モーター排熱回収でEV暖房効率を向上

モーター排熱回収でEV暖房効率を向上

電動化の進展に伴い、電気自動車(EV)の冬場の航続距離の短縮は、ユーザーにとっての大きな懸念事項となっている。特に寒冷地では、バッテリー性能の低下と、車室内を暖めるための暖房システムの高エネルギー消費が、航続距離を大幅に削減する要因となる。この「冬の航続不安」を解消するための鍵として、北京交通大学の研究チームが、電動駆動システムから発生する「排熱」の有効活用に注目した。彼らの最新の研究は、モーターやモーターコントローラーから出る不要な熱を回収し、車室内の暖房効率を劇的に向上させる可能性を示しており、EVの実用性を高める画期的な成果と言える。

この研究は、何家文(He Jiawen)、張欣(Zhang Xin)、李欣林(Li Xinlin)、馮碩(Feng Shuo)の4名の研究者により、北京交通大学機械電子制御工学部で行われ、『自動車工学雑誌(Chinese Journal of Automotive Engineering)』に掲載された。彼らのアプローチは、従来、冷却システムで捨てられていたモーターの排熱を、暖房用のヒートポンプシステムの熱源として再利用するというものだ。これにより、バッテリーから直接電力を取る「PTCヒーター」のようなエネルギー効率の悪い暖房に頼る必要を減らし、航続距離の損失を抑えることが可能になる。

研究の中心となったのは、シミュレーションソフト「AMESim」を用いた、純粋な電気乗用車の熱管理システムの詳細なモデルの構築である。このモデルは、ヒートポンプ式エアコンの冷媒回路と、モーターの冷却回路を統合的にシミュレートできる。モーターは油冷、モーターコントローラーは水冷(50%水+50%エチレングリコール)という実際の構成を反映し、より現実に即した分析が可能となった。この高度なシミュレーションモデルの信頼性は、実際のベンチテストデータとの比較によって検証され、最大誤差7.01%以内という高い精度が確認されている。このことは、研究結果が単なる理論ではなく、実用化に向けた重要な指針であることを示している。

研究の第一歩は、モーターとそのコントローラーが実際にどれだけの熱を発生しているかを定量的に分析することだった。シミュレーションの結果、車速60km/hの走行時、モーター単体で最大1,402W、モーターコントローラーで427Wの熱が発生することが明らかになった。これは、走行中、特に中高速走行時に、電動駆動システムが非常に大きな「廃熱源」であることを意味している。この熱は、冷却液や絶縁油によってモーターから取り出され、そのまま外気に放散されるのが一般的だ。しかし、この研究は、この「廃熱」こそが、効率的な暖房のための「宝の山」であると主張する。

では、この排熱をどのようにして暖房に利用するのか。研究チームは、二つの重要な設計パラメータに焦点を当てた。第一に「冷媒の流量配分」、第二に「熱管理システムのアーキテクチャ(構造)」である。

まず、冷媒の流量配分について。ヒートポンプシステムでは、膨張弁を通過した低温の冷媒が、車外の空気から熱を吸収する「室外熱交換器」と、モーターの排熱を回収する「プレート式熱交換器」のどちらかに向かう。これらの流量の割合を変えることで、システム全体の性能が大きく変わる。研究では、車速20km/hと60km/hの二つのシナリオで、モーター側への冷媒流量の割合(0%から100%まで)を変化させ、その影響を分析した。

その結果、車速20km/hの低速走行時、モーター側への冷媒流量を80%に設定した場合が最適だった。このとき、モーター排熱と外気の両方から回収される総熱量は、排熱回収を行わない場合に比べて58.69%増加し、車室内の暖房出力は71.36%も向上した。ヒートポンプの性能係数(COP)はわずかに低下したが、暖房能力の大幅な向上を考えれば、これは受け入れられるトレードオフである。これは、都市部の低速走行では、モーターの発熱量がそれほど大きくないため、外気からの熱回収と排熱回収をバランスよく行うことが最適であることを示している。

一方、車速60km/hの中高速走行では、状況は一変する。モーターの発熱量が大幅に増加するため、冷媒をすべてモーター側に振り向ける(100%配分)のが最良の選択となった。このとき、システムが回収する総熱量は100.57%も増加し、車室内の暖房出力は100.37%という驚異的な向上を記録した。これは、中高速走行時には、モーターからの排熱が外気の熱よりもはるかに強力な熱源であるため、あえて外気からの熱回収を犠牲にしてでも、排熱回収に集中すべきであることを意味している。この発見は、未来のEVに「スマートな熱管理制御」が必要であることを強く示唆している。車両は走行状況に応じて、自動的に冷媒の流量を最適化するアルゴリズムを搭載すべきだ。

