェンリャン(国網江蘇省電力有限公司)
フェイ・イージュン、シュー・チンチャン、リー・チェンユン(東南大学)
掲載誌:『Electrical Measurement & Instrumentation』2024年2月号
DOI:10.19753/j.issn1001-1390.2024.02.029