電気自動車用磁気結合型ワイヤレス充電の新技術
電気自動車(EV)の未来における重要な一歩が、中国の研究チームによって踏み出された。深圳大学をリードとする研究チームは、磁気結合型ワイヤレス充電技術の分野で画期的な成果を発表した。この技術革新は、EVの普及に伴いますます重要となる、より便利で安全、かつ効率的な充電インフラの構築に向けた大きな前進を示している。世界中の自動車メーカーが電動化へのシフトを加速する中、充電の手間を省き、自動運転との統合を可能にするワイヤレス充電技術への期待は高まっている。今回発表された成果は、効率、安全性、そして互換性という三つの核心的な課題を同時に解決する包括的な技術パッケージであり、単なる性能向上にとどまらず、業界全体の標準化と実用化を牽引するものである。
本プロジェクトは、中国の国家戦略「新エネルギー自動車産業発展計画(2021-2035年)」に直接呼応するものであり、特に「スマートで秩序ある充電、大電力充電、ワイヤレス充電などの新技術の研究開発を強化する」という方針を具現化した。研究チームは、深圳大学の田勇准教授をリーダーとし、中興新エネ科技有限公司、中国自動車技術研究センター有限公司、中国電力科学研究院有限公司といった業界の重鎮と連携して、長年の研究開発を経てこの成果を達成した。その目的は、海外企業が特許と標準で囲い込みを進める「ネックボトル」状態を打破し、中国が独自の知的財産と標準体系を構築することにあった。この取り組みは、技術の自立だけでなく、産業全体の持続可能な発展を支える基盤を築くものである。
本技術の第一の柱は、「高効率回路トポロジーおよび電力制御技術」である。従来のワイヤレス充電システムは、車両が充電パッドの真上に正確に停車しないと、電力伝送効率が急激に低下するという致命的な弱点があった。これは、ユーザーの利便性を著しく損ない、実用化の大きな障壁となっていた。研究チームは、この問題を根本から解決するために、二次側(車両側)に制御可能な整流回路を採用する新しい回路構成を発明した。この設計により、システムは車両の位置ズレ(横方向、縦方向)や車両の地上高さ(充電距離)といった変動要因に対して、動的に電力フローを最適化できるようになった。
その成果は目覚ましいものである。3.3kWのシステムでは、横方向に-75mm、縦方向に100mmずれ、かつ140mmの地上高という、実際の駐車シーンでよくある厳しい条件下でも、システム全体の効率が93.2%に達した。これは、実用性の観点から極めて高いレベルである。さらに、10kWの大電力システムでは、最大効率91%を記録した。特に注目すべきは、より実用的な大電力・長距離充電のシナリオでの性能だ。横方向75mm、縦方向100mmのズレに加え、地上高が210mmという、大型SUVなどでも利用可能な条件においても、効率を86.7%に維持した。この数値は、既存の商業製品が同様の条件下で80%を下回ることが多いことを考えると、大きな技術的飛躍である。この高効率は、相互インダクタンスや寄生抵抗、負荷変動といった複雑な要因をすべて考慮したパラメータ最適設計手法によって実現されている。
効率の向上に加え、システムの信頼性と安定性を支えるのが「周波数追従制御技術」である。従来の固定周波数方式では、送電側と受電側の間で位相のずれが生じやすく、無効電力が発生し、部品へのストレスが増大する。本技術は、送電側と受電側がそれぞれ独立して、最適な周波数で動作できるようにする。これにより、無効電力の循環を最小限に抑え、パワーエレクトロニクス部品の熱的ストレスを低減し、システム全体の信頼性と寿命を大幅に向上させている。また、この制御方式は、定電流充電から定電圧充電への移行など、充電プロファイルの変化にもスムーズに対応できるため、バッテリーの健康状態を最適に保ちながら効率的な充電を行うことが可能になる。
また、バッテリーの状態を正確に把握することは、安全かつ効率的な充電の根幹である。本プロジェクトでは、「適応型非線形オブザーバー」に基づく高度なアルゴリズムを開発した。これは、電圧、電流、温度のリアルタイムデータを、動的なバッテリーモデルと統合し、充電状態(State of Charge, SoC)を極めて高精度に推定する。ワイヤレス充電では電力供給が変動しやすいが、このアルゴリズムはそのような条件下でも安定した推定が可能である。さらに、この技術は単なるSoC推定にとどまらず、内部短絡やセルのバランス異常、サーマルランアウェイ(熱暴走)の兆候といった故障の早期診断も行える。これにより、危険な状態になる前にシステムが介入し、バッテリーを保護することができる。この精密な状態推定は、電力の微調整にも活かされ、最短時間で安全に充電を完了するための重要な根拠を提供する。
ワイヤレス充電技術の実用化に不可欠なのが、電磁界の安全性である。強力な電磁界を用いるため、金属の異物や生き物への影響を確実に検出し、保護する技術が必須となる。本プロジェクトは、「複雑な環境下での全シーン対応アクティブ電磁防護技術」として、この分野でも抜本的な改善を成し遂げた。
