電動車のバッテリーを内側から温める新技術

電動車のバッテリーを内側から温める新技術

電気自動車(EV)の冬の悩みといえば、やはり航続距離の大幅な低下だろう。氷点下の環境では、リチウムイオン電池の性能が急激に劣化し、走行可能距離が最大で40%も短くなることがある。これは、電池内部のイオンの動きが鈍くなるためであり、EVの普及を妨げる大きな課題となっている。特に、北欧やカナダ、中国北部など、厳しい冬の気候に直面する地域では、EVの実用性が大きく問われる。こうした長年の課題に、中国の研究チームが画期的な解決策を提示した。上海交通大学(シャンハイ・ジャオトン大学)の研究者たちは、EVに搭載されたモーターとインバーターを巧みに再利用することで、バッテリーを高速かつ効率的に内部から加熱する新技術を開発した。この技術は、追加の加熱装置を必要とせず、従来の方法に比べてはるかに短時間でバッテリーを最適な温度にまで温めることができる。

この新技術の核心は、EVの動力システムを一時的に「加熱器」に変えるという発想の転換にある。通常、EVのインバーターは、バッテリーから供給される直流(DC)を、モーターを駆動するための交流(AC)に変換する役割を果たしている。しかし、この研究チームは、低温時にこの回路を切り替えることで、全く異なる働きをさせることに成功した。具体的には、バッテリーとモーターの1つの巻線(A相)の間に設けられたリレーを閉じることで、モーターの巻線とインバーター、そしてフィルター用のコンデンサーを組み合わせ、内部の交流加熱回路を構築する。この回路では、インバーターがバッテリーとコンデンサーの間でエネルギーを高速でやり取りすることで、バッテリーに交流電流を流す。この交流電流がバッテリー内部の抵抗により発熱し、電池自体を内側から均一に温める仕組みだ。

この「内側からの加熱」こそが、従来の「外側からの加熱」よりも優れている最大のポイントである。従来の方法では、バッテリーパックの外側にヒーターを設置して、その熱をバッテリー内部まで伝導させる必要がある。しかし、バッテリーのケースは熱を伝えにくい素材でできており、熱が伝わるのに時間がかかり、効率も悪い。一方、この新技術では、発熱源がバッテリーの内部そのものであるため、熱が一気に全体に行き渡り、非常に効率的な加熱が可能になる。実験では、-20℃の低温環境から0℃以上まで温めるのに、わずか403秒、つまり7分弱で済んだ。これは、多くの既存の予熱システムが10分から15分以上かかるのと比べて、劇的な時間短縮である。

この技術のもう一つの大きな利点は、追加のハードウェアが不要な点だ。ヒーターや専用の電源回路を追加すると、車両の重量が増し、コストが上がり、信頼性も低下するリスクがある。しかし、この技術は、EVにすでに搭載されているモーター、インバーター、リレーといった部品を再利用するだけ。つまり、新しく部品を追加することなく、ソフトウェアと制御ロジックの変更だけで実現できる。これは、製造コストの削減、車両重量の軽減、そして生産ラインへの導入の容易さという点で、非常に大きなアドバンテージを持つ。自動車メーカーにとっては、性能を向上させながらコストを抑えられる理想的なソリューションだ。

しかし、この画期的な技術にも、乗り越えなければならない課題があった。交流電流をモーターの巻線に流すということは、モーターにわずかながらもトルク(回転力)が発生する可能性がある。車が停止している状態でモーターが微弱に振動すれば、車内に不快な「ブーン」という音や、体に感じるほどの振動が発生し、乗員の快適性を損なう。これは、静粛性がEVの大きな魅力の一つであることを考えれば、致命的な欠陥になりかねない。

この問題に対して、研究チームは非常にエレガントな解決策を提案した。それは、「ローター位置クランプ」と呼ばれるトルクリップル(脈動)抑制技術だ。モーターの回転子(ローター)の位置を、加熱に使用する巻線(A相)と完全に一致させることで、発生する磁力が打ち消し合い、結果としてネットのトルクがゼロに近づくという原理である。実験結果はこの理論を裏付けた。ローターがA相と正確に揃っている場合、発生する最大トルクはわずか0.4 N·mに抑えられた。一方、ローターが120度や240度ずれている場合、トルクは2.2 N·m以上にまで跳ね上がり、振動や騒音が顕著になることが確認された。この技術により、バッテリーを高速で加熱しながらも、車内は従来の静けさを保つことが可能になった。

