開巻モーターを活用したEV用統合充電システム

開巻モーターを活用したEV用統合充電システム

電動車両(EV)の普及に伴い、充電インフラの課題は依然として業界の注目を集める重要なテーマである。急速充電スタンドは短時間で充電できる利点がある一方で、設置コストの高さ、都市部での占有面積の大きさ、そして電力網への負荷という課題も抱えている。このような状況下、車両に搭載されたシステムを活用して自宅のコンセントから充電を行う「オンボード充電器(OBC)」の重要性が高まっている。しかし、従来のOBCは専用のパワーデバイスを必要とし、車両の重量やコストを増加させるという欠点がある。このジレンマを解決するため、中国の研究者たちが画期的な技術を開発した。

南京航空航天大学の郭磊(Guo Lei)氏をリーダーとする研究チームは、開巻永久磁石同期モーター(OW-PMSM)と二重バッテリー構成を活用した、全く新しい「統合型充電システム」を提案した。この研究は、電気工学分野の権威ある学術誌『Transactions of China Electrotechnical Society』に掲載され、そのDOIは10.19595/j.cnki.1000-6753.tces.230426である。このシステムの最大の特徴は、走行用のモーターとインバーターを、充電時にはそのまま充電器として再利用する点にある。これにより、専用の充電回路を追加する必要がなく、車両の軽量化とコスト削減を同時に実現できる。

この技術の核心は、「開巻モーター」という特殊なモーター構造にある。一般的なモーターでは、三相のコイル(巻線)が内部でスター結線やデルタ結線されている。一方、開巻モーターは、各相の巻線が独立しており、それぞれが独立したインバーターに接続されている。この構造により、モーターは通常の走行モードに加え、二重インバーターを活用した高度な制御が可能になる。郭氏らの研究は、この特性を最大限に活かして、充電プロセスを再構築した。

具体的な動作原理は以下の通りである。車両が充電モードになると、三相交流電源がモーターの各相巻線の中間点に接続される。これにより、モーターの二つのインバーターは、走行時の「モーター駆動回路」から、充電時の「アクティブ整流器(VSR)」へと機能を変換する。さらに驚くべき点は、モーター自身の巻線が、充電回路に不可欠な「フィルター用リアクトル(インダクタンス)」として機能することだ。通常の充電器では、このリアクトルは別途の大型のコイルとして実装され、重量と体積の大部分を占める。しかし、このシステムでは、既存のモーター巻線をそのまま利用することで、これらの追加部品を完全に削除する。これは、EVの設計において、空間の有効活用と軽量化の観点から、非常に大きな進歩である。

また、このシステムは「二重バッテリー」構成と相性が良い。近年、一部の高級EVや商用車では、長距離走行用の高容量バッテリーと、瞬時高出力用の高パワー密度バッテリーを組み合わせる二重バッテリー構成が登場している。郭氏らの統合充電システムは、開巻モーターの二重インバーター構造を活かし、二つのバッテリーを同時に、かつ独立して充電することが可能だ。一つのインバーターが一つのバッテリーを充電し、もう一つのインバーターがもう一方のバッテリーを充電する。これにより、異なる化学組成や充電特性を持つ二つのバッテリーを、最適な条件で効率よく充電できる柔軟性を備えている。

しかし、現実の運用では一つの大きな課題が存在する。二つのバッテリーは常に同じ充電状態(SOC)にあるとは限らない。一方のバッテリーがもう一方より空の場合、その負荷抵抗(等価負荷)は異なり、結果として二つの充電チャンネルの出力電力がアンバランスになる。この電力のアンバランスは、モーターの二つの巻線に流れる交流電流の大きさが等しくなくなることを意味する。モーターは充電中は回転していないが、このアンバランスな電流は、モーター内部に「脈動トルク」または「トルクリプル」と呼ばれる脈動する回転力(トルク)を発生させる。

この脈動トルクは、単なる理論上の問題ではない。実際の車両では、これが振動や異音(ブーンといううなり声やガタガタという音)として現れ、車内の静粛性というEVの大きな魅力を損なう。さらに、長期間にわたる振動は、ギアボックスやベアリングなどの機械部品に疲労を与え、耐久性に悪影響を及ぼす可能性がある。したがって、この脈動トルクをいかに抑制するかが、この統合充電システムの実用化における最大の鍵となる。

