カーブでの効率向上、動的ワイヤレス充電に革新
電気自動車(EV)の普及が世界中で加速する中、航続距離と充電インフラの問題は依然として大きな課題として残っている。急速充電技術の進歩により、充電時間は大幅に短縮されたが、長距離ドライブにおける「充電待ち」のストレスや、大型バッテリーに伴う車両重量の増加は解消されていない。この課題の最終的な解決策として注目されているのが「動的ワイヤレス充電(DWC)」技術である。道路に埋め込まれたコイルから、走行中に直接EVに電力を供給するこの技術は、バッテリーの小型化や、完全な「走りながら充電」の実現という、モビリティの未来を根本から変える可能性を秘めている。
しかし、この夢のような技術の実用化には、いくつかの技術的ハードルが存在する。その中でも特に、実際の道路環境における性能低下が大きな障壁となっている。これまでの多くの研究は、理想的な直線道路を前提としたものが多く、カーブや分岐点といった複雑な道路形状での性能については十分に検討されてこなかった。特に、カーブを走行する際、車両の受電コイルと道路の送電コイルの間に生じる「ズレ」が、電力伝送効率を大きく損なうことが問題となっていた。
この難題に、中国・武漢理工大学の研究チームが斬新なアプローチで挑戦し、画期的な成果を上げた。同チームは、カーブでの効率低下の根本原因を「相互インダクタンスの低下(mutual inductance drop)」と特定し、送電コイルの構造を根本的に見直すことで、効率を劇的に改善する方法を確立した。その研究成果は、学術誌『Journal of Power Supply』に掲載され、実用化への道を大きく開くものとして、業界内外から注目を集めている。
従来の動的ワイヤレス充電システムでは、道路に長い一本のコイルを敷設するのではなく、短いセグメントを連続して並べる「セグメント式レール構造」が主流である。これは、車両の直下にあるセグメントのみをオンにする「リレー式」の供電が可能で、電磁波の漏れやエネルギー損失を大幅に抑えることができるため、非常に効率的な方式だ。しかし、この方式には致命的な弱点がカーブに存在する。
カーブでは、外側の車線の半径が内側の車線よりも大きくなる。このため、直線部に最適化された矩形の送電コイルセグメントをカーブに沿って配置すると、外側のセグメント同士の間に大きな隙間が生じてしまう。この隙間は、送電コイルと受電コイルの間の磁気結合を弱める「磁気漏れ」の原因となり、結果として「相互インダクタンス」が急激に低下する。相互インダクタンスとは、2つのコイル間でどれだけ効率よくエネルギーを伝えることができるかを示す指標であり、これが低下すればするほど、システム全体の電力伝送効率も低下する。武漢理工大学の李建貴教授は、「直線道路では問題にならないこの現象が、カーブでは顕著に現れ、システムの実用性を大きく損なっていた」と説明する。
この問題を解決するため、同チームは従来の「コイルを車両に合わせる」発想から一歩踏み出し、「道路の構造をカーブに合わせる」逆転の発想を導入した。具体的には、カーブ部に設置する送電コイルの外側の縁を、カーブの半径に合わせて湾曲させるという、シンプルだが極めて効果的な構造変更を行った。これにより、外側のセグメント同士の隙間を最小限に抑えることができ、磁気結合を維持し、相互インダクタンスの低下を大幅に抑制することが可能になった。
「これは、インフラの設計思想の転換です」と、本研究の主導者である朱郭福氏は語る。「車両が道路に合わせて走るのではなく、道路が車両の動きに合わせて形を変える。私たちの新しいコイル構造は、カーブを走行するEVが常に最適な位置関係を保ちながら、効率的に電力を得られるように設計されています。」
この革新的な設計の有効性を検証するために、研究チームは理論解析、コンピュータシミュレーション、そして実物の実験の3つの段階で検証を行った。
まず、Neumannの公式を用いた理論解析により、カーブでのコイルのズレ(偏角)と相互インダクタンスの関係を明確に定量化した。その結果、偏角が大きくなるほど相互インダクタンスが非線形に減少することが証明された。
次に、有限要素法(FEM)による詳細なシミュレーションを実施。カーブ半径1.75メートルの条件下で、従来の矩形コイルと湾曲コイルの性能を比較した。シミュレーションでは、最大偏角(±3.5度)において、湾曲コイルは従来型に比べて約15%高い相互インダクタンスを示し、その優位性が裏付けられた。
