電気自動車の充電需要、2033年までを予測

電気自動車の充電需要、2033年までを予測

電気自動車(EV)の普及は、もはや未来の話ではなく、今日の現実である。世界的な脱炭素化の流れの中で、EVは輸送部門の環境負荷を軽減する鍵となる技術として、急速にその存在感を増している。特に中国では、政策的な後押しや技術の進化もあり、EVの保有台数は驚異的なスピードで増加しており、これに伴い、電力システムへの影響も無視できなくなっている。EVが大量に充電を行うことで、電力需要のピークがより高くなり、地域の電力網に負担をかける可能性がある。そのため、単なる短期的な充電行動の分析にとどまらず、10年先を見据えた中長期的な充電需要の正確な予測が、インフラの計画やエネルギー政策の立案において極めて重要となっている。

こうした背景の中、新たな研究がこの分野に一石を投じた。南京郵電大学自動化学院・人工知能学院の于夢桐(ユ・モントン)氏と高輝(ガオ・フェイ)氏、および国電南瑞科技股份有限公司の楊鳳坤(ヤン・フェンクン)氏による研究チームは、単に「今夜どのくらいの電気が必要か」ではなく、「10年後の金曜日の午後6時、都市のどの地域でどれだけの電気が必要になるか」という複雑な問いに挑戦した。その研究成果は、学術誌『Modern Electronics Technique』に掲載され、EVの保有台数予測からユーザーの行動、さらには気温の影響までを統合的に考慮した、非常に洗練されたモデルを提示している。

従来の多くの研究は、EVの充電負荷を予測する際に、既存の保有台数を前提に、ユーザーの行動パターンをシミュレーションするというアプローチをとってきた。これは、ある瞬間の「写真」を撮るようなもので、非常に有効である。しかし、このアプローチには大きな前提がある。それは、「EVの保有台数が今後どうなるか」という、最も根本的な問いを外していることだ。もし、10年後に予想していた台数の2倍のEVが走っていたら、その予測はすべて無効になってしまう。于氏らの研究の最大の貢献は、この前提を自らのモデルの中に取り込み、保有台数の予測から始めるという、より根源的で包括的なアプローチを採用したことにある。

彼らのモデルは二つの主要なステップから成り立っている。第一のステップは、「EVが何台になるか」を予測すること。この予測に使われたのが、「灰色予測モデル(Grey Model)」と呼ばれる手法である。灰色予測モデルは、限られたデータからでも未来のトレンドを予測できる点で知られており、特に新技術や新市場の成長予測に適している。しかし、このモデルの精度は、初期のパラメータ設定に大きく左右されるという弱点がある。

ここで登場するのが、「蛍アルゴリズム(Firefly Algorithm)」である。これは、自然界の蛍が光の強さに引き寄せられて集まる様子を模した、最適化のための人工知能技術だ。研究チームは、このアルゴリズムを用いて、灰色予測モデルのパラメータを自動的に最適化した。言い換えれば、数万通りのパラメータの組み合わせの中から、過去の実際のデータと最もよく一致する「最良の組み合わせ」を、効率的に探し出す仕組みである。その結果は顕著だった。従来の灰色予測モデルでは、2020年の保有台数を予測する際に最大で39.3%の誤差を出していたが、蛍アルゴリズムで最適化されたモデルでは、その誤差を7.7%にまで削減することに成功した。2022年には誤差はわずか2.6%となり、非常に高い信頼性を持つ予測が可能になった。

この高精度な保有台数予測が、第二のステップの土台となる。第二のステップは、「それだけの台数のEVが、いつ、どこで、どれだけの電力を消費するか」をシミュレーションすることだ。ここでは、ユーザーの行動を「移動チェーン(Travel Chain)」という概念でモデル化している。つまり、人々の一日の移動は「自宅(H)」から始まり、「勤務地(W)」や「レジャー・社交(SR)」、その他の目的地を経て、再び「自宅(H)」に戻るという一連の流れである。この移動チェーンを基に、各目的地での滞在時間、移動距離、そして到着後に充電を始めるかどうかを、確率的にシミュレーションする。

