電気自動車の未来を変える、磁気共鳴式ワイヤレス充電
電気自動車(EV)の普及が世界中で加速する中、次なる革新の舞台は「充電」に移っている。ケーブルを差し込むというアナログな行為を、まるでスマートフォンを充電パッドに置くように、自動的かつシームレスに行える技術。それが、磁気共鳴式ワイヤレス充電である。この技術は、単なる利便性の向上にとどまらず、EVの走行距離への不安(航続距離不安)を解消し、バッテリーの大容量化を抑制することで、車両の軽量化とコストダウンを可能にする、モビリティの根本的な再構築を約束する。
この技術の核心は、電磁誘導の原理をさらに進化させた「磁気共鳴結合」にある。送電コイルと受電コイルが同じ周波数で共振することで、効率的にエネルギーを伝送する。これにより、従来の誘導方式に比べてより長いギャップ(空隙)を越えて、また、車両の駐車位置が多少ずれても、安定した電力供給が可能になる。安全性や耐環境性(雨や雪)にも優れ、特に高齢者や身体に不自由のある人にとって、物理的な接続を必要としないこの技術は、真の意味での「誰もが使いやすい」EV社会の実現に不可欠だ。
広州華立学院機電工程学院の厳継超(Yan Jichao)氏らの研究チームが、学術誌『機電工程技術』に発表した最新のレビュー論文は、この磁気共鳴式ワイヤレス充電技術の現在と未来を包括的に解説している。論文は、この技術の性能を左右する「電磁結合構造」「補償ネットワーク」「制御戦略」という三つの柱に焦点を当て、技術の課題と展望を明らかにしている。
まず、電磁結合構造とは、道路に埋め込まれる送電コイルと、車両下部に取り付けられる受電コイルの設計を指す。これは、エネルギー伝送の効率と安定性を決める最も基本的な要素である。この分野では、「静的充電(Static Wireless Charging, SWC)」と「動的充電(Dynamic Wireless Charging, DWC)」という二つのアプローチが存在する。
静的充電は、駐車場や自宅の駐車スペースに送電パッドを設置し、車を停めるだけで充電が開始される方式。BMWのi Wallboxや日産のLEAF Plus用ワイヤレス充電器が代表例だ。しかし、実際の駐車では、車両の位置が完全に一致することは稀であり、これが効率低下の大きな原因となる。この課題を解決する鍵の一つが、「送電コイルアレイ」の採用である。地面に複数の小さな送電コイルを格子状に配置し、車両からの信号を受けて、最も近い位置にあるコイルだけをオンにする。これにより、駐車位置のズレを補償し、高い効率を維持できる。また、受電コイルのサイズを小さくすることができ、車両設計の自由度が高まる。
一方、動的充電は、道路の一部に送電コイルを埋め込み、走行中にEVが充電できる夢の技術である。ドイツの「eWayBW」プロジェクトや、欧州をまたがる「FABRIC」プロジェクトがその代表だ。この技術が実現すれば、EVのバッテリーは必要最小限の容量で済み、車両重量の大幅な削減とコストダウンが可能になる。しかし、走行中の車両と固定の送電コイルの相対位置は常に変化しており、安定した電力供給を維持するのは極めて難しい。
この課題に対し、研究では「GPSSC構造」と呼ばれる分散型結合構造が提案されている。この構造は、送電コイルと受電コイルの間の電流密度分布を均一化し、効率の急激な低下を防ぐ。実験では、複数の送電セグメントを跨ぐ際に、伝送効率が最大で50%も向上するという結果が得られており、実用化への大きな一歩となっている。また、送電レールの形状を「n字型」にすることで、横方向のズレに強く、電磁界(EMF)の漏洩も少なく、コスト効率にも優れる新しい構造も登場している。
二つ目の柱である「補償ネットワーク」は、送電側と受電側のコイルが持つインダクタンス(L)と、外部に接続されたコンデンサ(C)を組み合わせて、システム全体を共振状態に保つための回路である。共振がずれると、無効電力が発生し、効率が大きく低下してしまう。そのため、送電コイルと受電コイルの間に、LやCの素子を配置して、インピーダンスを最適化する必要がある。
基本的な補償方式には、送電側・受電側をそれぞれ直列(S)または並列(P)に接続する「S-S」「S-P」「P-S」「P-P」の4種類がある。しかし、これらの基本構成では、EVに求められる大電力かつ高効率の要件を満たすのは難しい。そこで、より高度な「ハイブリッド補償ネットワーク」が開発されている。