この難題を解決するために、研究チームは「準直接電力制御(Quasi-Direct Power Control, QDPC)」と呼ばれる革新的な制御戦略を開発した。従来の制御方法は、電力網の周波数と同期した回転座標系(dq軸)で動作する。これには、電圧の位相を追跡する「位相同期ループ(PLL)」が必要であり、複雑な座標変換や、d軸とq軸の電圧を分離する「デカップリング計算」も必要となる。これらの計算は、車載のマイコン(DSP)に大きな負荷をかけ、動的な負荷変化に対応する際の応答性を低下させる。

QDPC戦略は、この複雑さを根本から回避する。この戦略は、回転座標系ではなく、静止したαβ座標系で直接動作する。電力網の位相を追跡するPLLを必要とせず、瞬時電力理論を用いて、電力網電圧と目標電力から直接、目標電流の指令値を算出する。これにより、複雑な座標変換やデカップリングが不要となり、制御アルゴリズムが劇的に簡素化される。また、内側の電流制御ループには、特定周波数(50Hz)に対して無限大のゲインを持つ「PR制御器(比例共振制御器)」を採用している。これにより、交流電流を誤差なく正確に追従制御でき、高力率(力率1に近い)での充電を実現する。この高力率は、電力網への歪み(高調波)を最小限に抑え、電力会社にとっても好ましい特徴である。

このQDPC戦略の優位性は、シミュレーションと実機実験によって裏付けられている。研究では、二つのチャンネルの負荷比が1.5(片方の負荷が40%大きい)という極端なアンバランス条件下で実験が行われた。その結果、従来の基本的な電力バランス制御では、脈動トルクのピークツーピーク値が1.76N・mに達したのに対し、QDPCを用いた場合、その値は1.21N・mにまで抑制された。これは約31%の低減であり、振動や異音の大幅な改善が見込まれる。さらに、負荷が変化する動的条件下では、QDPCの応答性の高さが顕著に現れた。電力の変動量はQDPCの方が小さく、システム全体の安定性が格段に向上している。

この技術の意義は、単に充電効率を高めるだけにとどまらない。まず、部品点数の削減は、製造コストの削減、リサイクルの容易さ、そして何よりも車両重量の軽減に直結する。これは、EVの「航続距離」に直接貢献する。また、自宅や職場の普通のコンセントで効率よく充電できるため、ユーザーの利便性が飛躍的に向上する。特に、商用車両のフリートオペレーターにとっては、夜間の安価な電力で充電でき、急速充電スタンドに依存しない運用が可能になるため、運用コストの削減に大きく貢献する。

将来的な展望として、この技術は「V2G(Vehicle-to-Grid)」機能と組み合わせる可能性を秘めている。V2Gとは、EVのバッテリーに蓄えた電力を、電力需要のピーク時に電力網に返送する仕組みである。QDPCのような高精度な電力制御技術があれば、EVは単なる移動手段ではなく、家庭や地域の「移動式蓄電池」として機能し、スマートグリッドの重要な一員となる。このように、郭磊氏らの研究は、EVの充電技術という局所的な課題を解決するだけでなく、エネルギーインフラ全体の変革に向けた一歩を示している。

もちろん、この技術が実用化されるまでには越えなければならない課題もある。例えば、大量生産時のモーター巻線の微細な非対称性が、脈動トルクの抑制に影響を与える可能性がある。また、開巻モーター自体の製造コストや、その普及度合いも、今後の展開に影響を与えるだろう。しかし、これらの課題は、今後の研究開発によって解決可能な範囲内にある。

結論として、郭磊、魏佳丹、王艺威、周波、王寅の研究チームが開発したこの統合充電システムは、EVの次世代技術として非常に高いポテンシャルを秘めている。モーターという既存のハードウェアを、走行と充電という二つの異なる機能に巧みに再利用するという発想の転換は、まさに「エレガントな解決策」と言える。また、それを支えるQDPCという高度な制御技術は、システムの信頼性と快適性を確保する鍵となっている。この研究は、EVがより身近で、より持続可能な交通手段として定着していくための、重要な一里塚となるだろう。

郭磊,魏佳丹,王艺威,周波,王寅,Transactions of China Electrotechnical Society,DOI: 10.19595/j.cnki.1000-6753.tces.230426