EV用双方向DC-DCコンバータの動的負荷応答を改善する新型ファジィ重み調整モデル予測制御

EV用双方向DC-DCコンバータの動的負荷応答を改善する新型ファジィ重み調整モデル予測制御

電気自動車(EV)の電力システムにおいて、高電圧バッテリーと補機用低電圧システムを接続する双方向DC-DCコンバータの制御技術が進化した。北京情報科学技術大学を中心とする共同研究チームは、従来のモデル予測制御(MPC)にファジィ推論を融合した革新的な制御手法「F-VMPC」を開発し、急激な負荷変動下での電圧安定性を大幅に向上させる成果を発表した。

この新手法は、従来の比例積分(PI)制御や固定重みMPCが抱えていた課題を解決する。特にEVの実走行環境で頻発する急加速や回生ブレーキ、複数電子機器の同時作動時において、出力電圧のオーバーシュート抑制と応答速度の両立を実現した。シミュレーションでは70Ωから10Ωへの負荷急変時に、従来MPC比で26.1%の平均オーバーシュート低減を記録。40Ω負荷変動時では0.01Vの微小偏差しか生じず、PI制御(0.4V)や従来MPC(0.16V)を大きく上回る安定性を示した。

制御アルゴリズムの中核は、ファジィ推論による重み係数の動的調整にある。入力電圧と出力電圧偏差をファジィルールで評価し、MPCのコスト関数内で制御入力(デューティ比)の重みを逐次最適化する。この柔軟な適応機構により、システムの状態変化に即応した制御動作が可能となる。研究チームはTakagi-Sugeno型ファジィモデルを採用することで、組み込みシステムでも実行可能な軽量な計算負荷を実現した。

実機検証では200kHzのスイッチング周波数で動作する双方向コンバータプロトタイプを使用。STM32F030K6T6マイコンを搭載したHM-cSPACE制御システムによる実験で、40Ωから20Ωへの負荷ステップ変化時でも0.2ms以内の短い整定時間を確認。定常状態誤差もPI制御を下回り、実環境での有効性が証明された。

この技術革新は、EVの機能安全向上に直接寄与する。ADAS(先進運転支援システム)やECU(電子制御ユニット)をはじめ、12V/24Vバスに接続される安全関連システムは電圧変動に極めて敏感だ。特に回生ブレーキ時の昇圧モードや高消費電力機器の突入電流発生時において、F-VMPCの迅速な電圧制御がシステム全体の信頼性を高める。

自動車産業がソフトウェア定義型技術へ移行する中、F-VMPCはOTA(遠隔更新)による制御パラメータ最適化との親和性が高い。粒子群最適化など計算集約的な手法と異なり、ファジィ推論ベースの重み調整は組み込みリソースを圧迫しない。既存のMPC制御システムへ外付けモジュールとして追加可能な柔軟性も、実用化プロセスを加速する要因となっている。

応用可能性は双方向コンバータに留まらない。モータードライブ用インバータや車載充電器、V2G(車両から電力系統への給電)システムなど、動的負荷を扱う全ての電力変換装置への転用が期待される。研究チームは今後、パワーエレクトロニクス全般に適応可能な汎用的な制御理論基盤の構築を目指すと表明している。

EVの高度化に伴い、補機システムの電力需要は指数関数的に増加する。F-VMPCがもたらす電力品質向上は、バッテリー容量最適化やシステム軽量化にも波及効果を及ぼす。消費電力の変動リスクをソフトウェア制御で吸収することで、ハードウェア設計の余裕度を拡大できる可能性を秘めている。

自動車メーカー各社は、今回の成果を次世代プラットフォーム開発に組み込む検討を開始していると伝えられる。中国を中心としたアジアの研究機関がEV技術開発を牽引する現状を反映するように、学術界と産業界の協働体制が更なる技術ブレークスルーを生み出しつつある。


執筆者:
Ma Bin¹,²,³/Shi Yongle¹/Chai Haonan⁴/Jiang Wenlong⁵/Chen Yong¹,²,³
所属機関:
¹ 北京情報科学技術大学 機械電気工学部
² 北京新エネルギー自動車実験室
³ 北京共同創造電気自動車研究センター
⁴ 北京ニュークリアストン創技術有限公司
⁵ 中国人民公安大学 公安交通管理学院

掲載誌:『重慶理工大学学報(自然科学版)』2024年38巻7号12-20頁
DOI:10.3969/j.issn.1674-8425(z).2024.07.002