例えば、「LCL-S」トポロジーは、送電側にLCL、受電側にSの補償を施すもので、高い効率と、コイルのズレや負荷変動に対する耐性を兼ね備える。また、「S-LCC」トポロジーは、実験で最大94.6%の変換効率と、16.6%という非常に低い出力電流変動係数を達成しており、実用性の高さが証明されている。中でも注目すべきは「LCL-none(LCL-N)」トポロジーである。この方式では、送電側にのみLCL補償を施し、受電側には補償回路を一切設けない。受電側のコイル電流と送電側のコイル電流の位相差により、フェライトコア内の磁束が打ち消し合うため、受電側のコアを薄くすることができ、結果として、軽量・小型・低コストの受電ユニットを実現できる。これは、車両搭載側の設計負担を大きく軽減する画期的な技術だ。
三つ目の柱「制御戦略」は、システムの頭脳に相当する。ワイヤレス充電システムには、大きく二つの制御目標がある。一つは、バッテリーに適した「一定の直流出力電圧を維持すること」、もう一つは「伝送効率を最大化すること」である。しかし、駐車位置のズレ、バッテリーの充電状態(SOC)、周囲温度など、さまざまな要因で最適な動作点は変化する。このため、システムは常に最適な状態を追いかける「最大効率追従(Maximum Efficiency Tracking)」が求められる。
その代表的な手法が「周波数トラッキング」である。システムの共振周波数は、コイル間の距離やズレによって変化する。周波数トラッキング制御では、この変化をリアルタイムで検出し、インバーターの駆動周波数を最適な共振周波数に合わせて調整する。これにより、効率を常に高いレベルに保つことができる。研究では、20cmの距離変化に対しても76%以上の効率を維持する実験結果が報告されており、実用性の高さがうかがえる。
また、「インピーダンスマッチング」も重要な制御技術である。これは、送電側のインピーダンスと受電側のインピーダンスを一致させることで、電力の反射を防ぎ、最大効率でエネルギーを伝送する技術だ。このマッチングを、負荷の変化に応じて自動で最適化するアルゴリズムの開発が進められている。さらに、周波数制御とインピーダンスマッチングを組み合わせた「ハイブリッド制御戦略」も登場しており、より広い範囲で高効率を維持することが可能になっている。
これらの技術革新は、すでに実用化の段階に達しつつある。静的充電は、Plugless Power社が米国の空港や駐車場に設置するなど、商業展開が始まっている。動的充電は、韓国科学技術院(KAIST)の「OLEV」システムが、特定の路線で走行中に充電可能な電動バスを実用化している。また、カナダのボンバルディア社の「Primove」システムは、ドイツやイタリアで電動トラムに採用され、実績を積んでいる。
特に注目されるのは「準動的充電(Quasi-dynamic Charging)」という中間的なアプローチだ。これは、バス停や信号待ちの停止時間を利用して、数分間で急速に充電する方式である。韓国のKAISTとアラブ首長国連邦のハリファ大学の共同研究では、静的充電で90.8%、動的充電で85%以上の電源効率を達成するプロトタイプが開発されている。米国のクアルコム社の「Qualcomm Halo」システムも、最高20kWの充電が可能な準動的充電の代表例として、北米や欧州で実証実験が行われている。
これらの実例から、磁気共鳴式ワイヤレス充電の未来は明るい。今後は、単なる充電技術を超えて、スマートシティや再生可能エネルギー、自動運転と融合していくことが予想される。例えば、太陽光発電で得た電力を道路に埋め込まれた送電コイルに供給し、走行中のEVがその電力を受けて充電する。あるいは、自動運転EVが最適な充電スポットを自動で見つけて駐車し、充電を完了する。このようなシナリオが現実のものとなるだろう。
環境面でも、この技術は大きな意義を持つ。大容量バッテリーの製造には多大な資源とエネルギーが必要であり、その分の環境負荷は無視できない。ワイヤレス動的充電が普及すれば、バッテリーの容量を削減でき、資源の消費を抑制し、CO2排出量の削減にも貢献する。また、充電ケーブルの摩耗や破損による廃棄物も減少する。
市場規模も急速に拡大している。研究によると、2030年には世界のワイヤレス充電市場が391億ドルに達すると予測されている。これは、単なるニッチ技術ではなく、EV産業の中心を担うメガトレンドであることを示している。
総じて、磁気共鳴式ワイヤレス充電は、EVの「最後のハードル」を越える鍵となる技術である。それは、私たちが車を「燃料を補給するもの」から、「エネルギーを継続的に受け取るもの」へと認識を変える、モビリティのパラダイムシフトを引き起こす。駐車場の地面から、高速道路の路面から、目に見えないエネルギーの流れが生まれ、未来の交通は、より便利で、より持続可能で、よりインテリジェントなものになるだろう。
厳継超、莫彬、黄培新、藍永誠、宋春龍、広州華立学院機電工程学院。『機電工程技術』、DOI: 10.3969/j.issn.1009-9492.2024.03.002