この技術の安全性とバッテリー寿命への配慮も非常に重要である。高温も低温もバッテリーにとっては負担だが、過度な加熱もまた、バッテリーの劣化を促進する。特に、電圧が高すぎたり低すぎたりすると、電極に金属リチウムが析出する「リチウム析出(リチウムプレーティング)」という現象が起こり、バッテリーの容量を永久的に損なうだけでなく、内部短絡を引き起こす危険性もある。

このリスクを回避するために、研究チームは「適応型ファジィPI制御器」と呼ばれる高度な制御アルゴリズムを開発した。この制御器は、加熱中のバッテリーの電圧と電流をリアルタイムで監視し、その値が安全な範囲(例えば、1セルあたり2.7Vから4.2V)を超えないように、自動的に加熱電流の大きさを調整する。電流が大きすぎると加熱は速くなるが、リチウム析出のリスクが高まる。逆に、電流が小さすぎると安全だが、加熱に時間がかかる。この制御器は、加熱速度とバッテリー寿命の最適なバランスを常に見つけ出し、安全かつ効率的な加熱を実現する。

研究チームは、6つのLG製18650リチウムイオン電池を直列に接続したテスト用バッテリーパック、2.8kWの表面実装型永久磁石モーター、そして実際のEVインバーターを模したパワー・モジュールを使って、実験を行った。すべての実験は-20℃に設定された恒温恒湿槽内で行われ、極めて厳しい冬の条件を再現した。実験の結果、±6A、±9A、±12Aという異なるピーク電流で加熱を行った場合、-20℃から0℃に達するまでの時間は、それぞれ912秒、402秒、349秒と、電流が大きいほど明らかに短くなることが分かった。

しかし、バッテリー寿命への影響を調査したところ、重要な教訓が得られた。±6Aと±9Aの電流で60回の加熱サイクルを繰り返しても、バッテリーの容量はほとんど変化しなかった。しかし、±12Aという非常に高い電流で60回加熱したところ、容量が3.182Ahから3.047Ahへと顕著に低下した。これは、高電流によるリチウム析出が進行したためと考えられる。一方で、エネルギー効率の観点からは、高電流の方が有利だった。±6Aでは1回の加熱でバッテリーの7.9%の電力量(SOC)を消費したのに対し、±9Aと±12Aではそれぞれ4.4%と4.3%にまで低下した。これは、加熱時間が短いため、外部に逃げる熱が少なく、全体のエネルギー効率が向上するためだ。

この一見矛盾する結果は、実用上の重要な示唆を与える。最適な加熱戦略は、「とにかく速く」ではなく、「速さ」と「寿命」と「効率」の三つをバランスさせることにある。例えば、直ちに出発する必要がある場合は、±9A程度の電流で高速加熱を選ぶ。一方、1時間後に出発する予定であれば、±6Aの電流でゆっくりと加熱することで、バッテリーへの負担を最小限に抑えられる。このように、運転者のスケジュールやバッテリーの残量に応じて、最適な加熱プロファイルをAIが自動で選択する未来のスマートEVが想像できる。

この技術は、乗用車にとどまらず、物流業界や公共交通機関にも大きな恩恵をもたらす可能性を秘めている。冬の朝、配達トラックや電動バスが長時間の予熱のためエンジンをかけて待機する必要がなくなる。これは、運用の効率化だけでなく、二酸化炭素排出量の削減にも直結する。また、寒冷地でのEVの普及を加速させ、世界中どこにいても、気候に左右されずにEVの利便性を享受できる未来に近づける。

上海交通大学の機械動力工学部に所属する研究者たち、韓京伯(ハン・ジンボー)、朱翀(チュウ・チョン)、李佳(リー・ジア)、魯岩松(ルー・イェンソン)、張希(チャン・シー)らのこの研究成果は、学術誌『電源学報』(Journal of Power Supply)に掲載され、その技術的価値が国際的に認められた。彼らの研究は、単なる理論ではなく、実際のEVに搭載可能な現実的なソリューションを提示した点で、非常に高く評価されている。今後、この技術が自動車メーカーに採用され、私たちの日常に溶け込む日が近いかもしれない。それは、EVの「冬の悩み」が、ついに過去のものとなる日かもしれない。

韓京伯、朱翀、李佳、魯岩松、張希、上海交通大学機械動力工学部、電源学報、DOI: 10.13234/j.issn.2095-2805.2024.6.179