新型高効率モーター、EVの性能を革新
電気自動車(EV)用モーター技術に革命的な進展がもたらされた。南京理工大学の研究チームが、従来のV字型ローターを凌駕する性能を持つ永久磁石同期モーター(PMSM)の新設計を発表した。この画期的な成果は、同大学の王晶(ワン・ジン)、耿偉偉(ゲン・ウェイウェイ)教授らの研究により達成され、モーターの高出力密度と広い速度範囲というEVの核心的課題を解決する道を開くものだ。この研究は、電気工学分野の権威ある学術誌『中国電機工程学報(Proceedings of the CSEE)』に掲載され、その詳細な分析と実証が注目を集めている。
本研究の中心となるのは、ローター(回転子)の革新的な構造設計である。研究チームは、従来の「スポーク型」ローターと「ハルバッハ配列」の利点を融合し、さらに構造上の弱点を克服した。スポーク型ローターは、磁石を放射状に配置することで磁束を集中させ、高いトルクと出力密度を実現する。しかし、ローター内部での磁束漏れが大きく、エネルギー効率の向上を妨げていた。一方、テスラやトヨタなど多くのEVで採用されているV字型ローターは、弱め界磁能力に優れ、高速走行に適している。しかし、ローターの強度を保つための鉄心リブ(補強筋)が、これまた磁束漏れの原因となり、高価な希土類磁石の効率的な利用を阻んでいた。
この二つの課題を解決するために、研究チームは大胆な発想を実現した。まず、ハルバッハ配列の原理を取り入れた。この配列は、磁石の磁化方向を巧みに制御することで、磁束をローターの外側(空隙)に集中させ、内側への漏れを自然に抑制する特性を持つ。これをスポーク型の構造に組み合わせることで、従来の磁束漏れを大幅に低減した。さらに画期的なのは、V字型ローターに見られる鉄心リブを完全に取り払ったことだ。リブは構造的強度を保つために必要不可欠と思われていたが、その存在が磁束漏れの主要な原因となっていた。リブを撤去することで、磁束がより効率的に空隙を通過し、モーターの出力源となる「空隙磁束密度」が飛躍的に向上した。有限要素法(FEM)による解析では、新設計の空隙磁束密度は1.26テスラに達し、従来のV字型ローターの1.12テスラを12.5%上回った。この数値の差は、モーターの基本性能を大きく左右するものである。
しかし、単に磁束を集中させるだけでは不十分だ。EV用モーターには、高速走行時にも安定した出力を維持する「弱め界磁能力」が不可欠である。この能力は、「凸極比(サリエンシー比)」という指標で表される。凸極比とは、モーターのq軸(交差磁極軸)とd軸(直軸)のインダクタンスの比(Lq/Ld)であり、この比が大きいほど、磁石によるトルクだけでなく、磁気的凸極性を利用した「リラクタンストルク」を大きく取り出すことができる。リラクタンストルクは、モーターの効率を向上させ、弱め界磁時の出力維持に大きく貢献する。研究チームの新設計は、リブを撤去したことでq軸の磁路が長くなり、q軸インダクタンス(Lq)が増加。その結果、凸極比の最大値は2.01に達し、V字型ローターの1.95を上回った。この高い凸極比は、モーターの性能をより洗練されたものにする鍵となる。
これらの基本性能の向上は、モーターの実際の出力性能に直接的に反映される。ピーク電流を流した状態での最大出力は、新設計が61.1kW、V字型ローターが60.5kWと、すでに新設計が優位に立っている。しかし、真の差が顕著に現れるのは、高速域での「弱め界磁領域」である。モーターの回転数が上昇すると、発生する逆起電圧が高くなり、電源電圧の限界に達して出力が低下する。この限界を超えて高速回転を維持するためには、d軸に電流を流して磁石の磁束を打ち消す(弱める)制御を行う必要がある。新設計は、その凸極比の高さと最適化された磁気回路のおかげで、この制御が非常に効果的に行える。その結果、最高回転数6000r/minにおいて、新設計の出力は75.3kWを維持できたのに対し、V字型ローターは62.7kWに留まった。これは実に20%以上の差であり、高速走行時の余裕や、より軽量なバッテリーでの走行が可能になることを意味する。また、理論的な速度制御比(定格回転数に対する最高回転数の比)も、新設計が2.8:1、V字型ローターが2.5:1と、新設計が広い速度範囲をカバーできることが示された。
