自動車メーカーが電動化戦略を見直す中でEV移行が減速

自動車メーカーが電動化戦略を見直す中でEV移行が減速


業界の方向転換と現実的な課題

2025年半ばまでに、世界の自動車産業は完全電動化への急速な移行を見直し始めている。経済的圧力の高まり、充電インフラの遅れ、消費者の需要不振を受けて、米国と欧州の主要自動車メーカー(OEM)は電動化の目標期間を延長し、ハイブリッド車の再導入、さらには内燃機関(ICE)への再投資に動いている。従来の「近い将来に完全電動化が実現する」という予測とは異なり、2023年と2024年初頭のデータは、電池式電気自動車(BEV)がハイブリッド車、水素ソリューション、ネットゼロの液体燃料と数十年にわたって共存する現実的な道筋を示している。


販売データが示す厳しい現実

2023年、米国で販売されたクラス8大型トラックのうち電気自動車はわずか0.2%(441台/25万台超)に留まった。欧州でも電気トラックのシェアは1.05%だった。乗用車市場では、ICE車の優位性がさらに顕著である。米国販売車両の92.2%、欧州の85.4%が依然としてガソリンまたはディーゼルエンジンを搭載している。規制強化や巨額の研究開発費にもかかわらず、移行が短期的に直線的または必然的でないことをこれらの数値は物語る。


規制緩和の潮流

かつて電動化の主な推進力とみられていた規制も後退している。2024年3月、米国環境保護庁(EPA)は2032年までの軽・中型車向け「フェーズ3」温室効果ガス規制を最終決定した。文面上は「2032年までにBEV普及率30~56%」という野心的な目標を掲げる一方、「電気自動車」の定義をプラグインハイブリッド(PHEV)や従来型ハイブリッド車まで拡大。インフラ不足や消費者心理を考慮し、規制導入スケジュールの遅延も認めた。

欧州連合(EU)の法制度も同様の調整が見られる。2024年4月に欧州議会が承認した「2035年以降の新車販売における排気CO₂100%削減」法案は、ネットゼロ合成燃料(eFuel)を使用する車両を事実上のICE禁止対象から除外した。商業車分野では2040年までにCO₂排出90%削減を課すが、こちらもeFuel適用車への免除条項を含む。BEV単独では脱炭素を達成できない運輸分野の現実を、規制当局が認識した結果といえる。


自動車メーカーの戦略転換

フォード・モーター・カンパニーは、2024年第1四半期にEV部門「モデルe」で13億2000万ドルの損失(販売1台あたり6万5000ドル超)を計上。米国と欧州でのEV展開計画を延期し、大型SUVやピックアップトラック向けICE生産への再投資を発表した。ゼネラル・モーターズ(GM)は「2035年完全電動化」という従来方針を修正し、ハイブリッド車市場に回帰。メルセデス・ベンツはEV目標を5年遅らせ、ICE車種を拡充した。

トヨタ自動車は一貫して「多様な選択肢」を提唱する。豊田章男会長は「2030年時点でBEVの世界シェアは最大30%に留まり、残りはハイブリッド、PHEV、燃料電池車、水素エンジンが占める」との見解を堅持。同社が提唱する「1:6:90の法則」は、リソース効率の観点からハイブリッド技術の優位性を強調する。限られた電池材料で「BEV1台」「PHEV6台」「ハイブリッド90台」を生産する場合、日本の化石燃料依存率の高い電力網(3分の2が石炭・ガス発電)を考慮すると、90台のハイブリッド車が生み出すCO₂排出量(328グラム/マイル)はBEVのみの車両(400グラム/マイル)を下回る。


新興EVメーカーの苦戦

新興勢力の苦境も業界再編を後押しする。ピュアEVメーカーのリビアン・オートモーティブは2023年に39億8000万ドルの調整後損失(1台あたり約8万ドル)を計上。2024年も5万7000台の販売を見込むが、27億ドルの追加損失が予測される。補助金なしでは持続不可能な経済性が露呈し、価格引き下げによるマージン圧迫も懸念材料だ。


商用車分野における技術的多様性

商用車分野では技術選択がさらに複雑化。ダイムラー・トラックは「水素燃焼エンジンと燃料電池」を推進し、「電池のエネルギー密度は水素タンクの30分の1」と指摘。フォルクスワーゲングループの商用車部門トラートンは地域輸送向けBEVを維持する一方、ボルボ・トラックスは「脱炭素化に万能策はない」と多様な技術の併用を主張する。

天然ガス車は欧米で存在感を失いつつある。ディーゼル比でCO₂を削減する一方、メタン漏出の問題が気候效益を相殺。20年スパンでメタンの温室効果はCO₂の82.5倍に達するため、政策当局は真のネットゼロ燃料へ軸足を移している。


代替燃料の台頭

米国では再生可能ディーゼル、欧州ではeFuelが注目を集める。廃油や動物性脂肪を原料とする再生可能ディーゼルは、既存エンジンでの使用が可能。米国輸送研究所の分析によれば、クラス8トラックの燃料切り替えによりライフサイクルCO₂を67%削減可能で、電力網の化石燃料依存を考慮したBEV(30%削減)を上回る。

欧州のeFuelは、回収したCO₂とグリーン水素を合成して製造。現時点では高コストだが、2030年までの量産化を目指す独西の実証プロジェクトが進行中だ。既存の燃料インフラを活用できる点も強みで、BEV向け送電網と充電設備に必要な巨額投資を回避できる。


資源調達の壁

最大の障害は技術ではなく資源調達にある。国際エネルギー機関(IEA)は「2030年のEV生産目標達成には、リチウム鉱山50か所、ニッケル60か所、コバルト17か所の新規開発が必要」と試算。投資会社テックメットは「2035年までに380の新鉱山が必要」と予測するが、鉱山開発に10~15年を要する現実を考えると実現性は乏しい。加えて、中国がアノード用グラファイト精製の90%、レアアース85%、リチウム71%、コバルト65%を支配する状況は、OPECの原油生産シェア(38%)を超える供給リスクを孕む。


「適材適所」アプローチの広がり

米国運輸省が2023年に発表した「脱炭素化ブループリント」は、2050年までに多様な技術を組み合わせる戦略を提示。都市部の軽自動車はBEV、一般消費者向けにハイブリッド、長距離トラックは水素燃料電池、航空・船舶・既存車両にはネットゼロ液体燃料を割り当てる。イデオロギーより実践的な排出削減を優先する姿勢が明確だ。

鋳造技術の専門家スティーブ・ドーソン博士(シンターキャスト)は「トヨタの予測が正しければ、2030年のICE生産台数は2019年を上回る」と指摘。世界の自動車販売台数は2023年の9250万台から2030年には1億1500万~1億2000万台に拡大し、エンジン需要は物流需要の拡大(2050年までに貨物量が2005年比116%増)と相まって持続すると予測する。


結論:脱炭素≠電動化

H・L・メンケンの言葉を借りれば「複雑な問題には、単純で整然とした誤った解決策が存在する」ものだ。自動車産業は長年「BEV一本足打法」を追求してきたが、今や複雑性を受け入れる段階に来ている。消費者、規制当局、投資家が共通して認識し始めたのは、電動化・分子技術・機械的イノベーションを組み合わせた「多様なポートフォリオ」こそが、持続可能で経済的に成立する未来への唯一現実的な道筋だという点である。


執筆者:スティーブ・ドーソン
所属:シンターキャストAB
掲載誌:モデナン・キャスティング
DOI: 10.1016/j.modcast.2024.07.003