EV用モーターのトルクリップルを低減する新設計

EV用モーターのトルクリップルを低減する新設計

中国の天津大学(Tianjin University)の研究チームが、電気自動車(EV)の心臓部であるモーターの重要な課題を解決する画期的な設計手法を発表した。この研究は、王力新(Wang Lixin)博士課程学生を筆頭に、王暁遠(Wang Xiaoyuan)、高鵬(Gao Peng)、劉双双(Liu Shuangshuang)の各教授が率いる電気自動化・情報工学部の研究グループによって行われ、その成果は電気工学分野の権威ある学術誌『Transactions of China Electrotechnical Society』に掲載され、DOIは10.19595/j.cnki.1000-6753.tces.231345となっている。

この研究の核心は、EV用の内蔵型永久磁石同期モーター(IPMSM)における「トルクリップル」、すなわち出力トルクの脈動を劇的に低減する方法にある。IPMSMは、高出力密度、高効率、優れた弱め界磁性能を持つため、現代のEVに広く採用されている。しかし、その複雑な内部構造ゆえに、運転中にトルクが脈打つ現象が発生しやすく、これが車体の振動や不快なノイズの原因となり、高級EVが追求する静粛性と快適な乗り心地を損なう大きな要因となっていた。これまでの対策として、ステータのスロットを斜めにしたり、ローターを段差状に分割する「スキュー」や「ステップスロット」が用いられてきたが、これらの方法は製造コストを大幅に増加させるだけでなく、モーターの平均出力トルクを低下させるという致命的な欠点を抱えていた。

天津大学の研究チームは、このジレンマを解決するため、従来の発想を根本から覆すアプローチを取った。彼らの革新的なアイデアは、「磁気遮断橋(隔磁桥)」と呼ばれるローター内部の構造を、「仮想スロット(virtual slot)」として再定義することにある。この磁気遮断橋は、永久磁石が逆磁化されるのを防ぐための物理的な壁であり、これまで設計上の制約条件としてしか捉えられてこなかった。しかし、研究チームは、この構造がモーター内部の空隙(きゅうげき)における磁気の通りやすさ(比磁導率)に直接的な影響を与える「アクティブな要素」であることに着目した。

この洞察を基に、彼らは「仮想スロット」の位置が空隙の比磁導率にどのように影響し、その結果としてトルクリップルが生じるかを解析する理論モデルを構築した。従来の研究は、主にローターの磁気起磁力(MMF)の波形を正弦波に近づけることや、空隙の磁束密度を均一化することに焦点を当てていた。しかし、天津大学のチームは、ローターの物理的構造自体が空隙の磁気的特性を変調(modulate)するという、より根本的なメカニズムに注目した。この「構造による変調」こそが、特に8極48スロットというEVで一般的なモーター構成において、12倍の電気周波数で発生する大きなトルクリップルの主因であることを突き止めた。

この理論モデルの強みは、設計の初期段階から明確な指針を提供できることにある。研究チームは、8極48スロットのモーターにおいて、12次の「仮想スロット」由来の比磁導率高調波がトルクリップルの主成分であることを特定した。そして、この特定の高調波を理論上ゼロに近づけることができる「仮想スロット」の位置を数学的に導き出した。この設計原則は、複雑な試行錯誤や膨大なコンピュータシミュレーションに頼る従来の「ブラックボックス」的最適化手法とは一線を画し、エンジニアが直感的に理解し、適用できる「ホワイトボックス」的な設計法を提供する。

この理論の有効性を実証するため、研究チームは30kWのEV用IPMSMを対象に実際の設計最適化を行った。最適化前のローターでは、トルクリップルは25.5%という高い値を示していた。しかし、理論に基づいて「仮想スロット」の位置を再設計した結果、トルクリップルは驚異的な6.8%まで低減された。この75%近い削減率は、理論モデルの予測能力の高さを裏付けている。何より重要なのは、この劇的な改善が、平均トルク、効率、弱め界磁能力といったモーターの主要な性能を一切犠牲にすることなく達成された点である。対照的に、従来のスキュー手法を適用した場合、トルクリップルは12.3%まで低下したものの、平均トルクが約5%も損失するというトレードオフが生じた。この結果は、天津大学の新設計法が性能とコストの両立という点で圧倒的な優位性を持つことを示している。

研究はシミュレーションに留まらず、実際のプロトタイプモーターを作成し、実験による検証も行った。試験結果は、シミュレーションと非常に高い精度で一致し、特に反起電圧や平均トルクの値は誤差が数パーセント以内に収まった。トルクリップルの測定値がシミュレーション値よりもやや高かったのは、シミュレーションでは考慮されていないインバーターのPWM制御に由来する高周波電流高調波が、実機では発生しているためである。この差異を考慮しても、最適化前後での相対的な改善効果は明確であり、理論と実験の整合性が確認された。

この研究の意義は、単に一つのモーターの性能を向上させたことにとどまらない。それは、モーター設計のパラダイムを変える可能性を秘めている。まず、設計プロセスの効率化が挙げられる。従来の「試行錯誤」型の設計では、数多くの候補をシミュレーションで評価する必要があり、膨大な時間と計算リソースを要した。しかし、天津大学の手法は、まず理論的に最適な設計領域を特定するため、開発サイクルを劇的に短縮できる。これは、開発スピードが命の自動車業界において、極めて大きな競争優位性となる。

次に、製造コストの面での利点である。この設計法は、特別な材料や複雑な加工工程を必要としない。ローターの形状を微調整するだけで済むため、既存の生産ラインにそのまま適用が可能で、追加の設備投資や工程変更が不要である。これは、コスト競争が激しいEV市場において、非常に現実的で実用性の高いソリューションである。

さらに、この研究はモーターの基本的な物理現象に対する理解を深める。ローターの「構造」が「磁気特性」に直接影響を与えるという見方は、設計の自由度を飛躍的に高める。将来的には、ステータとローターのスロットパターンを統合的に最適化したり、運転条件に応じて特性を変化させる「スマートローター」の開発にもつながる可能性がある。

持続可能性の観点から見ても、この技術は大きな価値を持つ。トルクリップルの低減は、モーターだけでなく、ギアボックスやドライブシャフトなどの駆動系全体の機械的ストレスを軽減する。これは、部品の寿命を延ばし、メンテナンスコストを削減し、結果として車両の全体的な信頼性と耐久性を向上させることに繋がる。また、振動とノイズの低減は、車室内の静粛性を高め、プレミアムEVの価値をさらに高める。そして、効率の低下を伴わないため、航続距離への悪影響もなく、EVの根幹的な性能を損なうことなく快適性を向上させる。

このように、天津大学の研究は、EVの「走り」の質を根本から高める技術革新である。バッテリーや充電インフラに注目が集まる中で、モーターそのものの設計を精緻化することは、最終的なユーザー体験を決定づける重要なピースである。王力新氏らの研究は、高度な理論解析と実用的な実験検証を組み合わせることで、AIや複雑なアルゴリズムに頼るのではなく、物理学の基本原理に基づいた、洗練されたエンジニアリングの力が、いかに大きな進歩をもたらすかを示している。自動車産業が電動化の波を乗り越え、より洗練された次世代モビリティを実現する中で、このような基礎に根ざした革新的な研究が、真の価値を創造していくだろう。

王力新、王暁遠、高鵬、劉双双、天津大学電気自動化・情報工学部。電気自動車用内蔵型永久磁石同期モーターのトルクリップル低減解析。Transactions of China Electrotechnical Society。DOI: 10.19595/j.cnki.1000-6753.tces.231345