電動車両のマルチ温度冷蔵配送ルートを最適化
中国の研究チームが、都市物流の持続可能性と効率性を高める画期的な研究を発表した。江蘇大学自動車交通工学部の何美玲(ヘ・メイリン)教授らの研究グループは、電動車両(EV)を用いた冷蔵物流の「マルチ温度共配」(Multi-Temperature Co-Distribution, MTCD)のための新しいルート最適化モデルを開発した。この研究は、冷蔵物流という高度に専門化された分野に、EVの普及というグローバルな潮流を巧みに融合させ、コスト削減と環境負荷低減の両立を可能にする実用的なソリューションを提示している。
この研究の核心は、複数の温度帯(常温、冷蔵、冷凍)の貨物を、一つの普通のEVで同時に配送できるようにするという発想にある。従来の冷蔵物流では、それぞれの温度帯に特化した専用の冷蔵車両を運用する必要があり、これは車両の稼働率が低く、多くの場合、半分以下の積載量で走行する「半積み」状態が常態化している。その結果、都市部の道路上を走る車両の数が増え、交通渋滞や二酸化炭素(CO2)排出量の増加という社会的コストを引き起こしていた。
何教授らのチームは、この問題を根本から解決するため、技術的なアプローチを変更した。高価でエネルギーを大量に消費する機械式冷凍装置の代わりに、「蓄冷器」(coolers)と呼ばれるパッシブ(受動式)な冷却技術に着目した。この蓄冷器は、事前に冷却された特殊な相変化材料(PCM)を内蔵した断熱ボックスであり、配送センターで「充電」(冷却)された後、車内で必要な温度帯を維持する。これにより、通常のEVの荷台内に、常温、冷蔵、冷凍の3つの独立した温度ゾーンを設けることが可能になる。これは、専用車両を複数台所有するよりもはるかに低コストで、エネルギー効率の面でも優れた方法である。
しかし、技術的な仕組みが整ったとしても、それを最大限に活用するための「頭脳」、つまり最適な配送ルートを計算するアルゴリズムがなければ、真の効率化は達成できない。そこで研究チームは、非常に複雑な「電動車両ルーティング問題」(Electric Vehicle Routing Problem, EVRP)に取り組んだ。彼らが開発したモデルは、単に距離を最短にするだけでなく、実際のビジネス環境を反映した多様なコストを統合的に考慮している。
このモデルの最大の特徴は、その総合的なコスト関数にある。配送コストは、車両使用料、走行距離に応じた電力コスト、蓄冷器の使用コスト、充電コストに加え、二つの革新的な要素を含んでいる。第一に「ソフトタイムウィンドウ」(Soft Time Window, STW)によるインセンティブ/ペナルティコストである。これは、顧客が希望する時間帯(理想時間帯)の前後に、ある程度の柔軟性を持たせた時間枠を設け、その範囲内で早めに到着すれば報酬(インセンティブ)、遅れれば罰則(ペナルティ)が発生するという仕組みだ。これは、交通渋滞などによる遅延を完全にゼロにすることは不可能である現実を踏まえた、非常に実用的なアプローチである。
第二に、冷蔵物流の根幹を成す「貨物損失コスト」が明確に組み込まれている点が画期的だ。食品は時間が経つほど新鮮度が低下し、最終的には廃棄される。この損失は、企業にとって直接的なコストである。従来のルーティングモデルでは、この「時間=品質=コスト」の連鎖が十分に反映されていなかった。しかし、この新モデルでは、配送時間が長くなるほど、または冷凍品が適切な温度を保てないリスクが高まるほど、貨物損失コストが上昇するように設計されている。これにより、ルートの最適化は「速さ」だけでなく、「新鮮さの維持」という本質的な物流の目的に直接つながる。
この複雑な最適化問題を解くために、研究チームは「改良型アリ集団最適化アルゴリズム」(Improved Ant Colony Algorithm, IACO)を開発した。アリ集団最適化(ACO)とは、アリが巣と餌場の間を最短ルートで往復する様子を模したメタヒューリスティックなアルゴリズムである。しかし、従来のACOには、探索が無駄になりやすく、最適解に収束する速度が遅いという課題がある。
チームはこれを克服するために、三つの革新を加えた。まず、ACOに「2-opt法」と呼ばれる局所探索アルゴリズムを組み合わせた。これは、一度得られたルートの中から二つの区間を選び、その順序を入れ替えることで、より短いルートができないかを検討する手法だ。これにより、ACOが見つけた「良い解」をさらに微調整し、より「最適な解」へと近づける。
