電動建設機械向けデュアルソースヒートポンプシステムの効率向上
重機の電動化が急速に進む現代において、持続可能性と低炭素化への要求は従来のディーゼルエンジンに代わる新たなソリューションを必要としている。特に寒冷地での稼働時、従来の電気抵抗式ヒーターによる暖房システムはバッテリー電力を大量に消費し、稼働時間の短縮という重大な課題を抱えていた。この問題を解決する画期的な技術として、華僑大学の研究チームが開発したデュアルソースヒートポンプ空調システムが注目を集めている。
寒冷環境下における電動重機の課題
建設機械の電動化は排ガスゼロ化やメンテナンスコスト削減などの利点を持つ一方、内燃機関に比べ廃熱発生量が極端に少ないことが弱点だった。冬季の稼働時、運転席の暖房に必要な熱エネルギーを従来のPTCヒーターで賄う場合、バッテリー容量の30~50%を消費するケースも報告されている。これにより、充電間隔の短縮や総所有コストの上昇が電動化普及の障壁となっていた。
従来のヒートポンプ技術では、外気温が氷点下になると蒸発器の霜付きや冷媒性能の低下が発生し、暖房能力が大幅に低下する問題があった。華僑大学の研究チームはこの課題を克服するため、電動駆動システムから発生する廃熱を第二熱源として活用する独創的なシステム設計を考案した。
二重熱源活用による革新的な熱管理
開発されたシステムの中核となるのは、環境条件に応じて熱源を最適化する動的な制御機構である。主な動作モードは以下の2種類:
1. 外気熱源モード
外気温が0℃以上の場合、通常のヒートポンプと同様に大気熱を利用。寒冷地以外の地域や温暖期に適した基本動作モードとなる。
2. 電動駆動熱源モード
気温が氷点下に低下した際、電動モーターやインバーターの冷却回路から回収した廃熱を追加熱源として活用。プレート式熱交換器を介してシステムに熱エネルギーを供給する。
特筆すべきは、単なる熱源の追加ではなく、熱管理システム全体を再設計した点にある。バルブネットワークと制御アルゴリズムを最適化し、熱源切り替え時の動作継続性を確保。これにより運転中のシステム停止を回避し、安定した熱供給を実現している。
シミュレーションによる性能検証
研究チームはAMESimソフトウェアを用いたシミュレーション解析を実施。外気温(-15℃~15℃)、コンプレッサー回転数(1000~5000rpm)、廃熱量(低・中・高)の組み合わせ条件下でシステム性能を詳細に分析した。
外気温15℃でのテストでは、コンプレッサー回転数3000rpm時に暖房能力2453Wを達成。しかし-15℃では外気熱源のみでは性能が大幅に低下するのに対し、電動駆動熱源を併用した場合は3945Wの暖房能力を維持可能であることを確認した。
性能係数(COP)に関しては、電動駆動熱源モードが2.62を記録。これは外気熱源単独モード(COP1.37)と比較して91.2%の向上を示している。特に-15℃の極低温環境下でも35.45℃の温風供給が可能であり、運転者の快適性維持基準(18℃以上)を大きく上回る結果となった。
実機による実証試験
シミュレーション結果を検証するため、華南重型機械の8トン電動クローラークレーン(HNE80W-EL)をベースに実証プラットフォームを構築。油圧回路やバッテリー熱管理システムを含む完全なサブシステムを再現し、様々な負荷条件下での実測データを収集した。
外気温27℃、コンプレッサー回転数1500rpmの条件では、電動駆動熱源モードが2900Wの暖房能力を発揮。外気熱源単独モード(2043W)との比較で41.9%の性能向上を確認した。エネルギー消費量も34.4%削減され、キャビン温度10℃上昇に要する時間が7.67%短縮されるなど、数値面での優位性が実証された。
統合型熱管理の新たな可能性
このシステムの真の革新性は、個別の熱管理システムを統合した点にある。電動駆動系の廃熱を暖房に転用するだけでなく、油圧システムの余剰熱をバッテリー予熱に活用するなど、従来廃棄されていた熱エネルギーを多重活用する設計思想が特徴だ。
モジュール化されたシステム構成は、油圧ショベルからホイールローダーまで多様な機種への適用を可能にする。将来的には回生ブレーキエネルギーや太陽熱補助システムとの連携によるさらなる効率化も期待される。
産業界への影響と今後の展望
EUの非道路移動機械指令(NRMM)やカリフォルニア大気資源委員会(CARB)の規制強化が進む中、寒冷地対応可能な電動重機の需要は急速に高まっている。従来技術では達成困難だった冬季の連続稼働時間延長が可能となる本システムは、電動化普及の鍵を握る技術と言える。
中国の上海松芝や湖南華強など既存のヒートポンプメーカーも寒冷地用改良技術を展開しているが、熱源の多様化という点で本システムは新たな可能性を提示した。制御アルゴリズムの最適化や新規冷媒(R1234yfなど)の採用により、さらなる性能向上が期待される。
次世代技術への発展
現在の研究は電動クローラークレーンを対象としているが、油圧駆動系を備える多種多様な建設機械への適用が可能である。将来はAIを活用した予測制御システムとの連携も想定され、天候予測データを元にした最適な熱源選択アルゴリズムの開発が進むと見込まれる。
ハイブリッド車両への応用も有望な分野だ。内燃機関の廃熱と電動システムの廃熱を複合的に活用することで、燃料消費量のさらなる削減が可能となる。これにより排出ガス規制の厳しい都市部での運用適性が向上する。
新しい熱管理基準の確立
華僑大学の研究チームが達成した成果は、単なる部品改良を超えたシステムレベルの革新である。熱エネルギー管理を車両設計の中核に据えることで、バッテリー寿命延伸や運転者快適性向上など複合的なメリットを生み出した。
電気駆動システムの進化はモーター性能の向上だけでなく、エネルギー利用の最適化が成否を分ける時代に入った。デュアルソースヒートポンプ技術は、この新たなパラダイムを体現する成功例と言えるだろう。建設機械の電動化が進む未来像において、熱管理技術の重要性はさらに高まることが予測される。
Wang Qi, Ren Haoling, Lin Tianliang, Lin Yuanzheng, Wang Yong, Zhang Xing
College of Mechanical Engineering and Automation, Huaqiao University
Chinese Hydraulics & Pneumatics, Vol. 48, No. 10, October 2024
DOI: 10.11832/j.issn.1000-4858.2024.10.002