円形コイルの最適化でEVワイヤレス充電のずれ耐性が向上

円形コイルの最適化でEVワイヤレス充電のずれ耐性が向上

電気自動車(EV)の普及に伴い、充電インフラの利便性と信頼性はますます重要になっている。従来のケーブル式充電に代わる技術として、磁界共鳴結合方式のワイヤレス充電が注目を集めている。特に走行中に充電できる「動的ワイヤレス充電」は、航続距離への不安を軽減し、車載バッテリーの小型化にも貢献する可能性を秘めている。しかし、その実用化には大きな課題がある。それは、車両が充電用インフラと正確に位置合わせされない場合に、エネルギー伝送効率が急激に低下してしまうことだ。

走行中のわずかな車線逸脱、路面の凹凸、サスペンションの動きなど、日常的な走行条件では、受電コイルと送電コイルの間に横方向のずれ(ラテラルオフセット)が生じるのは避けられない。このずれにより、コイル間の磁気結合係数が低下し、相互インダクタンスが減少。その結果、出力電力と伝送効率が大きく損なわれる。従来の設計では、10cm程度のずれで効率が60%台まで落ち込むケースもあり、実用性に疑問が呈されてきた。

こうした課題に真正面から取り組み、画期的な解決策を提示したのが、西安航空学院 車両工程学院の王鑫(Wang Xin)、趙暐華(Zhao Weihua)、衛軍朝(Wei Junzhao)らの研究チームだ。彼らの最新の研究成果は、Journal of Xi’an Aeronautical Universityに掲載され、DOI: 10.3969/j.issn.1671-7449.2024.01.013 で公開されている。本研究では、円形コイルと方形コイルの性能を比較し、円形コイルの潜在能力を再評価。さらに、巻線構造の最適化とE字型フェライトコアの導入により、20cmもの横方向ずれが生じても85%以上の高効率を維持できることをシミュレーションで実証した。これは、中国国家基準GB/T 38775.1-2020が求めるワイヤレス充電システムの性能要件を満たすものであり、動的充電の実現に向けた大きな一歩である。

ずれに強いコイル構造の探索

ワイヤレス充電システムの心臓部は、送電側と受電側に設置された磁気結合コイルである。その形状は、効率、コスト、車両への搭載性、そして何よりずれ耐性に大きな影響を与える。これまでの研究では、DD型(D字型を2つ組み合わせた形状)や方形コイルが、ずれに対して比較的安定した特性を示すため、主流とされてきた。特に方形コイルは、車両のフラットな底面に沿って配置しやすく、設計の自由度が高いとされる。

しかし、王らの研究チームは、円形コイルに着目した。円形は対称性が高く、中心からのずれに対して理論的に滑らかな特性変化が期待できる。しかし、従来の均一ピッチの巻線では、ずれが大きくなると効率が急激に低下するという弱点があった。

そこで研究チームは、まず円形コイルと方形コイルの基本性能を、同等の面積と15cmのギャップ(一般的なEVの地上高を想定)という条件で比較した。シミュレーションには、電磁界解析ソフトANSYS Maxwellと回路シミュレータANSYS Simplorerを組み合わせた共同シミュレーションモデルを用いた。これは、磁気的な挙動と電気回路の応答を同時に高精度に解析できるため、実際のシステムに近い評価が可能となる。

結果は顕著だった。ずれが0cmの完全な位置合わせでは、両者とも80%以上の効率を発揮した。しかし、横方向に10cmずれた状態では、方形コイルの効率は約62%にまで低下し、出力は2.1kW程度となった。一方、円形コイルは70%近い効率を維持し、出力は2.43kWと、方形コイルを大きく上回った。

これは、円形コイルの磁界分布の対称性が、ずれに対してよりロバストであることを示している。方形コイルは角の部分で磁界が集中しやすく、ずれるとその集中部分が外れやすくなる。一方、円形コイルは滑らかな分布のため、ずれても比較的均等に磁束がリンクし続け、効率の低下が緩やかになる。この発見は、「方形やDD型がずれに強い」という従来の通念に一石を投じるものだった。

巻線構造の最適化:等減ピッチ巻線

基本性能で円形コイルの優位性が確認できた後、研究チームはさらなる性能向上を目指して、巻線構造そのものの最適化に取り組んだ。コイルの外径や巻き数を変えずに、より高効率でずれに強い設計を実現する必要があった。

そこで提案されたのが「等減ピッチ巻線」という手法である。従来のコイルは、すべての巻き線の間隔が一定(等間隔)だが、この設計では、内側の巻き線、特に中心に近い最後の5ターンについて、1ターンごとに0.2cmずつ間隔を狭めていく。これにより、コイルの中心部に磁界をより集中させることができる。

