EV充電革命:多相モーターで実現する統合型充電システム
自動車産業は、電動化の進展に伴い、新たな転換期を迎えている。バッテリー技術や車両設計の革新が続く一方で、ユーザーの「航続不安」や「充電時間の長さ」といった課題は依然として根強く、電気自動車(EV)の普及を妨げる大きな壁となっている。しかし、中国の研究者たちが発表した画期的な研究は、EVの充電のあり方を根本から変える可能性を秘めている。南通大学の於鋒(Yu Feng)、殷琪皓(Yin Qihao)、南京理工大学の佟明昊(Tong Minghao)、ハルビン工業大学の張千帆(Zhang Qianfan)の各氏が『中国電機工程学会誌(Proceedings of the CSEE)』に発表した論文は、モーターとインバーターを充電器としても活用する「電駆再構成型車載充電システム(EDROC)」の最新技術を総括し、その実現可能性と未来の展望を示している。この技術は、従来の「走行用」と「充電用」の二つのシステムを一本化するという発想の転換であり、車両の軽量化、低コスト化、そしてより多様な充電手段の実現を可能にする。
従来のEVは、走行用の電気駆動システムと、外部電源からバッテリーを充電するための車載充電器(OBC)という、二つの独立したシステムを搭載している。OBCは、交流(AC)の電力網から直流(DC)のバッテリーへと電力を変換するための、大規模なインダクターやコンデンサー、スイッチング素子を内蔵した複雑な電力変換装置である。この二重構造は、車両の重量と体積を増加させ、コストを押し上げる要因となっている。EDROCの概念は、この非効率を根本的に解消するものだ。その核心は「再構成」と「再利用」にある。走行時には、バッテリーからインバーターを介してモーターを駆動する。一方、充電時には、役割を逆転させ、外部電源からインバーターを介してバッテリーを充電する。ここで鍵となるのは、モーターの巻線を、従来のOBCに必要な大容量のフィルターインダクターとして再利用し、高電力のインバーター自体を、整流回路として再利用する点である。これにより、OBC専用の部品を大幅に削減でき、システムの集積度を飛躍的に高めることができる。
しかし、この構想を実現する上で最大の課題は、「充電中にモーターが回ってしまうこと」だ。交流電流をモーターの巻線に流せば、当然、回転磁界が発生し、車両が動き出してしまう。これは明らかな安全上のリスクである。初期のEDROCの研究では、この問題を解決できず、実用化は困難だった。そこで登場するのが「多相モーター」の活用である。三相モーターが主流である現在のEVとは異なり、五相、六相、九相といった多相モーターは、より多くの制御自由度を持つ。この特性を活かすことで、充電用の交流電流をモーター内部に注入しても、回転トルクを生じさせない制御が可能になる。研究チームは、この多相EDROCシステムを、モーター内部の磁界の性質に応じて「静止磁界型」と「脈振磁界型」の二つの主要なアーキテクチャに分類している。
「静止磁界型」は、主に六相や九相のような「多三相モーター」に適したアプローチだ。この方式では、充電用の交流電流を「零相電流」として、モーターの巻線の中性点から注入する。この電流は、モーターの鉄心内部を閉じたループで流れ、空隙(エアギャップ)を介してローターに磁束が交差しない。そのため、ローターには変化する磁場が作用せず、トルクが発生しない。この方法の最大の利点は、特別なハードウェアの再構成が不要で、中性点を引き出すだけで済むため、制御は比較的シンプルで信頼性が高い。例えば、六相モーターの場合、二つの三相巻線セットの中性点を交流電源の火線と零線に接続すれば、二つの三相整流回路が並列に動作する構成となり、単相交流電源からの充電が可能になる。九相モーターであれば、三つの三相セットの中性点を三相交流電源に接続することで、三相交流充電が実現できる。
一方、「脈振磁界型」は、五相や六相の「オープン・ウィンドウ(開巻線)構造」のモーターに適したアプローチだ。この方式では、接触器などのハードウェアスイッチを用いて、充電モードに切り替える際に巻線の接続を物理的に再構成する。例えば、六相モーターでは、A相とU相、B相とW相、C相とV相をそれぞれ一組の三相巻線として、三相交流電源に接続する。このとき、二つの三相巻線セットに、大きさが同じで位相が逆の三相電流を流すことで、それぞれの巻線セットが発生させる回転磁界が打ち消し合い、全体としてのトルクがゼロになる。あるいは、より高度な「ベクトル空間分解(VSD)理論」を用いて、モーターの基本磁界面(α-β面)にトルク成分を一切発生させず、代わりに高調波面(x3-y3面など)に電流を分配することで、磁界が脈動するだけで回転しない状態を実現する。この方法は制御が複雑だが、モーターの種類を選ばず、より柔軟な設計が可能になる。
