電動化が中国の粉末冶金産業に与える影響
世界の自動車産業は、電動化という大きな潮流の中で新たな局面を迎えている。この変化は、自動車メーカーだけでなく、サプライチェーン全体に深い影響を及ぼしている。特に、長年にわたり内燃機関(ICE)車両の生産を支えてきた粉末冶金(PM)部品産業は、今まさに転換期に立っている。中国は世界最大の自動車市場であり、同時に30年以上にわたる発展を経て、世界有数の粉末冶金部品生産国へと成長した。しかし、電動自動車(EV)の急激な普及は、この産業に大きな挑戦と同時に、新たな成長の機会をもたらしている。
中国の粉末冶金産業は、国内の多様な需要を背景に、急速に発展してきた。中国機械一般部品工業協会粉末冶金分会(CMPMA)の統計によると、2023年度の同協会会員企業の総売上高は97.1億元に達し、そのうち粉末冶金部品の売上高は76.6億元を突破した。これは前年比5.7%の成長であり、その主な要因は、2023年に中国の自動車産業がPM部品に対して15.4%以上もの需要増加を示したことにある。この成長は一時的なものではなく、1996年以降、中国のPM部品産業は年平均9.9%の複合成長率を維持しており、その基盤の強さを示している。
2023年の中国PM部品市場構成をみると、自動車部品が55.4%を占め、最大の市場であることが明らかだ。これに次ぐのが家電製品部品(19.5%)、建設機械部品(7.7%)、電動工具部品(6.4%)となる。このように、中国のPM産業は自動車に依存しているものの、家電、建設機械、農業機械、電動工具など、多様な分野への展開が進んでおり、これが産業の安定性と回復力を支えている。また、中国のPM部品市場は主に国内需要に支えられており、輸出額は全体の約17.0%にとどまっている。これは、国内市場の規模の大きさと、多様な産業からの継続的な需要の存在を物語っている。
しかし、自動車産業そのものが大きな転換点を迎えている。中国自動車工業協会のデータによると、2023年の中国の自動車販売台数は3009.4万台に達し、前年比12.0%の伸びを記録した。これは、2017年のピーク以来、減少傾向にあった販売台数が再び最高記録を更新したことを意味する。この回復の大きな原動力となったのが、新エネルギー自動車(NEV)の急速な普及である。2023年のNEV販売台数は949.5万台にのぼり、全体の31.6%を占めた。さらに、純電動車(BEV)の販売台数は668.5万台に達し、NEV全体の70.4%を占めた。この数値は前年比で7.5ポイント低下したものの、その絶対的な販売台数は過去最高を記録しており、電動化の流れが不可逆的であることを示している。
この自動車産業の構造変化は、PM産業にとって直接的な影響を与える。BEVの動力システムは、ICE車両に比べて部品点数が劇的に少ない。これにより、エンジンやトランスミッションに使用される伝統的なPM部品(ギア、スプロケット、バルブトレイン部品など)の需要は、長期的には減少していくと予想される。これは、PM産業が長年築き上げてきたビジネスモデルに根本的な疑問を投げかけるものだ。
しかし、これは単なる「終焉」ではなく、「変革」の始まりでもある。曹陽教授(東睦新材料集団有限公司)と邱耀弘博士(昆山耀德企業諮詢有限公司)の分析は、この変化を単なる脅威ではなく、新たな機会として捉えている。確かに電動化は一部の市場を縮小させるが、同時に、PM技術が活かせる新しい応用分野を生み出している。この視点こそが、産業の未来を切り拓く鍵となる。
まず、最も注目される新分野が、EVのモーターである。永久磁石同期モーター(PMSM)に使用されるソフトマグネティックコンポジット(SMC)は、粉末冶金技術によって製造される。従来の積層鋼板コアと比べ、SMCは三次元的な磁束経路を形成でき、渦電流損失を低減し、複雑な形状の設計が可能になる。これは、高効率・高出力のEVモーターにとって極めて重要な特性である。この分野への参入は、PM産業が「押して焼く」(Press-and-Sinter)技術の枠を超えて、新たな技術領域に踏み出す象徴的な動きである。
