スマート充電誘導でEVの利便性向上
電気自動車(EV)の普及が加速する中、ユーザーの利便性を高めるための画期的な研究が中国で発表された。国网江苏省電力有限公司電力科学研究院の袁暁冬(エン・キョウトウ)氏をリーダーとする研究チームは、車両とインフラが通信する「車両インターネット(IoV)」環境を活用し、EVユーザーの充電体験を最適化する新たな「能動的充電誘導モデル」を提案した。この研究成果は2024年4月10日、電力システム分野の権威ある学術誌『Automation of Electric Power Systems』に掲載され、DOI: 10.7500/AEPS20230730001 が付与されている。
この研究の核心は、単に最短距離を案内する従来のナビゲーションから一歩進み、ユーザーの「総合的な時間コスト」を最小化することにある。この時間コストとは、目的地の充電ステーションまでの「走行時間」と、到着後に充電器が空くのを待つ「待ち時間」の合計を指す。EVユーザーにとって、充電器の前で長時間待つことは大きなストレス要因であり、これが普及の妨げとなる可能性もある。本モデルは、この二つの時間をリアルタイムで予測・最適化することで、よりスマートでストレスフリーな充電体験を提供することを目指している。
研究チームは、この複雑な最適化を実現するために、二つの高度な技術を統合した。第一に、走行時間を精密に予測するための「改良型A*経路探索アルゴリズム」がある。一般的なカーナビは、道路の長さや平均速度に基づいて経路を計算するが、これは都市部のような複雑な交通環境では不十分だ。本研究では、信号機での待機時間や、ドライバーが自然と避ける「引き返し運転」の傾向といった、現実の交通状況を反映した要素をアルゴリズムに組み込んだ。これにより、信号のタイミングや交通渋滞をリアルタイムで反映した、より正確な所要時間の推定が可能になった。この情報は、道路網の「時空間状態行列」として管理され、常に最新の交通状況に合わせて更新される。
第二の柱は、充電ステーションでの「待ち時間」の予測である。ここでは、待ち行列理論の「M/G/kモデル」が採用された。このモデルは、サービス(充電)の時間が一律ではない現実(例えば、バッテリーの残量が少ない車は長く充電が必要)を巧みに扱える点で優れている。しかし、このモデルを正確に運用するには、将来の「車両到着率」を予測する必要がある。そこで研究チームは、深層学習の一種である「ディープ・ビリーフ・ネットワーク(DBN)」を活用した。DBNは、過去の充電ステーションの利用データ(時間帯、曜日、天候、気温、周辺の交通状況など)を学習し、短時間先の到着車両数を高精度で予測する能力を持つ。この予測された到着率と、実際の充電時間の統計的分布を組み合わせることで、モンテカルロ・シミュレーションを用いて、将来の待ち時間をリアルタイムで予測する。
この二つの技術が統合された能動的充電誘導システムの動作は、非常にダイナミックである。ユーザーが充電を開始すると、システムは周囲の複数の充電ステーションを候補としてリストアップする。そして、それぞれのステーションについて、上記の手法で「走行時間」と「待ち時間」を計算し、その合計が最も短くなるステーションを「最適な選択肢」として提示する。しかし、ここで終わらないのがこのモデルの特徴だ。車両が出発してから目的地に到着するまでの間、交通状況や他のEVの充電行動は刻々と変化する。そのため、システムは車両が走行中も継続的に情報を更新し、最適な経路と最適な充電ステーションを再計算し続ける。例えば、目的地に向かっていたが、途中で別のステーションの待ち時間が劇的に短くなった場合、システムは即座にルートを変更し、新たな最適先を案内する。これは、静的な案内ではなく、常に最適な状態を追いかける「能動的」な誘導である。
このモデルの有効性は、中国・南京市の中心部を対象とした大規模なシミュレーションで検証された。900台のEVがランダムに生成され、従来の「最短距離の充電ステーションへ案内する」という静的な方法と、本研究の能動的誘導モデルの両方を適用して比較した。その結果は驚くべきものだった。能動的誘導モデルは、従来の方法に比べて、走行時間で18.49%、待ち時間で31.67%、そしてユーザーの総合的な時間コスト(走行+待ち)で27.27%の削減を達成した。これは、ユーザーの立場からすれば、充電にかかる時間が約4分の1も短縮されたことを意味する。
さらに重要なのは、このモデルがもたらす「インフラの最適化効果」だ。静的な案内では、地理的にアクセスしやすい特定の充電ステーションにEVが集中し、一方で他のステーションは空いているという「偏り」が生じる。これは、一部のステーションでは長蛇の列ができ、他のステーションの設備は無駄にされるという、非効率な状態を招く。しかし、能動的誘導モデルは、EVを全体的にバランスよく分散させる効果がある。シミュレーションでは、午後3時のピーク時において、充電ステーションの平均利用率が69.50%から89.47%へと大幅に向上した。これは、インフラの有効活用が進み、運営会社が新しい設備を増設する必要を遅らせたり、コストを削減したりできる可能性を示している。
この研究は、EVの普及を単なる車両の置き換えではなく、交通システム全体のスマート化という視点で捉えている点で、非常に先進的である。研究チームは、ユーザーの利便性向上という直接的な利益に加え、都市の交通渋滞緩和、電力網の安定化という社会全体の利益にも貢献すると指摘している。EVが一斉に充電を始めると、地域の電力需要が急激に上昇し、電力網に負担をかける「ピーク需要」が発生する。しかし、本モデルのように充電需要を時間的にも空間的にも平準化できれば、このピークを緩和し、より安定した電力供給が可能になる。
また、研究チームはこのモデルのさらなる発展の可能性にも言及している。現行のモデルは主に「時間」を最適化しているが、将来的には「価格」も考慮に入れることが可能だ。例えば、充電料金が時間帯によって変動する「ダイナミックプライシング」が普及すれば、システムは「最も安い時間帯に最も効率の良いステーションで充電する」という、時間とコストの両面で最適なプランを提示できるようになる。これにより、ユーザーの経済的負担も軽減される。
本研究は、袁暁冬氏、甘海慶(カン・カイケイ)氏、王明深(オウ・メイシン)氏、滕欣元(トウ・キンゲン)氏、阮文駿(ゲン・ブンシュン)氏、龍寰(リュウ・カン)氏の6名が共同で執筆し、国网江苏省電力有限公司電力科学研究院、国网江苏省電力有限公司、東南大学電気工学学院の3機関が協力して行われた。研究は中国国家重点研究開発計画の支援を受けており、産学官の連携による実用性の高い成果と言える。
この能動的充電誘導モデルは、EVの「走る」だけでなく、「充電する」体験を根本的に変える可能性を秘めている。今後、5Gや次世代通信技術の発展により、車両とインフラ、そして他の車両との情報交換がより高速・高精度に行われるようになれば、このようなスマートな誘導システムは、EVの日常的な利用をさらに円滑で魅力的なものに変えていくだろう。電気自動車の未来は、単にモーターとバッテリーの進化だけでなく、こうしたインテリジェントなインフラとの融合によって、より豊かに広がっていく。
袁暁冬,甘海慶,王明深,滕欣元,阮文駿,龍寰,『Automation of Electric Power Systems』,DOI: 10.7500/AEPS20230730001