CO2ヒートポンプ、EVの冬の課題を克服

CO2ヒートポンプ、EVの冬の課題を克服

電気自動車(EV)の普及は世界的に加速しているが、冬の寒冷地における航続距離の大幅な低下という根深い課題が、依然としてユーザーの不安を拭い去ることができていない。内燃機関車が持つ排熱を活用できないEVは、車室内の暖房にバッテリーからの電力を直接使用しなければならず、これが冬季の「航続距離不安」の主な原因となっている。特に気温が氷点下に下がる地域では、暖房に使用される電力が膨大になり、実質的な走行可能距離は大きく制限される。この課題を解決する鍵として、近年注目を集めているのが「ヒートポンプ」技術である。しかし、従来のR134aを冷媒とするヒートポンプも、極寒環境では性能が低下し、補助的に電気ヒーター(PTCヒーター)の使用を余儀なくされることが多かった。

この難題に、新たな突破口を開く可能性を示したのが、中国の研究チームによる画期的な研究成果である。吉林大学の自動車シミュレーション制御国家重点実験室を主導とする研究チームは、天然冷媒である二酸化炭素(CO2、またはR744)を用いたヒートポンプシステムの実車走行試験を行い、その優れた性能を実証した。発表された論文によると、このCO2ヒートポンプは-23℃という極低温環境下でも、快適な車室内暖房を提供できるだけでなく、従来のR134aシステムと比較してエネルギー効率が劇的に向上するという。これは単なる技術的な進歩ではなく、EVの冬季走行の実用性を根本的に変える可能性を秘めた成果である。

この研究の最大の特徴は、実際の道路環境での走行試験を通じてデータを取得している点にある。多くの研究が制御された環境下の実験室で行われる中、本研究では-15℃と-23℃という二つの極寒条件下で、実際のEVを走行させ、車室内の温度変化やエネルギー消費量を詳細に測定した。試験車両には、足元の吹き出し口や乗員の足元に高精度のK型熱電対を設置し、空気の温度だけでなく、実際に体感する「足元温度」までをも計測している。この徹底した実地検証が、研究結果の信頼性と実用性を高めている。

-15℃の環境下での試験結果はすでに非常に優れていた。走行開始後30分間、その後10分間のアイドリングというシナリオで、運転席と助手席の足元吹き出し口温度はそれぞれ50.5℃と57.9℃まで上昇し、安定した状態を保った。これは、車両の技術仕様(VTS)で定められた快適性基準を十分に満たす水準である。さらに重要なのは、乗員の足元に設置したセンサーで測定された実際の温度が、運転席で33.1℃、助手席で41.5℃に達したことであり、これは「暖かい」と感じられる範囲内であることを示している。

しかし、真に驚くべき結果は、さらに厳しい-23℃の環境下で得られた。一般的な冷媒システムは、気温が下がるにつれて外部から熱を奪う能力が衰え、性能が急激に低下する。ところが、CO2ヒートポンプシステムはその逆の現象を示した。-23℃という極寒でも、システムは安定して動作し、足元吹き出し口温度は運転席で54℃、助手席で62℃という、-15℃時よりも高い温度を記録した。平均して約2.86%の温度上昇が見られたという。これは、CO2という冷媒が、非常に低温の空気からも効率的に熱を吸収する能力を持っていることを端的に示している。この特性は、寒冷地でのEVにとってまさに理想的なものであり、従来の技術では達成できなかった「気温が下がれば下がるほど、相対的に暖房性能が向上する」という、一見逆説的な利点を提供する。

この性能の優位性は、エネルギー効率という観点からも顕著に現れる。研究チームは、CO2システムと、R134aヒートポンプとPTCヒーターを併用する従来型システムを、ほぼ同じ条件下(約-22℃)で直接比較した。その結果、エネルギー消費量に決定的な差が生じた。CO2システムは、走行時間の経過とともに、R134aシステムとの累積エネルギー消費量の差が拡大していく。最終的に、CO2システムはR134aシステムに比べて、平均で約35.4%ものエネルギーを節約できた。これは、バッテリーの容量の35%以上を暖房ではなく走行に使えるようになったことを意味する。例えば、満充電で400km走行可能なEVが、冬の寒さで航続距離が240km(40%低下)まで落ち込むケースがあるが、CO2ヒートポンプを採用すれば、この低下を25%程度に抑え、300km以上走行できる可能性がある。これは、ユーザーの「航続距離不安」を大幅に軽減し、EVの実用性を飛躍的に高めるものである。