中国のリーディングカンパニーである東睦新材料集団(NBTM)は、この戦略的転換を先導している。同社は2023年に、PM部品で19.75億元の売上を記録し、中国最大のPM部品メーカーとしての地位を確立している。しかし、その特筆すべき点は、売上の多様化にある。同年、同社はソフトマグネティック材料で8.26億元、金属粉末射出成形(MIM)部品で10.22億元の売上をあげた。これは、NBTMがPM部品メーカーという枠組みから、先進材料・先進成形技術を提供する総合素材メーカーへと進化していることを示している。同社は2010年からSMC技術の研究を開始し、2014年に専門企業を買収することで本格的に参入。さらに2019年には、上海富馳高科技を買収し、MIM分野に進出した。この一連の戦略的投資は、電動化時代に求められる技術ポートフォリオを体系的に構築した好例である。
NBTM以外にも、揚州保来得、江蘇鷹球集団、重慶華孚といった大手企業が、それぞれの強みを活かして市場を展開している。特に、揚州海昌新材料のように、電動工具という成長市場に特化して急速に成長を遂げている企業も現れている。これらの企業は、伝統的なPM技術の深化だけでなく、MIMや磁性材料への投資を進め、ビジネスの多角化を図っている。中国の高度に発達した市場メカニズムと、活発な資本市場は、こうした企業の迅速な戦略的対応を可能にしている。
技術革新の面でも、中国のPM産業は停滞していない。伝統的な「押して焼く」技術の限界を突破するため、密度向上技術が積極的に導入されている。例えば、金型壁潤滑技術を用いることで、鉄系部品の密度を7.5 g/cm³以上まで高めることができる。また、表面緻密化技術により、ギア歯面や端面の密度を7.4 g/cm³以上にすることで、耐摩耗性や疲労強度を飛躍的に向上させ、より過酷な使用環境にも対応できるようになっている。これらの技術革新は、自動車の高効率化や軽量化の要求に応えるだけでなく、航空宇宙や産業機械など、より高付加価値な分野への参入を可能にする。
さらに、PM産業の応用は自動車以外の分野でも広がっている。家電分野では、冷凍機のコンプレッサー用バランスウェイトやバルブプレートにPM部品が不可欠であり、その需要は安定して続く。建設機械や農業機械では、高耐圧性を要求される油圧部品が、鋳物や切削品に代わってPM部品で製造されるケースが増えている。再生可能エネルギー分野では、風力発電機のギアボックスや太陽光発電の追尾装置にもPM部品が使用され、その需要は今後さらに拡大すると見られる。
中国のPM産業がこれほどまでに迅速に適応できている背景には、いくつかの要因がある。第一に、産業が発展したのがここ30年という比較的最近のことであり、企業家たちは市場の変化に常にさらされてきたため、変化への適応力が高い。第二に、中国国内には巨大かつ多様な市場があり、自動車産業の変化があっても、他の産業からの需要で支えられる「安全網」が存在する。第三に、政府の先端製造業への支援や、活発な資本市場が、企業の技術開発やM&Aを後押ししている。
今後の展望について、曹教授と邱博士は、産業の持続的な発展のためには、技術の基礎研究と革新応用の強化、そして国際的な技術交流と協力の継続が不可欠であると指摘している。電動化は中国だけでなく、世界中のPM産業が直面する共通の課題である。閉じこもるのではなく、グローバルな視野で技術を開発し、協力することが、真の競争力の源泉となる。
結論として、電動化は中国の粉末冶金産業にとって、確かに大きな挑戦である。しかし、それは同時に、産業の構造を刷新し、新たな高みへと昇華させる絶好の機会でもある。過去に依存するのではなく、未来を見据えて革新と多角化を推し進めることで、中国のPM産業は、自動車産業の変革を乗り越え、より強靭で持続可能な成長を遂げることができるだろう。自動車が進化する中で、その基盤を支える素材技術もまた、静かに、しかし確実に進化を続けている。
曹陽、東睦新材料集団有限公司;邱耀弘、昆山耀德企業諮詢有限公司。『粉末冶金技術』掲載、DOI: 10.19591/j.cnki.cn11-1974/tf.2023060007