新開発モーター、EVの性能と静粛性を革新

新開発モーター、EVの性能と静粛性を革新

電気自動車(EV)の駆動用モーター技術に新たな風が吹いている。中国の研究チームが、スイッチドリラクタンスモーター(SRM)の長年の課題を克服する画期的な新設計を発表した。この新しい「軸径ハイブリッド磁束分断ロータスイッチドリラクタンスモーター」(ARFSRSRM)は、従来のSRMが抱えていたトルクリップル(出力の脈動)の大きさとトルク密度の低さという二大欠点を同時に解決し、EVのコア技術としての可能性を大きく広げるものだ。

この研究は、中国鉱業大学電気工学部の閆文挙(Yan Wenju)博士をリーダーとする研究チーム、および南昌大学情報工学部の王青(Wang Qing)博士らによって行われ、その成果は学術誌『Power System Protection and Control』に掲載された(DOI: 10.19783/j.cnki.pspc.246010)。研究チームは、エネルギー効率の高さと構造の堅牢性で知られるSRMの利点を最大限に活かしつつ、その最大の弱点である「走行中の振動と騒音」を解消する方法を模索してきた。

SRMは、永久磁石を一切使用しない点が最大の特徴であり、強みでもある。近年、EVの主流である永久磁石同期モーター(PMSM)は、ネオジムなどレアアース(希土類)元素を大量に必要とする。これらの資源の供給は地政学的リスクが高く、価格も不安定で、採掘には環境負荷も伴う。これに対し、SRMは鉄と銅の巻線で構成されるシンプルな構造のため、材料費が安く、サプライチェーンも安定しており、環境への配慮も高い。また、高温環境でも磁力が失われないため、冷却システムの負担も軽減される。

しかし、そのシンプルな構造が逆に弱点を生んでいた。SRMは、ローター(回転子)とステーター(固定子)の歯が噛み合うタイミングで磁気を発生させ、トルクを生み出す。この噛み合いの瞬間と、次の噛み合いまでの間にトルクの出力に大きな差が生じる。これが「トルクリップル」として、車体の振動や不快な「ブンブン」という音としてドライバーに伝わる。これは、静粛性が生命線である高級車や、快適性を求める大衆車にとって致命的な欠点だった。

閆博士らの研究チームは、この根本的な問題に、全く新しい構造設計で挑んだ。彼らの提案するARFSRSRMの核心は、「軸方向」と「径方向」の二つの磁束経路を一つのモーターに統合した点にある。モーターの中心には分断されたローターが配置され、その両端には軸方向に磁束を流すためのステーターが、また外周には径方向に磁束を流すためのステーターが取り付けられている。つまり、一つのローターが、二つの異なるモーター構造(軸方向モーターと径方向モーター)を共有しているのだ。

この設計の真の革新性は、ローターがステーターの歯と噛み合わない「非整列位置」での動作にある。研究チームは、ここで発生する軸方向の磁束と径方向の磁束が、意図的に打ち消し合うように設計した。この「磁束の打ち消し合い」により、モーターの最小インダクタンス(誘導性)が劇的に低下する。モーターの出力トルクは、最大インダクタンスと最小インダクタンスの差(磁気共エネルギー)に比例するため、この差を大きくすることが、より大きなトルクを生み出す鍵となる。ARFSRSRMは、この差を従来のSRMよりもはるかに大きくすることで、トルク密度を飛躍的に向上させた。

また、この設計はトルクリップルの低減にも寄与している。非整列位置での磁束の打ち消し合いは、トルクの最小値をさらに下げることで、最大値との差(つまりリップル)を相対的に小さくする効果もある。結果として、出力トルクの脈動が抑えられ、走行中の振動と騒音が大幅に軽減される。

研究チームは、この理論を実現するため、非常に緻密な設計と最適化プロセスを経た。まず、モーターの出力(1.5kW)や回転数(1000rpm)などの基本仕様を定めた。次に、モーターの性能に最も影響を与える4つの構造パラメータ(径方向ステーターの極靴長さ、極アーチ角、軸方向ステーターとローターのギャップ幅、ローターのスロット幅)を特定した。

ここで用いられたのが「タグチ法」と呼ばれる統計的手法である。4つのパラメータをそれぞれ4段階のレベルに分け、理論上は256通りの組み合わせが存在するが、タグチ法の直交表を用いることで、たった16回のシミュレーションで、最も優れた組み合わせを特定することができた。これは、すべての組み合わせを試す従来の方法に比べて、計算時間と労力を大幅に削減する画期的なアプローチである。

最適化の目標は、平均トルク、トルクの滑らかさ(トルクリップルの逆数)、トルク密度の3つだった。最適化の結果、初期設計と比べて、平均トルクは23.4%、トルクの滑らかさは19.54%、トルク密度は32.7%も向上した。これは、モーターの性能を大きく飛躍させたことを意味する。

この設計の有効性を検証するために、研究チームは3次元有限要素法(FEM)シミュレーションを用いて、従来の径方向モーター構造のSRM(RFSRSRM)との詳細な比較を行った。その結果、ARFSRSRMは最大インダクタンスと最小インダクタンスの比が2.58に達し、比較対象の1.94を大きく上回った。これは、理論通りに磁束の打ち消し合いが機能し、トルクを生み出す能力が優れていることを裏付けている。

さらに、静的特性シミュレーションでは、軸方向モーターと径方向モーターを個別に動作させた場合のトルクの合計よりも、両方を同時に動作させた場合のトルクの方が大きくなることが確認された。これは、二つの磁束が単に足し算されるのではなく、相互に作用して「相乗効果」を生み出していることを示しており、ハイブリッド構造の真価を証明している。

動的特性のシミュレーションでは、実際のEV駆動に近い条件下で性能を評価した。96Vの直流電源下で、電流チョッピング制御(CCC)と角度位置制御(APC)という二つの制御モードを用いた。その結果、ARFSRSRMは1000rpmで14.39Nmの平均トルクを発生させ、トルクリップルも抑制された。一方、同じ条件でシミュレーションされた従来型のRFSRSRMは、平均トルクが10Nmと低く、トルクリップルも大きかった。また、トルク密度でも、ARFSRSRMは5.9×10³ N/m³を達成し、RFSRSRMの3.92×10³ N/m³を大きく上回った。

この新設計の利点は、性能の向上にとどまらない。ローターはエポキシ樹脂製のディスクで固定されており、空気抵抗(風損)を低減し、高速回転時の効率を向上させている。また、軸方向に配置された二つのステーターは、磁気的にバランスが取れており、ベアリングへの負荷を軽減し、モーターの寿命を延ばす効果もある。さらに、「同極ステーター極」と呼ばれる構造により、隣接するステーター極の巻線の極性を同じにすることで、磁束経路を短縮し、エネルギー効率を高めている。

この研究の意義は、単なる技術的な進歩にとどまらない。SRMの性能をPMSM並み、あるいはそれ以上に引き上げることで、EVの駆動モーターに新たな選択肢を提供する。これにより、レアアースに依存しない、より持続可能でコスト効率の高いEVの実現が近づく。特に、コストが重要な大衆車や、サプライチェーンの安定性が求められる市場において、大きなインパクトを与えるだろう。

閆文挙(Yan Wenju)、楊宏偉(Yang Hongwei)、辛俊(Xin Jun)、陳昊(Chen Hao)、于豐源(Yu Fengyuan)、王青(Wang Qing)、中国鉱業大学、南昌大学、Power System Protection and Control、DOI: 10.19783/j.cnki.pspc.246010