第一に、金属異物検出(FOD: Foreign Object Detection)技術である。硬貨や鍵、工具などが充電エリアに落ちていると、誘導電流により発熱し、火災ややけどを引き起こす危険がある。既存の検出技術は、感度が不足していたり、特定の位置に「死角」があったり、電力変動に弱かったりするという課題があった。研究チームは、対称的に配置されたコイルアレイを用いた検出方法を発明した。この設計により、磁場のわずかな乱れを高感度に検知でき、電力の変化や外部の電磁ノイズがある環境下でも、確実に異物を発見できる。実験では、50セント硬貨サイズの物体を100%の確率で検出し、さらに小さなクリップの検出にも成功した。この「無死角」かつ「高感度」な検出は、安全性の信頼性を飛躍的に高めた。
第二に、生物体保護(LOP: Living Organism Protection)技術である。人やペットが充電エリアに近づいた際に、電磁界の影響を受けるのを防ぐ必要がある。本プロジェクトでは、ミリ波レーダーを用いたアクティブ変調技術を世界に先駆けて導入した。従来の赤外線センサーや静電容量センサーは、車体の素材や環境温度の影響を受けやすく、誤検出や検出不能のリスクがあった。一方、ミリ波レーダーは、車体を透過して検知でき、空間分解能も高い。このシステムは、レーダー信号を能動的に変調することで、静止物と生き物(体温、呼吸による微細な動き)を正確に区別する。その検出精度は、国際的な安全基準が求める5cmの閾値を大きく上回る。さらに重要なのは、検出境界が調整可能である点だ。これは、異なる車種の地上高さの違いに応じて、安全な検出範囲を最適化できることを意味し、SUVからコンパクトカーまで幅広い車種への適用を可能にした。
技術の普及には、メーカー間の互換性(インターオペラビリティ)が不可欠である。各社が独自の規格で製品を出す「ガラパゴス化」では、消費者は特定のブランドに縛られ、インフラの整備も進まない。本プロジェクトは、「ワイヤレス充電システムの相互運用性を確保するためのキーテクノロジー」として、この問題の解決にも貢献した。
その一環として、視覚的な対位誘導システムを開発した。これは、車載カメラとディープラーニングを活用し、駐車スペースの特徴をリアルタイムで認識し、ドライバー(あるいは自動運転システム)に最適な位置を視覚的に案内する。夜間や視界が悪い環境下でも、正確に充電パッドの上に停車できるよう支援する。この技術により、一発での充電成功率が大幅に向上し、ユーザーのストレスを軽減する。
また、業界全体の標準化を支えるために、ワイヤレス充電システムの相互運用性テスト用のリファレンス装置も開発した。この装置は、3.3kW、6.6kW、10kWの主要な出力レベルに対応し、100~150mm、140~210mm、170~250mmという幅広い地上高さの範囲をカバーしている。これは、現在販売されている多くのEVモデルを網羅しており、メーカーが自社の製品をこの装置でテストすることで、互換性の有無を客観的に確認できる。このように、テスト方法、データ、装置の面から業界を支援することで、共通の基準に基づいた製品開発を促進し、公共の場でのワイヤレス充電サービスの実現を後押ししている。
本プロジェクトの影響力は、技術開発の域をはるかに超えている。研究チームは、中国で発表されたすべての7つのEVワイヤレス充電国家標準の策定に主導的または参加的な役割を果たした。これらの標準は、一般要求事項、電磁環境安全、相互運用性、通信の整合性など、技術のあらゆる側面を網羅しており、中国のEVワイヤレス充電産業の健全な発展のための法的・技術的基盤を形成している。知的財産面でも、発明特許32件、実用新案特許35件、ソフトウェア著作権3件を取得しており、技術の自立性を確固たるものにしている。
実用化の面でも、プロジェクトの成果は顕著である。16のEVワイヤレス充電デモンストレーション路線が建設され、累計走行距離は50万kmを突破した。これは、技術の信頼性と耐久性を実証する貴重な実績である。また、13種類の乗用車モデルへの技術適応が成功しており、多様な車両プラットフォームへの適用可能性を示している。商業的な応用も進んでおり、中興新エネ科技、上汽集団(SAIC)、重慶長安汽車などの大手自動車関連企業に技術が導入されている。その結果、関連産業の売上高は16.5億元(約330億円)、新規利益は4980万元以上(約100億円)を生み出し、経済的な効果も非常に大きい。
プロジェクトリーダーの田勇准教授は、深圳大学で電力エレクトロニクスと無線電力伝送の分野で長年研究を重ねてきた専門家である。彼のリーダーシップの下、本プロジェクトは技術的な発明だけでなく、産業構造の変革を目指す、包括的な成功例となった。今後、自動運転の発展とともに、駐車と同時に自動で充電が完了する「トゥルーワイヤレス」の社会が現実のものとなるだろう。その実現に向けて、本プロジェクトが築いた技術的・制度的な基盤は、極めて重要な役割を果たすに違いない。
田勇、深圳大学、China Science and Technology Achievements、DOI:10.3772/j.issn.1009-5659.2024.12.022