この劇的な節電効果の背景には、システムの動作原理の違いがある。R134aシステムは、初期の急速暖房のためにPTCヒーターに大きく依存しており、試験開始直後にはPTCヒーターだけで8.5kWもの電力を消費する。その後も、PTCヒーターが約3.2kW、コンプレッサーが約1.2kWを消費し、合計で約4.4kWの電力を必要とする。一方、CO2システムは、コンプレッサーの最大消費電力が4.2kWに達した後、すぐに3.2kW前後に安定する。この3.2kWという数値は、R134aシステムのPTCヒーター単体の消費電力と同等であり、CO2システムのコンプレッサー一つで、従来のPTCヒーターとコンプレッサーの合計よりも少ない電力で同等以上の暖房性能を発揮していることを意味する。論文では、CO2システムのコンプレッサー平均電力が、R134aシステムのコンプレッサーとPTCヒーターの平均電力の合計と比べて約28.6%低いと結論づけている。これは、電力の供給源であるバッテリーへの負担が、従来の半分以下に抑えられることを示しており、システム全体の負荷分散や、バッテリーの寿命延長にも寄与する可能性がある。

CO2を冷媒として使用することの利点は、エネルギー効率の向上だけではない。環境面での貢献も極めて大きい。R134aは、その温室効果潜能(GWP)が1300と非常に高く、地球温暖化の一因とされている。一方、CO2のGWPは1と定義されており、これは自然の基準値である。CO2自体が温室効果ガスであるにもかかわらず、冷媒としてのGWPは1とされるのは、漏洩した場合の相対的な影響度を示す指標であり、R134aに比べて数千倍も環境負荷が低いことを意味する。国際的な規制(キガリ改正)により、高GWPの冷媒の使用が段階的に削減されている中で、CO2はまさに「未来の冷媒」としての地位を確立しつつある。自動車メーカーが環境規制に先んじて、持続可能な技術を採用することで、ブランド価値の向上と、将来の法的リスクの回避が可能になる。

CO2ヒートポンプの実用化には、技術的なハードルも存在する。その最大の課題は、CO2が「超臨界サイクル」で動作するため、非常に高い圧力(100bar以上)でシステムを構成する必要がある点である。これにより、配管や接続部品に耐圧性の高い材料と、高度なシール技術が求められる。これは、初期の製造コストを押し上げる要因となる。しかし、本研究の実地走行試験が示したように、これらの技術的課題は既に克服可能なものとなっている。また、生産規模が拡大すれば、コストは必然的に低下すると予想される。現在、トヨタやBMW、VWなどの主要メーカーがすでにCO2ヒートポンプを一部の高級EVに採用していることからも、この技術が量産車に適用可能な段階に達していることがわかる。

さらに、CO2ヒートポンプは、単なる暖房装置にとどまらない。その高い熱交換能力と、システムの柔軟性により、バッテリーの加温やモーターの冷却など、車両全体の熱マネジメントシステムの中心として機能する可能性を秘めている。冬季には、走行中に発生するバッテリーやモーターの廃熱を回収し、車室内の暖房に利用することで、さらなるエネルギー効率の向上が期待できる。これは、バッテリーを最適な温度に保つことで、充電速度の向上や寿命の延長にもつながる。CO2ヒートポンプは、EVの「熱」を効率的に管理する中枢神経として、車両全体の性能と効率を底上げするキーテクノロジーとなり得る。

今回の研究は、EVの冬季走行という大きな課題に対して、科学的かつ実践的な解決策を提示した。実際の道路走行という厳しい環境下で、CO2ヒートポンプの性能と効率の優位性を明確に証明したことで、その信頼性は非常に高い。これは、自動車メーカーのエンジニアや開発者にとって、非常に価値のあるデータである。今後のEV開発において、CO2ヒートポンプはもはや「選択肢の一つ」ではなく、「標準」として検討されるべき技術となりつつある。ユーザーにとっては、冬の長距離ドライブへの不安が軽減され、EVの魅力が一層高まることを意味する。電気自動車の未来は、より暖かく、より効率的で、より持続可能なものになる。その鍵を握る技術の一つが、今、現実のものとなりつつある。

由娄辉(芜湖奇瑞科技有限公司)、王军(应雪汽车科技(常熟)有限公司)、滕海旭、刘贵丹、李晓桐、李斌(吉林大学汽车仿真与控制国家重点实验室)著。刊载于《制冷技术》期刊,DOI: 10.3969/j.issn.2095-4468.2024.04.206