新型ワイヤレスEV充電システム:位置ずれ耐性と定電流出力を両立
電気自動車(EV)向けワイヤレス充電技術の実用化に向け、上海電力大学校の研究チームが画期的な進展を発表した。送受電コイルの位置ずれに強く、広範囲なオフセット条件下でも安定した定電流出力を維持する新型システムを開発。これにより、従来課題であった充電効率の急激な低下や出力不安定を解消し、ユーザーフレンドリーなインフラ実現に道を開いた。
コイル構造と補償回路の共進化が鍵
本システムの核心は、独自の「DDQDコイル」とハイブリッド補償トポロジーの組み合わせにある。DDQD(Double D Quadruple D)コイルは、単極(ユニポーラ)層と四極(クワッドラポール)層を積層した構造を採用。両層間の磁気的デカップリングを実現し、位置ずれ時の相互干渉を排除した。従来のDDQコイルが一方向の位置ずれにしか対応できなかったのに対し、四極配置の対称性によりX/Y軸双方の広範囲なオフセットを許容する。
磁場シミュレーション(ANSYS Maxwell)では、140mmまでの位置ずれでも層間のクロスカップリングが実質ゼロを維持。結合係数の緩やかな低下特性を示し、動作安定性を確保している。これは、従来のコイル設計で頻発した中央部の「磁気ヌルポイント」問題を克服した点で画期的だ。
相反特性を活用したハイブリッド補償
コイル設計に加え、LCCとLC補償回路を直列接続したハイブリッドトポロジーが安定出力の要因だ。位置ずれによる相互インダクタンス変化に対し、LCC回路は出力電流が減少し、LC回路は増加するという相反特性を示す。両者の特性をパラメータチューニングで相殺させることで、最大100mmの位置ずれ範囲内で出力電流変動を±5%以下に抑制。85kHzの動作周波数(国際標準準拠)下で、84.4%以上のエンドツーエンド効率を維持した。
このパッシブ設計は、リアルタイム制御やセンサー機構を不要とする点が特徴。複雑な車両-充電器間通信に依存せず、システムの信頼性向上とコスト削減を両立している。特に定電流特性は、バッテリーのバルク充電フェーズでの安全性向上に直結する利点を持つ。
実用化に向けた競争力
従来技術との比較では飛躍的な進歩が明らかだ。位置ずれ耐性ではX/Y軸双方でコイル幅の33.3%(従来は片軸最大49.3%)、電流リップル5%未満、最高効率87.6%を達成。部品統合により補償用インダクタをコイル自身で代用し、システムのコンパクト化にも成功している。
自動車業界関係者からは、この技術が「近似充電」の新標準となる可能性が指摘される。路上駐車場や自動バレットシステムでの運用に加え、家庭用ガレージでの微妙な位置ずれを気にする必要がなくなる。商用EVやフォークリフトなど、頻繁な充電を要する用途での導入メリットも大きい。
次世代規格への影響と展望
SAE J2954をはじめとする国際標準化団体が本技術の動向を注視している。広域位置ずれ耐性を備えつつ周波数帯域を準拠する設計は、グローバルな相互運用性を前提とした規格策定に影響を与えそうだ。研究チームは現在、実機プロトタイプを用いた熱設計検証や外国物検知(FOD)機能の実装に着手。100mmを超える位置ずれ対応やゾーン充電技術の開発にも言及している。
社会実装への期待
研究リーダーのタン・ジョン教授は、「研究室の数値向上ではなく、日常の不確実性に耐えるシステム設計を追求した」と開発思想を強調。運転者が充電を意識せず、従来の有線充電以上の利便性を提供する技術基盤が整いつつある。自動車メーカーと充電インフラ事業者の協業が進めば、近い将来、駐車精度を気にしない「置くだけで充電」が都市の新常識となるだろう。
著者: リャン・ユーチン、タン・ジョン(上海電力大学校 電気工学科)
掲載誌: Power System Protection and Control、Vol. 52, No. 15, 2024年8月1日
DOI: 10.19783/j.cnki.pspc.240034