最終段階として、研究チームは実際の実験装置を構築した。直流30Vの電源、85kHzで動作する高周波インバータ、LCC-S補償回路、そして新旧の送電コイルと受電コイルを組み合わせたシステムを構築し、電力伝送効率を直接測定した。実験は、偏角が0度(完全な直進)から3.5度(最大ズレ)までの条件下で行われた。
実験の結果は、シミュレーションを上回る驚異的なものだった。偏角が0度の直線部では、新旧のコイル構造で効率にほとんど差はなかった。これは、湾曲構造が直線部の性能を損なっていないことを意味している。しかし、偏角が最大の3.5度の条件下では、明確な差が現れた。
従来の矩形コイルを用いたシステムの効率は49.55%であったのに対し、湾曲コイルを用いたシステムは58.21%という効率を達成した。これは、8.66ポイントの絶対的な効率向上を意味し、相対的に約17.5%の改善である。研究チームは、複数回の実験を繰り返し、この効率向上が8%から9%の範囲で安定して再現されることを確認した。
この8.66%の向上は、技術的な数字としては小さくないが、実用化の文脈では極めて大きな意味を持つ。動的ワイヤレス充電は、何キロメートルもの道路にわたって大規模に展開されるインフラである。効率が1%向上するだけで、年間で何百万キロワット時もの電力損失を削減でき、その経済的・環境的なインパクトは計り知れない。8.66%の向上は、このインフラのコスト効率と持続可能性を飛躍的に高めるものだ。
この研究成果の意義は、技術的な効率向上にとどまらない。それは、動的ワイヤレス充電技術が「実験室の夢」から「現実のインフラ」へと本格的に移行するための、決定的な一歩である。カーブでの性能低下という最大の実用的課題を克服したことで、高速道路のジャンクションや、都市部のカーブが多い道路への導入が現実味を帯びてきた。
さらに、この技術はEVの設計哲学にも大きな影響を与える可能性がある。走行中に常に充電が可能になれば、EVは現在のような大容量バッテリーを搭載する必要がなくなる。バッテリーは小型化・軽量化され、その分車両の重量が減り、エネルギー効率が向上する。また、リチウムやコバルトなどの希少資源の使用量を削減でき、環境負荷の低減にも貢献する。これは、EVの真の意味での「グリーン化」を加速させる。
また、自動運転車の普及にも不可欠な技術となる。自動運転車は、人的な休憩時間に依存せず、24時間365日稼働することが求められる。そのため、充電のための長時間の停止は大きなボトルネックとなる。動的ワイヤレス充電によって、自動運転車が走行中も充電できるようになれば、稼働率を最大化し、物流やタクシーなどのサービスの効率を革命的に高めることができる。
武漢理工大学の研究チームは、今後も研究をさらに進めている。より急なカーブや複雑な交差点での性能検証、さらには複数の車両が同時に走行する場合の最適制御手法の開発など、実用化に向けた次の課題に取り組んでいる。また、この技術をスマートグリッドと連携させ、電力の双方向流通(V2G: Vehicle-to-Grid)を実現する可能性も探っている。
この研究は、単なる部品の改良ではなく、インフラの設計思想そのものを進化させた点で、非常に高い評価を受けている。電気工学、機械工学、材料科学、そしてシステム工学が融合した成果であり、複雑な現実世界の問題を科学的に解き明かし、実用的な解決策を提示した好例である。自動車産業の専門家は、「カーブでの効率を向上させるという、一見地味な改良が、実は技術の実用化を左右する『キルスイッチ』だった。武漢のチームは、そのスイッチをうまく押した」と評価している。
電動化と自動運転の波が押し寄せる中、インフラの進化が次のモビリティ革命の鍵を握っている。武漢理工大学のこの研究は、その鍵の一つを手にしたと言えるだろう。カーブでの効率向上という一歩が、やがては「充電の必要のないEV」の未来を現実のものにするかもしれない。
カーブでの効率向上、動的ワイヤレス充電に革新 朱郭福、李建貴、王隆揚、李強、陳晨、劉珊、武漢理工大学機電工程学院、電源学報、DOI: 10.13234/j.issn.2095-2805.2024.4.228