EDROCシステムの実用化には、優れたハードウェア設計だけでなく、精密な制御戦略が不可欠である。研究チームは、多相EDROCの制御法として、主に三つのアプローチを紹介している。一つ目は「巻線電流直接制御」で、各相の巻線電流を個別に監視・制御する方法だ。直感的だが、各相の電流が電気的に結合しているため、独立制御が難しく、パラメータの調整が複雑になる。二つ目は「モジュラー制御」で、六相モーターを二つの三相整流器の並列動作と見なす方法だ。これにより、並列接続された巻線間を循環する「零相循環電流」を検出し、それを抑制するためのフィードバック制御をかけることができる。三つ目は「多平面電流制御」で、VSD理論に基づき、電流を基本磁界面と高調波面に分けて制御する方法だ。これは最も高度な制御法であり、トルクを完全にゼロに抑えるために、網側の交流電流を高調波面に意図的に分配する。この方法は、ソフトウェアレベルでの統合を可能にし、走行モードと充電モードの切り替えをシームレスに行える。
さらに重要なのが、システムの信頼性を保証する「耐故障運転」能力だ。多相モーターは、一つの相に故障が発生しても、残りの相で出力を維持できる「冗長性」を持つ。EDROCシステムでも、この特性を活かして充電中の故障に対応する研究が進んでいる。故障が発生すると、健全な相の電流を精密に再分配することで、回転トルクを発生させない状態を維持する。静止磁界型では、高調波面に電流を注入することで、基本磁界面のトルク成分を打ち消す。脈振磁界型では、制御自由度がより複雑になるが、同様の原理で故障後も安全に充電を継続できる。この耐故障性は、安全性が最優先される自動車分野において、EDROCシステムの大きなアドバンテージとなる。
最も未来を拓く応用例として、研究チームは「多エネルギー入力型EDROCシステム」を紹介している。これは、太陽光発電を活用した「ソーラーEV(SPEV)」への応用である。現在のEVは主に電力網から充電されるが、その電源が化石燃料に依存している限り、真の「ゼロエミッション」とは言えない。屋根に太陽電池パネルを搭載することで、再生可能エネルギーを直接車両に取り入れ、航続距離の延伸と環境負荷の低減を図ることができる。しかし、太陽電池の変換効率が低く、発電量が限られているため、走行中の充電(インモーション充電)がその真価を発揮する。ここでEDROCの真骨頂が発揮される。六相モーターの二つの中性点の間に太陽電池を接続することで、モーター巻線とインバーターをDC-DCコンバーターとして再構成できる。このとき、太陽電池からの電流は「零相電流」としてモーターに注入される。この電流は、走行に必要なトルクの発生には関与せず、別次元の制御軸に存在する。そのため、車両が走行中であっても、太陽光による充電が並行して可能になる。走行と充電が独立して動作するこの「インモーション充電」は、EVのエネルギー収集能力を革命的に高める。
この多エネルギー入力型EDROCシステムの実証実験では、2kWのプロトタイプが構築された。実験結果は、太陽電池の最大電力点追跡(MPPT)制御が有効に機能し、日射量の変化に迅速に対応できることを示した。また、走行モードと太陽光充電モードの両方で、モーターの性能と太陽電池の出力が互いに干渉せず、安定して動作することが確認された。特に、走行中に太陽光充電を行う「インモーション充電」モードでは、モーターのd軸、q軸、x軸、y軸の電流がゼロに制御され、トルクが安定している一方で、01軸(零相軸)に太陽電池からの電流が流れ込み、バッテリーが充電されていることが観測された。これは、理論と実験が完全に一致したことを意味し、この技術の実用可能性を強く裏付けている。
この技術のインパクトは計り知れない。専用のOBCを取り払うことで、車両内のスペースと重量を大幅に削減でき、その分、バッテリーサイズの拡大や車内空間の余裕を生み出すことができる。また、太陽光、単相交流、三相交流、直流ファスト充電など、複数のエネルギー源を一つの統合システムで扱えるため、ユーザーの利便性が飛躍的に向上する。日常では家庭用コンセントで充電し、長距離移動時には三相充電やファスト充電を使い、駐車中は太陽光で補充電するという、究極の多様な充電ライフスタイルが現実のものとなる。研究チームは、今後の研究課題として、モーター構造やコンバータートポロジーの最適化、異なる充電モード(電力網充電と太陽光充電)の協調制御、そしてより高性能なMPPTアルゴリズムの開発を挙げている。特に、車載の太陽電池は部分的な影に晒されることが多く、MPPT制御の動特性が非常に重要となる。
於鋒、殷琪皓、佟明昊、張千帆らの研究は、EVの電気システムにおける「統合化」と「最適化」の新たな地平を示している。これは単なる技術の改良ではなく、EVのパワートレインの設計思想そのものを再定義するものである。走るための部品を、同時に充電するためにも使うという発想は、資源の有効活用と持続可能性の観点からも極めて重要だ。世界中の自動車メーカーがEVの航続距離と充電インフラに注力する中、このEDROC技術は、車両自体の「内なる革新」によって、ユーザーの課題を解決する、スマートでエレガントな答えを提供している。今後数年間で、この技術が実用化され、市販車に搭載される日が、ますます現実味を帯びてきている。
於鋒、殷琪皓、佟明昊、張千帆、中国電機工程学会誌、DOI: 10.13334/j.0258-8013.pcsee.230269