運転習慣を反映したEVのCO₂削減量算出法

運転習慣を反映したEVのCO₂削減量算出法

電動化は、自動車産業がカーボンニュートラルを達成するための中心的な戦略である。電気自動車(EV)は、ガソリン車に比べてライフサイクル全体の二酸化炭素(CO₂)排出量を平均43.4%削減できるとされ、環境改善に大きな期待が寄せられている。しかし、個々のEVが実際にどの程度の環境貢献をしているのかを正確に測定することは、意外にも困難な課題である。従来の算出方法は、走行距離や車両の公的燃費データに依存しており、ドライバーの「運転習慣」という重要な要素を無視してきた。その結果、実際の環境貢献度と乖離した数字が算出され、個人の環境行動を評価・報酬する「カーボンプルーフ」制度の信頼性を損なう可能性があった。

この課題に一石を投じる画期的な研究が、中国・東南大学の劉子仟(Liu Ziqian)氏らの研究チームにより発表された。彼らは、運転者の習慣がEVのエネルギー消費に与える影響を詳細に分析し、それらを反映した新たなCO₂削減量計算モデルを構築した。この研究は、EVの環境効果をより正確に評価し、個人の努力に応じた公平なインセンティブを提供する「カーボンプルーフ」の実現に向け、科学的な基盤を提供するものだ。

本研究の核心は、「等価航続距離」という概念を用いた新たなアプローチにある。従来の方法では、EVの充電量を車両マニュアルに記載された「kWh/100km」の数値で割ることで、ガソリン車に換算した走行距離(等価航続距離)を算出していた。しかし、これはあくまで理想的なテストサイクル下での数値であり、実際の使用状況とは大きく異なる。研究チームは、この単純な計算式に、運転者の「運転習慣」を反映する3つの主要な影響因子を組み込むことで、大幅な精度向上を実現した。

第一の因子は「エアコンの使用」である。これは、走行以外のエネルギー消費の中で最も大きな割合を占める。研究では、エアコンの消費電力が、車内設定温度と外気温の差に指数関数的に依存することが示された。つまり、真冬に0℃の外気から20℃に暖房する場合と、春先に10℃から20℃に暖房する場合では、消費電力に劇的な差が生じる。従来のモデルはこの差を無視していたため、寒い日や暑い日に長距離を走行した場合、実際よりも大きなCO₂削減効果を過大評価していた。新しいモデルは、この「エアコン負荷」を正確に計算し、等価航続距離から差し引くことで、実態に近い評価を可能にしている。

第二の因子は「走行モード」の選択である。多くのEVには「エコ」「ノーマル」「パワーモード」などの走行モードが搭載されている。これらのモードは、単なる加速感の違いではなく、根本的なエネルギー効率に大きな影響を与える。研究チームは、各モードのトルク制御ロジックを詳細に分析した。例えば、「エコモード」では、アクセルの踏み込みに対して出力が控えめに制御され、ブレーキ時のエネルギー回生も非常に積極的に行われる。これにより、同じ充電量でより長く走行できる。一方、「パワーモード」では、瞬発的な加速性能を優先するため、エネルギー回生が弱められ、消費電力が増加する。研究では、このモードの違いが等価航続距離に最大で17%もの差を生むことが定量的に示された。これは、同じEVを同じルートで走行しても、運転者のモード選択次第で、算出されるCO₂削減量が大きく異なることを意味している。

第三の因子は「車両の積載重量」である。乗員の人数や積載物の重さが増えると、車両の慣性質量が増大し、加速時により多くのエネルギーを必要とする。研究では、この影響を「積載係数」としてモデルに組み込んだ。ただし、都市部のような頻繁な発進・停止を繰り返す走行では、空気抵抗よりもこの加速抵抗の影響が支配的となるが、高速道路のような一定速度走行ではその影響は相対的に小さくなる。本研究では、一般の乗用EVの乗員による重量変化は車両総質量の5%程度であり、他の要因に比べて影響が小さいと判断され、固定の係数として扱われている。

