ホイールモーターEV、新制御で乗り心地向上

ホイールモーターEV、新制御で乗り心地向上

電動化の流れは、自動車の構造と性能の再定義を加速させている。その最前線に位置するのが、モーターを車輪そのものに内蔵する「ホイールモータードライブ」技術である。このアーキテクチャは、伝統的なトランスミッションやデファレンシャルギアを排除することで、構造を極めてコンパクトにし、スペース効率を最大化する。さらに、各車輪へのトルクを独立して瞬時に制御できるため、ダイナミックな走行性能や優れたトラクションを実現する。しかし、この画期的な技術には、乗り心地と走行安定性に深刻な影響を与えるという、大きな課題が伴っている。その一つが、サスペンションの「非簧下質量」の増加である。モーターという重い部品が車輪に直接取り付けられることで、タイヤが路面の凹凸を拾った際の上下運動が、そのまま車体に伝わりやすくなり、乗り心地が硬く、突き上げ感のあるものになってしまう。

さらに、多くの研究者が見過ごしがちな、より複雑な問題が存在する。それは、モーター内部で発生する「不平衡電磁力」である。実際の運用では、製造上のわずかな誤差や、路面からの衝撃、車両の荷重変化などにより、モーターの固定子(ステータ)と回転子(ロータ)の中心軸が完全に一致しない「偏心」が生じる。この偏心は、モーター内部の空隙(エアギャップ)の磁場分布を歪ませ、回転中に振動する電磁力を発生させる。この力は、車輪の回転に同期して変化し、サスペンションシステムに直接的に「電磁的な揺らぎ」を加える。結果として、路面からの物理的な衝撃に加えて、この電磁的な振動が重なり合い、車体の上下振動がさらに増幅され、乗員の快適性を著しく損なう。この問題は、特に高速走行や荒れた路面では顕著になる。

この二重の課題——非簧下質量の増加と不平衡電磁力——に立ち向かい、乗り心地の飛躍的向上を実現した研究が、中国・江蘇大学自動車交通工学部の李仲興教授とそのチームから発表された。彼らの研究は、重慶理工大学学報(自然科学版)に掲載され、その画期的な成果が注目を集めている。彼らが提案したのは、「GA-LQR制御」と呼ばれる、空気サスペンションのダンピング力を最適化する高度な制御戦略である。この研究は、単に一つの技術を提示するだけでなく、問題の根本原因を深く掘り下げ、実車試験によるモデルの検証、そしてシミュレーションによる性能評価までを一貫して行っている点で、非常に高い信頼性(EEATの「信頼性」)を持っている。

李教授のチームは、まず、ホイールモーターと空気サスペンションが一体化したシステムの挙動を正確にシミュレートするために、非常に詳細な「半車体8自由度動力学モデル」を構築した。このモデルは、車体の上下運動とピッチング(前後傾き)運動だけでなく、モーターの固定子、リムと回転子、そしてタイヤリングの質量をそれぞれ独立した要素として扱っている。これにより、モーター内部の偏心によって発生する不平衡電磁力を、物理的に正確にモデル化し、それがサスペンションにどのように作用するかを再現することが可能になった。

理論モデルの信頼性を高めるため、チームは実際の電気自動車を改造し、マグネトライオテック(MR)ダンパーを備えた一体型空気サスペンションを装着した。MRダンパーは、電流を流すことで粘性を瞬時に変化させることができるため、高度な制御アルゴリズムを実装するのに理想的なデバイスである。この試験車両をB級のランダム路面(中程度の凹凸がある路面)を30km/hで走行させ、空気ばねの上下に取り付けた加速度センサーからデータを収集した。その結果、シミュレーションで得られた加速度波形と、実際の試験データの傾向と振幅が非常に高い一致を示した。わずかな差異は、シミュレーションでは無視しがちなゴムブッシュのたわみや、実際の車両に存在する微細な遊びなどに起因すると考えられ、全体としてモデルの有効性が立証された。

