電気自動車のワイヤレス充電に革命的進展、カーブ走行時の安定性を実現する円形補償コイル技術

電気自動車のワイヤレス充電に革命的進展、カーブ走行時の安定性を実現する円形補償コイル技術

世界中で電動化が加速する中、電気自動車のワイヤレス充電技術は、ケーブルによる制約を解消し、ユーザーに最大の利便性を提供する有望な技術の一つとして注目されています。特に「動的ワイヤレス充電」——走行中に道路に埋め込まれた送電コイルから電力を受電し続けるシステム——は、航続距離不安を根本的に解決する可能性を持っています。しかし、これまでカーブ走行時の相互インダクタンスの変動が大きな課題となっていました。この問題により、電圧が不安定になり充電効率が低下するだけでなく、バッテリーの寿命にも悪影響を及ぼす恐れがあったのです。

上海電機学院電気学院の研究チームは、この難題に対する画期的な解決策を発表しました。それは、受電コイルに内蔵された円形補償コイルを利用し、カーブ走行時の相互インダクタンスの変動を大幅に抑制する技術です。この発明により、電気自動車がカーブを通過する際の電力伝送の安定性が劇的に向上し、実用化への道が開かれました。

カーブ走行の課題:相互インダクタンスの激しい変動

直進走行時には、路面の送電コイルと車両の受電コイルがほぼ完全に対向しているため、相互インダクタンスは安定しており、効率的な電力伝送が可能です。しかし、カーブに入ると両者の相対位置が変化し、対向面積が減少するため、相互インダクタンスが急激に低下します。研究チームの実験によると、特に90度の急カーブでは、補償を行わない場合、相互インダクタンスの変動率が3.47%に達することが確認されています。これにより電圧変動も10%近くになり、充電システムの安定性が大きく損なわれていました。

「この現象は、動的ワイヤレス充電の普及を妨げる最大の障壁の一つでした」と話すのは、研究の中心的役割を担った胥飛准教授です。「直線区間では十分な性能を発揮できても、カーブでの不安定さが実用化の足かせとなっていたのです。」

研究チームは、この問題を解決するため、補償コイルの形状と配置について徹底的に検討を重ねました。矩形、六角形、円形——3種類の補償コイルを用意し、COMSOL MultiphysicsとMATLAB/Simulinkを組み合わせたシミュレーションにより性能を比較した結果、円形コイルが最も優れた特性を示すことが明らかになりました。

「円形の形状がカーブ走行時の位置ずれに強い理由は、どの方向に回転しても対称性が保たれるためです」と、論文の第一著者である骆強氏は説明します。「矩形コイルは角があるため、角度が少し変化するだけで対向面積が大幅に減少しますが、円形ではその影響が最小限に抑えられます。」

遺伝的アルゴリズムによる最適化:コイルの巻き数を精密に計算

補償コイルの形状が決まった後、次の課題は最適な巻き数を見つけることでした。巻き数が少なすぎれば補償効果が不十分で、多すぎれば逆にインピーダンスが不整合を起こし、効率が低下する恐れがあります。研究チームはこの問題を解決するため、遺伝的アルゴリズムを導入しました。

このアルゴリズムは、生物の進化過程を模倣した最適化手法で、多数の候補解から徐々に優れた解を選択していく原理を利用しています。研究チームは、45度、90度、135度、180度といった一般的なカーブ角度に対して、それぞれ最適な巻き数を計算しました。その結果、45度では8巻き、90度では9巻き、135度では10巻き、180度では11巻きが最適であることが判明しました。

「現実の道路ではさまざまな角度のカーブが存在するため、単一の巻き数で全てに対応できるかどうかが鍵でした」と胥飛准教授は語ります。「最終的に10巻きを統一規格として採用することにしました。これにより、どの角度のカーブでも相互インダクタンスの変動率を±0.4%以内に抑えることができました。」

実験データで実証:電圧安定性が飛躍的向上

研究チームは、シミュレーションだけでなく実験装置を構築し、実際の性能を検証しました。出力3kW、周波数20kHzの送電システムを用意し、路面に模擬カーブを設けて走行 시ミュレーションを行った結果、驚くべき成果が得られました。

補償コイルを使用しない場合、カーブ走行時の電圧変動率は約10%に達していましたが、円形補償コイルを搭載した新システムでは、変動率が3.6%まで低下しました。これは実用化に十分耐えうる数値であり、バッテリーへの負担も大幅に軽減されます。

また、充電効率についても優れた結果が確認されました。車高が20cmの時、効率は93.4%に達し、他のワイヤレス充電システムと比べてもトップクラスの性能を示しています。「この高さは、電磁干渉を最小限に抑えつつ、十分な結合を確保する最適な距離です」と骆強氏は強調します。「車高が低すぎると干渉が増え、高すぎると結合が弱まるため、20cmは実用的な平衡点と言えます。」

実用化への道:既存車両への適用も可能

この技術の大きな特徴の一つは、既存の電気自動車にも比較的容易に搭載できることです。補償コイルは既存の受電コイルの上部に内蔵され、カーブ検知センサーが作動すると自動的に回路に接続されるよう設計されています。これにより、直進時には不要な電力損失を防ぎ、カーブ時にのみ補償機能が作動する効率的なシステムとなっています。

「インフラ側のコストも抑制できる点がメリットです」と胥飛准教授は述べます。「従来、カーブ区間の送電コイルを複雑に配置する必要がありましたが、本技術により簡素な構造で安定した充電が可能になります。」

専門家からはこの技術が動的ワイヤレス充電の普及を大きく後押しするとの評価が相次いでいます。都市部のバスルートや高速道路にこのシステムを導入することで、電気自動車の航続距離が事実上「無限」になるだけでなく、バッテリーの小型化にも寄与し、車両価格の低下につながる可能性があります。

未来展望:スマートシティとの融合

研究チームは今後、さらなる性能向上を目指して研究を推進する方針です。例えば、車速やカーブの曲率に応じて補償コイルの巻き数をリアルタイムで調整する制御システムの開発を計画しています。また、天候や路面状況の変化にも適応できるロバスト性の向上にも取り組む予定です。

「最終的にはスマートシティのインフラと統合し、交通量に応じて送電量を調整するなど、より効率的なエネルギー管理を実現したい」と骆強氏は語ります。「電気自動車が走行しながら充電され、余剰電力が逆にグリッドに還元される『V2X(Vehicle-to-Everything)』社会の実現にも、本技術は大きな役割を果たすでしょう。」

上海電機学院のこの研究成果は、電気自動車の普及に向けた重要な一歩となるだけでなく、エネルギー効率の向上とCO2排出量の削減にも大きく貢献することが期待されています。カーブ走行という細部にまで思い至ったこの技術は、今後のモビリティ革命を牽引する可能性を秘めています。

著者:骆強
所属:上海電機学院電気学院
掲載誌:Electrical Measurement & Instrumentation
DOI:10.19753/j.issn1001-1390.2024.01.014