次に、システムのアーキテクチャについて。研究チームは、主流の「並列構造」と、新たに検討した「直列構造」の二つの設計を比較した。並列構造では、冷媒が膨張弁の後に分岐し、室外熱交換器とモーター用熱交換器を同時に経由する。一方、直列構造では、冷媒がまず室外熱交換器を通り、その後でモーター用熱交換器を経由する。

この二つの構造の比較結果は、並列構造が圧倒的に優れていることを示した。車速20km/hでは、並列構造の暖房出力が直列構造より23.42%高かった。そして、より重要なのは60km/hのシナリオだ。直列構造では、冷媒がまず室外熱交換器で温められてしまうため、その後モーターから熱を回収する際の効率が落ちる。さらに悪いことに、モーターの排熱が非常に大きいと、冷媒の温度が外気温よりも高くなる。この状態で直列構造の冷媒が室外熱交換器を通過すると、今度は冷媒から外気へ熱が奪われてしまう「逆回収」が発生し、エネルギーの損失となる。実際のシミュレーションでは、直列構造は389Wもの熱を損失していた。

一方、並列構造では、この問題が起きない。モーター用の回路と室外用の回路が独立しているため、モーターの排熱が大きいときには、室外熱交換器への冷媒の流れを完全に遮断し、すべての冷媒を排熱回収に集中させることができる。これにより、圧縮機の吸入温度が上がり、ヒートポンプの作動効率も向上する。その結果、60km/hでは並列構造の暖房出力が直列構造より27.23%も高くなるという、非常に明確な優位性が確認された。COP(性能係数)の差はわずか0.88%と微小であり、暖房能力の大幅な向上に比べれば無視できるほどだ。

これらの研究成果は、単に「排熱を回収すれば暖房が良くなる」という単純な話ではない。それは、システム全体を最適化するための、二つの設計指針を提供している。第一に、「冷媒の流量は、走行状況に応じて動的に制御すべき」であり、第二に、「熱交換器の接続方式は、並列構造が直列構造を圧倒的に上回る」というものだ。この二点を踏まえれば、既存のEVの熱管理システムを大きく改善できるだけでなく、次世代のEVの設計に直接応用できる。

この研究の意義は、技術的な側面だけでなく、EVの普及という大きな文脈にもある。ユーザーがEVを購入する際、冬の航続距離の不安は大きな障壁となっている。バッテリーの大容量化や、材料の改良も重要だが、エネルギーの「使い方」を最適化するアプローチは、コストをそれほどかけずに大きな効果を得られる。モーターの排熱を回収するシステムは、追加のヒーターを搭載するよりも、はるかに効率的で持続可能な解決策である。これは、自動車メーカーが「環境適応性」と「航続距離」の両立を図る上で、極めて重要な技術的選択肢となるだろう。

さらに、この技術は将来の統合型熱管理システムの基盤となる可能性を秘めている。例えば、バッテリーの温度管理と暖房システムを連動させれば、走行中にバッテリーを適切な温度に保ちながら、その際に発生する排熱も暖房に利用することができる。あるいは、急速充電前にバッテリーを最適な温度に「プリコンディショニング」する際、その暖房にモーターの排熱を活用すれば、充電時間を短縮し、バッテリーの劣化を防ぐことができる。このように、モーター排熱の回収は、単一の機能の改善ではなく、車両全体のエネルギー効率を高める「システム思考」の象徴なのである。

北京交通大学のこの研究は、複雑なシミュレーションと実証的なアプローチを通じて、EVの熱管理という重要な課題に新たな光を当てた。それは、既存の技術の枠を超えて、廃棄物と見なされていたエネルギーを、新たな価値に変えるという、持続可能な自動車開発の本質を捉えている。電動化の時代において、エネルギーをいかに「無駄なく」使うかが、技術の優劣を分ける鍵となる。モーターの「熱」を「暖かさ」に変えるこの研究は、まさにその未来を切り開く一歩である。

モーター排熱回収でEV暖房効率を向上
何家文、張欣、李欣林、馮碩、北京交通大学機械電子制御工学部
自動車工学雑誌、DOI: 10.3969/j.issn.2095‒1469.2024.05.11