シミュレーションの結果、この単純な構造変更が大きな効果をもたらした。ずれが0cmの状態では、結合係数が0.34、効率が85.1%まで向上。10cmのずれでも、結合係数0.29、効率75.8%を維持できた。これは、従来の均一ピッチコイルと比べて、ずれに対する性能劣化が明らかに抑制されていることを意味する。出力電圧や電流の変動率も改善され、システム全体の安定性が高まった。

この最適化の本質は、「エネルギーのやり取りが最も活発な中心領域の磁界密度を高めること」にある。ずれが生じても、この強力な中心磁界が受電コイルに捕捉されやすく、効率の維持に貢献していると考えられる。

E字型フェライトコアによる磁界集中

しかし、空芯(コアなし)のコイルでは、発生した磁界の多くが周囲に漏れ出し、エネルギー損失が避けられない。また、漏れた磁界は周囲の電子機器に干渉(EMI)を引き起こす可能性もある。これを解決するため、研究チームは磁界を効率よく誘導し、漏れを抑える「磁芯」の導入を検討した。

磁芯には、I型、U型、E型の3種類が代表的である。I型はシンプルで安価だが、磁界集中効果が低い。U型は磁界をよく囲い込むため、EMI対策に優れるが、構造が複雑で高価になる。E型は、中央の柱と両側の脚からなる形状で、磁界を中央に集中させ、効率的な伝送が可能になる。研究チームは、伝送効率と距離を最優先に考え、E型フェライトコアを選択した。

設計されたE型コアは、中央の円柱部の半径が4.5cm、厚さが1cmで、周囲の脚の厚さも統一されている。フェライト材料は、高周波領域での渦電流損失が小さいという特性を持つため、ワイヤレス充電の高周波動作に最適である。

このE型コアを最適化された円形コイルに組み合わせて再シミュレーションを行った結果、性能は飛躍的に向上した。磁界はコア内に効果的に集中し、漏れが大幅に減少。その結果、コイル間の相互インダクタンスが大きく増加した。

最も注目すべき結果は、ずれ条件での性能である。横方向に10cmずれた状態でも、出力は3,174.4Wに達し、効率は90.1%を記録。そして、実用上非常に厳しいとされる20cmのずれが生じても、出力は2,996.4W、効率は85%以上を維持した。これは、GB/T 38775.1-2020が定める「ずれ条件下でのシステム効率85%以上」という厳しい要件を、見事にクリアしていることを意味する。

実用化へのインパクトと将来展望

この研究成果の意義は、単なる理論的な優位性の提示にとどまらない。それは、動的ワイヤレス充電の実用化に向けた現実的な設計指針を提供した点にある。

まず、自動運転レベル4や5のような超高精度な車線維持がなくても、日常的な走行の中で自然に充電が可能になる。これは、インフラ整備のハードルを大きく下げることに繋がる。また、E型コアの採用は、伝送効率の向上だけでなく、EMIの低減という重要な課題にも貢献する。公共の道路に設置するインフラとしては、周囲への電磁的影響を最小限に抑えることが不可欠であり、この点でも本設計は優れている。

製造面でも、等減ピッチ巻線は既存の自動巻線機で実現可能であり、E型フェライトコアも量産品として市場に存在する。これは、本技術がすぐにでも量産車への搭載やインフラ整備に応用可能であることを示唆している。

今後の課題としては、シミュレーションではなく、実機による検証が挙げられる。路面の振動、温度変化、雨天時など、より過酷な実環境下での性能評価が必要となる。また、複数のコイルが連続して設置される動的充電路において、コイル間の干渉や、車両がコイルの境界を通過する際の電力のスムーズな切り替えも重要な検討事項である。

しかし、王らの研究は、ワイヤレス充電の「ずれ耐性」という最大の壁の一つを、巧みなパッシブ設計(能動的な制御ではなく、構造そのもので性能を発揮)によって乗り越える可能性を示した。これは、技術開発の方向性を大きく前進させるものであり、近い将来、高速道路を走りながら自然に充電されるEVの時代が現実のものとなるかもしれない。

円形コイルの最適化でEVワイヤレス充電のずれ耐性が向上
王鑫(Wang Xin)、趙暐華(Zhao Weihua)、衛軍朝(Wei Junzhao)、西安航空学院 車両工程学院
Journal of Xi’an Aeronautical University、doi: 10.3969/j.issn.1671-7449.2024.01.013