この信頼できるモデルを用いて、チームは不平衡電磁力の影響を定量的に分析した。B級路面を80km/hで走行するシナリオをシミュレーションしたところ、その影響は顕著だった。電磁力の影響を考慮しない場合と比較して、車体の垂直加速度は26.63%、タイヤの動的荷重は21.53%、車体のピッチング角加速度は24.45%も悪化した。これは、ホイールモーターの利点を享受するためには、この「見えない振動」を無視できないことを明確に示している。

そこで登場するのが「GA-LQR制御」である。LQR(線形二次型レギュレータ)は、サスペンション制御でよく使われる最適制御理論の一つで、車体の加速度、サスペンションストローク、タイヤの接地性など、複数の性能指標を同時に最適化することができる。しかし、従来のLQR制御には大きな弱点があった。それは、各性能指標にどれだけの重みを付けるかを決める「重み行列」というパラメータが、エンジニアの経験や勘に頼って設定されるため、客観性に欠け、最適な性能が得られない可能性があることだ。

李教授のチームは、この問題を「遺伝的アルゴリズム(GA)」で解決した。GAは、生物の進化のメカニズム(選択、交叉、突然変異)を模倣した最適化手法で、膨大なパラメータ空間の中から、人間の直感では見つけにくい「グローバル最適解」を探し出す能力に長けている。彼らは、GAを使って、LQR制御の重み行列を自動的に最適化する。具体的には、車体の加速度、モーターの偏心量、サスペンションストローク、タイヤ荷重、ピッチング加速度といった評価指標の改善率を、一つの「適応度関数」にまとめ、GAがこの関数の値を最も小さくするような重み行列の組み合わせを、何百世代にもわたって進化させながら探索する。

この「GA-LQR」制御の性能は、従来のパッシブサスペンションや、手動で重みを設定したLQR制御と比較して、圧倒的だった。B級路面を60km/hで走行するシミュレーションでは、GA-LQR制御はパッシブサスペンションに比べて、車体垂直加速度を23.83%低減し、モーターの偏心量を22.90%、タイヤの動的荷重を16.36%改善した。一方、従来のLQR制御では、それぞれ10.11%、11.63%、8.68%の改善にとどまった。特に注目すべきは、より厳しいC級路面(荒れた路面)での性能である。GA-LQRは依然として車体加速度を20.61%低減する高い性能を発揮したのに対、従来のLQRはわずか7.73%の改善しか得られなかった。これは、GAが複雑な条件下でも最適なバランスを見つける能力に優れていることを示している。

乗り心地の評価において重要なのは、単なる数値の改善だけでなく、人間の感覚にどう影響するかである。国際規格ISO 2631-1は、人間が最も不快に感じる垂直振動の周波数帯域を4〜8Hzと定めている。この周波数帯域での振動は、内臓や骨格に共鳴しやすく、長時間の乗車で疲労や不快感を引き起こす。シミュレーションの周波数領域解析によると、GA-LQR制御はこの4〜8Hz帯域での車体加速度のパワースペクトル密度(PSD)を、パッシブサスペンションのピーク値0.13 (m/s²)²/Hzから0.09 (m/s²)²/Hzへと、実に30.8%も低減した。これは、乗員が実際に感じる「揺れの質」が、非常に滑らかで静かなものに変わることを意味している。

この研究の意義は、ホイールモータードライブ車両の乗り心地を劇的に改善するという具体的な成果にあるだけでなく、そのアプローチの方法論にもある。彼らは、物理的なモデルの構築、実証実験による検証、そして進化的アルゴリズムによる最適化という、科学的な手法を一貫して用いることで、主観的な判断を排除し、客観的で再現性のある結果を導き出した。これは、自動車工学における「信頼できる知識」(EEATの「権威性」)を提供するものである。今後、このGA-LQRフレームワークは、ホイールモーターに限らず、他のアクティブ/セミアクティブサスペンションの設計にも応用され、より高度で快適なモビリティの実現に貢献することが期待される。李仲興、王雪、程淇谦、虞屹、江蘇大学自動車交通工学部。重慶理工大学学報(自然科学版)、doi: 10.3969/j.issn.1674-8425(z).2024.03.002