効率もまた、EVの航続距離に直結する重要な指標である。新設計は、空隙磁束密度の向上により鉄心損失がやや増加するものの、それ以上の出力向上と、リラクタンストルクの活用による銅損の削減が相殺し、全体の効率を向上させている。解析によると、新設計の最高効率は97.5%に達し、V字型ローターの97.0%を上回った。また、定格出力時や弱め界磁領域での効率も常に新設計が優れており、特に5500r/minの高負荷条件下では、新設計が96.01%、V字型ローターが95.21%という差が見られた。この一見小さな差も、EVの実用的な航続距離に顕著な差として現れる。
しかし、ローターのリブを撤去するという大胆な設計変更には、重大な懸念が伴う。それは、高速回転時に発生する巨大な遠心力に耐えられるかどうかという、構造的強度の問題である。リブのないローターは、回転中に外周の鉄心が剥離する危険性がある。この致命的な課題を解決したのが、カーボンファイバー製の「スリーブ(カバー)」の採用である。研究チームは、ローターの外周に0.5mm厚のカーボンファイバー複合材のスリーブを巻き付けることで、ローターを強固に保護した。カーボンファイバーは、その非常に高い引張強度と軽量性で知られ、F1マシンのモノコックなどにも使用される極めて信頼性の高い材料である。有限要素法による応力解析の結果は、この解決策の有効性を明確に示した。カーボンファイバーなしでは、ローター外周の変位は最大0.22mm、応力は255MPaに達し、破損のリスクが高かった。しかし、カーボンファイバーのスリーブを装着することで、変位は0.05mmにまで抑制され、応力も安全域である140MPa程度に抑えられた。これにより、新設計ローターの実用性と信頼性が立証された。
理論的な優位性と構造的信頼性が確認された後、研究チームは16極72スロットの30kW級プロトタイプモーターを製作し、実験による検証を行った。実験結果は、シミュレーションと非常に高い一致を示した。例えば、3000r/minでの無負荷線間逆起電力は、シミュレーション値に対して3.7%低い170.5Vであったが、これは温度上昇による磁石の磁束密度低下などの要因で説明可能な誤差範囲内である。効率の測定でも、定格条件下での最高効率は96.1%に達し、シミュレーションと同様の高い水準を確認した。これらの実験的成功は、新設計が理論上のアイデアにとどまらず、実際に製造・運用可能な実用的な技術であることを証明している。
また、EVの快適性に直結する「騒音・振動・ハーシュネス(NVH)」性能についても、詳細な分析が行われた。新設計は、歯車トルク(コギングトルク)がやや大きいという欠点があるが、その影響は限定的である。電磁力の周波数分析では、両モーターとも低周波数帯域に大きな力が存在するが、新設計は高周波数帯域での電磁力成分が顕著に低いことがわかった。人間の耳は高周波の音に敏感であるため、この特性は実際の騒音レベルを低下させる上で有利に働く。実測された騒音レベルも、定格運転条件下で新設計モーターの最大値が60dB未満と、実用上問題のないレベルに抑えられており、NVH面での大きな問題はないと結論づけられた。
この研究の成果は、EV産業に多大な影響を与えるものである。まず、同じ量の希土類磁石を使用しながら、トルク密度と出力密度をともに11.7%向上させたことは、モーターの小型・軽量化に直結する。これは、車両の航続距離の延伸、車両重量の軽減による燃費改善、あるいはより自由な車両レイアウトの実現につながる。さらに、新設計のローター内径が157mmと、V字型ローターの140mmよりも大きく、モーター内部にセンサーや冷却パイプ、さらには二次的な機械を統合するスペースが生まれる。これは、電動ドライブシステムの高集積化を推進する上で大きな利点となる。そして何より、カーボンファイバーによる構造補強という手法が成功したことで、今後、さらなる高速化や高出力化を追求するモーターの設計に、新たな道が開かれた。
結論として、南京理工大学の王晶、耿偉偉、劉東旭、呉彩権、李磊、李強、郭健の研究チームが発表したこの新設計は、EV用モーターの性能を再定義するものである。従来の設計の長所を融合し、短所を克服することで、高出力密度、広い速度範囲、高効率、そして実用的な構造強度を同時に達成した。これは単なる技術的な改良ではなく、モーター設計のパラダイムシフトに近いものだ。この研究は、EVのさらなる普及と性能向上に貢献するだけでなく、電気自動車の未来を形作る重要な一歩となるだろう。王晶、耿偉偉、劉東旭、呉彩権、李磊、李強、郭健、南京理工大学、中国電機工程学報、DOI: 10.13334/j.0258-8013.pcsee.222707