これらの3つの因子を統合することで、研究チームは従来の「等価航続距離」の計算式を大幅に改良した。新しいモデルは、単なる「充電量÷公的燃費」という静的な計算から、運転者の行動という「動的な要因」を反映する、はるかに現実的な計算式へと進化した。この「等価航続距離」を基に、CO₂削減量は次のように算出される。まず、同じ距離を走行した場合のガソリン車のCO₂排出量(ベースライン)を計算する。次に、EVの充電に伴って発生する発電所からのCO₂排出量を計算する。両者の差が、EVが実際に削減したCO₂量となる。この最終的な算出結果の精度は、ベースラインの「等価航続距離」の正確さに直結している。

研究チームは、この新しいモデルの有効性を実際のデータで検証した。複数のユーザーが所有する国内ブランドのEVの実走行データを長期にわたって収集し、異なる季節、異なる走行モード、異なる乗員数の条件下で、新モデルと従来モデルの算出結果を比較した。その結果は驚くべきものだった。従来モデルの計算精度は82.47%であったのに対し、新モデルではその精度が96.33%まで向上した。これは、従来の方法では見逃されていた、走行1キロメートルあたり平均18.83グラムのCO₂削減効果を、新モデルが正確に捉えられたことを意味する。この差は、個人レベルでは小さく見えるが、全国の数百万台のEVが毎日走行することを考えると、累積された誤差は莫大な量に上る。新モデルは、この膨大な「見えない削減量」を可視化し、正確に評価することができる。

さらに重要なのは、このモデルの汎用性である。研究チームは、検証を自らの研究対象となった車種にとどめず、他の国内ブランド2種類と海外ブランド1種類のEVにも適用した。異なる車両構造や制御ロジックを持つこれらのモデルに対しても、新モデルは同様に高い精度を発揮した。これは、本研究が特定の車両に特化した特殊な理論ではなく、広く適用可能な普遍的な計算手法であることを示している。全国規模の「カーボンプルーフ」制度を構築する上で、異なるメーカー、異なるグレードの車両を公平に評価できる基盤が整ったことを意味する。

この研究の意義は、単に計算精度を高めたことにとどまらない。それは、環境貢献の主役が「技術」から「人」へとシフトすることを示唆している。EVという技術が環境に優しいのは事実だが、そのポテンシャルを最大限に引き出すのは、日々の運転を担うドライバーの意識と行動である。エアコンを適切に使い、エコモードを活用し、不要な重さを積まない。こうした一見些細な習慣の積み重ねが、実際のCO₂削減量に大きな差を生む。従来の評価方法は、こうした努力を無視し、すべてのEVユーザーを同一視していた。これでは、環境に配慮した運転をするモチベーションを削ぐことになりかねない。

新しいモデルは、こうした「努力の見える化」を可能にする。カーボンプルーフ制度にこのモデルを採用すれば、環境に配慮した運転をするドライバーほど、より多くのインセンティブ(ポイント、割引、クレジットなど)を獲得できるようになる。これは、単なる報酬ではなく、社会がその努力を「価値」として認めていることを示すシグナルとなる。結果として、より多くの人々が環境に配慮した運転習慣を身につけ、EVの環境効果を最大化する好循環が生まれる。

結論として、劉子仟氏らの研究は、EVの環境評価という分野に科学的で公平な視点をもたらした。運転習慣という個人の行動を、エネルギー流動の物理モデルに基づいて定量的に評価するというアプローチは、単なる理論の革新を超え、持続可能なモビリティ社会の実現に向けた重要な一歩である。今後、このモデルが政策や民間のカーボンプルーフプログラムに採用され、個人の小さな努力が確実に社会の大きな変化につながる世界が、現実のものとなることを期待したい。

劉子仟、黄莉、陸婋泉、劉京易、張婭楠、東南大学電気工学部;国网江蘇電力有限公司マーケティングサービスセンター;国网江蘇電力有限公司、Power Demand Side Management、DOI: 10.3969/j.issn.1009-1831.2024.02.010