地下駐車場のEV火災危機:普及拡大に潜む安全リスク

地下駐車場のEV火災危機:普及拡大に潜む安全リスク

電気自動車(EV)の普及が中国の都市部で加速する中、新たな危険が地下空間で顕在化している。リチウムイオン電池の独特な火災リスクに対応できていない地下駐車場の構造問題が専門家の間で緊急課題となっている。2021年末時点で780万台を超えるEVが走行し、充電インフラが急拡大する一方、建築基準法の更新や規制の統一が追い付かず、地下インフラの安全対策が技術進化に遅れを取っている現状が浮き彫りになっている。

従来の内燃機関車両と異なり、EVは高電圧バッテリーに膨大なエネルギーを貯蔵する。これが損傷すると、900度を超える高温火災(ガソリン火災の約2倍)を発生させ、フッ化水素(HF)、一酸化炭素、メタンなどの有毒ガスを放出。さらに電解液の化学反応により、鎮火後数時間から数日後に再燃する特性を持つ。閉鎖的で換気が不十分な地下空間では、単体の車両火災が建物全体の危機に発展する可能性が極めて高い。

2019年制定の「分散型EV充電施設技術基準」では基本的な指針が示されたものの、既存構造の根本的な改修を義務付ける内容ではない。特に2019年以前に建設された住宅団地の地下駐車場では、防火区画の不備、排煙設備の未整備、熱暴走を抑制する水冷システムの不足など、基本的な安全対策が施されていないケースが数千件に及ぶ。

現場調査では、無秩序な設備設置が重大な脆弱性を生んでいる。住宅地では所有者が第三者製充電器を無許可で設置する事例が後を絶たず、配線の乱雑さや火災報知システムとの非連動が常態化。商業施設では管理会社が充電設備を一括設置する傾向があるものの、防火審査を経ないケースが大半である。立体駐車装置に関しては、重量制限に加え、可動式プラットフォームへの安全な給電技術が未成熟なため、充電機能の導入がほぼ皆無という状況が続く。

南京市都市建設建築設計諮問株式会社の張 毅(チョウ・イ)首席設計官は「根本的な問題はEVの存在そのものではなく、化学反応装置のようなエネルギー貯蔵システムを燃料ベースのインフラに無理に組み込んでいる点にある」と指摘する。同氏が建築専門誌で発表した最新研究では、地下空間の防火戦略を「空間設計の最適化」「防火区画の強化」「建築構造の耐性向上」「避難経路の再設計」の4本柱で構成する総合アプローチを提唱している。

中核概念となる「防火ユニット」は、標準的な防火区画内に設ける1,000平方メートル未満のEV専用エリア。2時間以上の耐火性能を持つ隔壁で囲み、Bクラス防火扉で分離。歩行者用避難路から物理的に隔離することで、延焼リスクを封じ込める設計だ。

新規建設の地下駐車場には「EV完全対応」を前提とした設計が求められる。具体的には充電器用の導管スペースの事前確保、電力インフラの増強、リチウムイオン火災に特化したスプリンクラーシステムの導入などが必須。住宅団地では初期設置率10%の場合でも、全駐車スペースをEV防火基準で設計する「将来性担保型」の手法を推奨。充電設備の拡張時に安全基準を低下させない事前対策が肝要だとしている。

設置場所の選定にも厳格な基準が必要だ。急速充電器は発熱量が大きいため、換気効率が良く救急対応が迅速な地下1階(B1)に限定。地下2階以深では煙の視界不良や避難時間の遅延が懸念されるため設置を推奨しない。さらにディーゼル発電室や鉄道線路近くなどの振動源から充電ゾーンを遠ざけることも重要。機械的ストレスがバッテリー接続部の緩みや劣化を引き起こす危険性がある。

人間工学の観点からは、既存駐車場で頻発する「充電器と車体の密着設置」問題への対策が急務。車両ドアの干渉を防ぎ、メンテナンス空間を確保するため、充電器と車両の間に最低0.4メートルの緩衝地帯を設定。柱への反射材コーナーガード、触知可能な床面表示、死角解消用の凸面鏡など、衝突防止策の導入を義務付けるべきだと提言する。

避難計画では従来の想定を超えたリスクに対応する新基準が必要だ。EV火災では最大6メートル飛散する燃え殻が瞬時に避難路を遮断するため、避難通路から充電設備や配線を完全に排除。1つの防火区画内に複数の非常口を分散配置し、特定の経路が閉塞されても代替脱出が可能な設計が求められる。隣接ユニット間での階段共有は、Aクラス防火扉による煙侵入防止を条件に容認される。

既存構造の改修に対する規制強化が特に緊急性を要する。現行制度では建物所有者が無審査で充電器を追加できるため、2019年以前の駐車場改修時には必ず防火専門技師による構造負荷・電力容量・区画管理・避難経路の4項目審査を義務付けるよう提唱。無許可の「DIY電化」が地下空間を火薬庫に変える現状を打破する必要性を強調する。

中国が掲げる「2030年炭素排出ピークアウト、2060年カーボンニュートラル」目標がEV普及を後押しする一方、インフラ基準の遅れが市民の信頼を損ねかねない状況にある。2022年の調査ではEV火災が四半期で640件を超え、従来車両の火災率を上回る勢いだ。1件の地下火災が建物全体の避難誘導や構造損傷、最悪の場合、人的被害を引き起こす可能性を考慮すれば、抜本的な対策が急務である。

国際的には欧米の消防当局がEV車庫火災に対し、バッテリー冷却のため数千ガロンの放水を継続する新対応マニュアルを導入。専用の「EV防火室」を備えた駐車場建設を義務付ける都市も現れ始めた。地下都市開発が突出する中国では、さらに踏み込んだ対策が求められるだろう。

張氏の研究は自治体が次世代建築基準を策定するタイミングで発表され、技術的実現性を兼ね備えた設計指針として注目を集めている。安全性をEV時代の事後対応ではなく、設計段階からの必須要素と位置付ける点が特徴的だ。

開発業界にとって地下駐車場はもはや不動産付加価値ではなく、EV生態系の要となるインフラであることを認識する必要がある。政策立案者は普及促進と安全規制の両立という難題に直面し、建築関係者は地下空間を「受動的な保管庫」から「エネルギー転換に対応した智能環境」へと再定義する使命を負っている。持続可能なモビリティ社会実現の道は、地下空間の防火革新なくして成立しない。

(筆者:張 毅(チョウ・イ)、南京市都市建設建築設計諮問株式会社、建築ジャーナル、DOI: 10.19875/j.cnki.jzywh.2024.08.013)