ここで特に注目すべきは、研究が「気温」という現実的な要因を詳細に組み込んでいる点だ。多くの研究がバッテリー容量を固定値として扱う中、この研究では、気温がバッテリーの性能に与える影響を無視しない。データによると、0℃の寒い日には、バッテリーの相対容量は約79%にまで低下する。つまり、同じ距離を走るのに、より多くの電力を消費し、より頻繁に充電が必要になる。さらに、バッテリーを温めるためのヒーターも電力を消費するため、充電効率も低下する。一方、35℃の暑い日には、バッテリーの過熱を防ぐための冷却システムが作動し、これもまた充電効率を91%まで下げてしまう。最も効率的なのは25℃前後の快適な気温である。このように、気温の変化は、EVの電力需要に直接的かつ大きな影響を与える。

研究チームは、江蘇省の一部地域を対象に、2023年から2033年までの10年間のシミュレーションを実施した。その結果、いくつかの重要な傾向が明らかになった。

まず、EVの保有台数は、今後10年間で指数関数的に増加すると予測されている。2022年の約9万4千台からスタートし、2033年にははるかに大きな数字に達すると見られている。これは、EVの普及が単なる一時的なブームではなく、持続的な産業成長であることを示している。

次に、充電需要の「空間的分布」である。シミュレーションの結果、圧倒的に充電需要が高くなるのは「生活区(自宅)」である。これは、多くのユーザーが帰宅後に車を充電し、翌日のために満タンの状態にしておくという習慣を反映している。生活区の充電負荷は、午後12時から20時頃にかけて二つのピークを持つ。一方、勤務地(W)では午前9時頃、レジャー・社交区(SR)では正午頃にそれぞれピークが現れる。これは、人々がそれぞれの場所に到着した直後に充電を開始する行動パターンを示している。

最後に、「時間的分布」である。2023年から2033年にかけて、毎年の典型的な一日の充電負荷は、着実に上昇していく。これは保有台数の増加に直接比例している。そして、最も顕著なのは、どの年においても、充電負荷の最大ピークが午後6時頃に集中していることだ。これは、帰宅ラッシュの時間帯と完全に重なり、多くのユーザーが仕事から帰宅した直後に充電を開始するためである。この「6時の壁」は、電力網のボトルネックとなる可能性が高く、インフラの強化や、時間帯料金制度によるピークシフトの必要性を強く示唆している。

さらに、気温の影響をシミュレーションした結果は衝撃的であった。同じ年の同じ日でも、気温によって総合的な充電需要が大きく異なる。0℃の冬の日は、バッテリーの性能低下とヒーターの使用により、必要な電力が最も多くなる。逆に、25℃の春や秋の日には、バッテリーが最も効率的に働けるため、充電需要が最も低くなる。35℃の真夏の日も、冷却システムのため充電効率が落ち、需要は高くなるが、冬の日ほどではない。この発見は、都市の電力計画において、季節ごとの需要変動を正確に把握し、特に冬場の電力供給能力を強化する必要があることを意味している。

この研究の意義は、単なる数字の予測にとどまらない。それは、政策立案者やインフラ事業者に、未来の都市を設計するための「設計図」を提供している点にある。例えば、生活区の充電需要が圧倒的に高いという結果は、住宅地の電力設備を強化する必要性を示している。また、勤務地や商業施設での昼間のピークは、これらの場所に中速充電器を設置することで、帰宅後の家庭用電力のピークを分散できる可能性を示唆している。さらに、気温の影響を考慮することで、寒冷地では特に高速充電インフラの整備が重要であり、温暖地では充電器自体の熱対策が求められるなど、地域に応じた最適な戦略を立てることが可能になる。

もちろん、このモデルにも限界はある。例えば、カーシェアリングや商用EVのフリート、あるいはV2G(ビークル・トゥ・グリッド)技術による電力の供給といった、より複雑な要素はまだ完全には組み込まれていない。しかし、于氏らの研究は、EVの未来を予測するためのフレームワークを大きく前進させた。それは、技術的な予測(保有台数)と、人間の行動(移動チェーン)と、自然環境(気温)という、三つの異なる次元を一つのモデルに統合したという点で、非常に革新的である。

電気自動車の時代は、すでに到来している。しかし、その先にあるスマートで持続可能な社会を実現するには、膨大なデータと精緻なシミュレーションが必要だ。この研究は、その道のりの一部を照らす、重要な一歩である。EVが走るだけでなく、その「走る」ことによって生じるすべての影響を、科学的に捉え、予測し、準備する。それが、真の意味での「スマートモビリティ」の実現に向けた、不可欠なプロセスなのである。

于夢桐、高輝、楊鳳坤、南京郵電大学自動化学院・人工知能学院、国電南瑞科技股份有限公司、Modern Electronics Technique、DOI: 10.16652/j.issn.1004-373x.2024.06.009