次に、アリの探索をより効率的に導くための三つの「ガイドファクター」を導入した。一つ目は「セービングマトリクス」で、複数の顧客を一度に回った方が、それぞれを個別に回るよりも距離がどれだけ短縮できるかを計算し、アリが効率的なノードを優先して選ぶようにする。二つ目は「時間窓待機ファクター」で、早すぎる到着による無駄な待機時間を最小限に抑えるノードを優先する。三つ目は「冷凍品影響ファクター」で、冷凍品の需要量が多い顧客を、より優先的に回るようアリを誘導する。このように、単なる距離の最適化ではなく、冷蔵物流という特定のドメインに特化した知見をアルゴリズムに組み込むことで、実用性の高い解を高速に得ることが可能になった。
このモデルとアルゴリズムの有効性は、物流研究の分野で標準的に使用される「ソロモンデータセット」を用いたシミュレーションによって検証された。その結果は、従来の「単一温度配送」モデルと比べて、劇的な効率向上が確認された。
シミュレーションでは、30の顧客と20の充電ステーションが設定された。従来の方法では、常温、冷蔵、冷凍の貨物をそれぞれ別々の車両で配送する必要があるため、合計11台の車両を動かさなければならない。しかし、新開発のマルチ温度共配モデルでは、わずか5台のEVで全ての配送を完遂できた。これは、車両台数を54.5%も削減できることを意味し、車両の購入費、維持費、人件費、保険料など、あらゆる面でのコスト削減に直結する。
さらに驚くべき結果は、充電回数の削減にある。従来の11台の運用では、合計6回の充電が必要だったが、5台のマルチ温度共配モデルでは、たった1回の充電で全てのルートを走破できた。これは、EVの「航続不安」(Range Anxiety)という最大の課題を、効率的なルート設計によって克服できることを示している。都市部の充電インフラは限られているため、充電回数の削減は、運用の信頼性を高めるだけでなく、充電ステーションの混雑を緩和し、他のEVユーザーにも恩恵をもたらす。
総合的な配送コストも、従来モデルと比較して大幅に削減された。このコストには、車両使用料、走行コスト、充電コスト、蓄冷器コスト、そしてインセンティブ/ペナルティ、貨物損失コストのすべてが含まれている。マルチ温度共配モデルは、これらの要素を最適化することで、より低いトータルコストを実現した。
研究はまた、ソフトタイムウィンドウの柔軟性がコストに与える影響も分析した。時間枠の許容範囲を広げていくと、必要な車両数が減少し、総コストも低下する傾向が見られた。特に注目すべきは、車両数が最小の5台に達した後も、総コストがさらに緩やかに下がり続けることだ。これは、時間枠が広がることで、車両がより多くの顧客を効率的に回れるようになり、早めに到着するケースが増え、インセンティブが得られるようになるためである。また、早めに到着することで貨物の新鮮度が保たれ、損失コストも低下する。つまり、顧客に「多少の時間の融通」を求めるだけで、物流企業は大きなコスト削減とサービス品質の向上を同時に達成できる可能性がある。
この研究の意義は、学術的な成果にとどまらない。実際の物流企業にとって、これは即座に応用可能な、非常に現実的な戦略を提供している。専用の高価な冷蔵EVを大量に導入するのではなく、既存の普通EVに断熱ボックスと蓄冷器を導入するという、比較的低コストな方法で、冷蔵物流のEV化を進めることができる。これは、中小規模の物流事業者にとっても、導入のハードルが低く、持続可能な物流への移行を現実のものにする。
都市計画の観点から見ても、この研究は重要である。都市部の空気質改善や交通渋滞緩和という都市の課題に対して、直接的な解決策を提示している。車両台数と走行距離の削減は、CO2排出量の削減に直結し、カーボンニュートラルの達成に貢献する。また、EVの普及は、都市の騒音公害の軽減にも寄与する。
将来的には、このモデルをさらに進化させる余地がある。現在のモデルは、顧客の需要が静的で予測可能であるという前提に基づいている。しかし、実際の現場では、天候や事故、突発的な注文変更など、動的な要因が常に存在する。今後の研究では、リアルタイムの交通情報や天気予報をインプットとして取り入れる「動的ルーティング」への展開が期待される。また、アルゴリズムの局所探索部分をさらに洗練させることで、より高精度な最適解を得ることも可能だろう。
何美玲、付文青、韓繤、武晓晖、江蘇大学自動車交通工学部、四川省警察学院スマートポリシング重点実験室、四川省警察学院道路交通管理部。『江蘇大学学報(自然科学版)』DOI: 10.3969/j.issn.1671-7775.2024.06.002