電気自動車用バッテリー、極寒テストに国際的統一基準を
電気自動車(EV)の世界市場は拡大を続けるが、その核心技術であるリチウムイオンバッテリーの低温性能に対する懸念は、依然として寒冷地での普及を阻む大きな壁となっている。メーカーが公表する航続距離は、あくまで常温下での理想値であり、冬期の実際の使用ではその数字が大きく下回ることが常態化している。このギャップの背景には、低温性能を評価するための国際的な統一試験基準の不在という、構造的な問題が存在する。バッテリーの性能評価は、試験温度、放電レート、充電方法、状態(SOC)など、複数の要因に左右されるため、国やメーカーごとに異なる基準で測定された結果を比較することは事実上不可能だ。この状況は、消費者の信頼を損ない、EVのグローバルな展開にブレーキをかける要因となっている。
この課題に光を当てたのが、中国国家知識産権局(CNIPA)特許審査協作北京センターの知的財産専門家、孫興春(ソン・シングチュン)氏による最新の分析である。彼が専門誌『Battery Bimonthly』に発表した論文は、世界中の主要なEV用リチウムイオンバッテリーの低温性能試験基準を網羅的に比較し、現在の規格体系に存在する深刻な課題を浮き彫りにしている。その分析によると、低温性能を測る「ものさし」は、国ごとに大きく異なり、まるで異なる言語で会話しているかのようだ。
まず、国際標準化機構(ISO)のISO 12405-4:2018は、低温性能評価において最も包括的な枠組みの一つとされる。この規格は、0℃と-18℃という2つの温度帯で、エネルギー、容量、充放電レート、サイクル寿命、そして極寒地での発進に直結する「低温始動電力」の試験方法を詳細に規定している。特に注目すべきは、放電試験がSOC(充電状態)80%から20%までの5段階に分けて行われることだ。これは、実際の走行中にバッテリーが徐々に消耗していく状況を模した、非常に現実的なアプローチである。さらに、供給業者と顧客の合意があれば、試験温度を-30℃まで下げることも可能としており、過酷な環境への適用性も考慮されている。
一方、国際電気標準会議(IEC)のIEC 62660-1:2018は、ISOに比べて範囲が狭い。この規格は主にセル(単体)レベルの性能評価を目的としており、容量試験は0℃、出力性能は-20℃と0℃のSOC50%の条件下で行う。低温での充電効率や、SOCの変化による性能のばらつきといった、ユーザーにとって重要な指標が十分にカバーされていない点が弱点として挙げられる。これは、システム全体としてのEVの性能ではなく、部品としてのバッテリーの基本スペックを確認するための規格と位置づけられる。
米国では、自動車技術者の協会であるSAEが制定したSAE J1798-1:2020が影響力を持つ。この規格は、バッテリーモジュールの性能評価に焦点を当てており、-20℃での放電試験を規定している。重要なのは、試験前にモジュールを少なくとも16時間、試験温度に安定させる(ソーキング)ことだ。これは、バッテリー内部まで均一に温度が行き渡った状態で性能を測るための、科学的な配慮である。しかし、この規格もモジュール単体に限定されており、車両に搭載されたバッテリーパックや、バッテリーマネジメントシステム(BMS)、熱管理システムとの統合的な性能評価には対応していない。
日本を代表するJIS D 1303:2004は、また別の視点を持っている。この規格は、-20℃での「充電効率」に特化した試験方法を定めている。これは、日本のユーザーが重視する、夜間の定時充電や、急速充電の利便性を反映した特徴と言える。しかし、放電性能や航続距離への影響といった、走行に関わる核心的な性能は対象外となっており、評価の範囲は非常に限定的である。
中国の規格体系は、国内市場の巨大さと寒冷地の広さを背景に、特に進化が著しい。国家基準であるGB/T 31486—2015やGB/T 31467—2023は、-20℃での放電容量が初期容量の70%以上であることを要求しており、これは国際的にも厳しい基準と言える。しかし、中国の真の革新は、地方標準にある。吉林省が制定したDB22/T 3410—2022「寒冷地用純电动汽车用動力蓄電池低温性能要求及試験方法」は、世界で最も過酷かつ包括的な低温性能規格の一つとして注目されている。
このDB22/T 3410—2022の特徴は、その極限への挑戦にある。試験温度は-20℃、-30℃、そして-40℃と、極寒地の実情を反映している。単に容量だけでなく、熱管理システムを搭載したバッテリーに対しては、-40℃で100回の充放電サイクル後も初期容量の85%以上を維持することを要求する。これは、バッテリーの劣化を防ぎ、長期的な信頼性を確保するための極めて重要な指標だ。さらに、熱管理システム自体のエネルギー効率にも目を向け、その消費電力がバッテリー総エネルギーの平均6%以下、ピーク時でも30%以下であることを明確に規定している。これは、暖房に多くの電力を費やすことで航続距離が劇的に縮むという、寒冷地EVユーザーの最大の悩みを直接解決しようとする、画期的なアプローチである。
孫氏の分析は、これらの多様な規格を比較することで、現在の低温性能評価の3つの根本的な欠陥を指摘している。第一に、「統一基準の不在」がある。セル、モジュール、パック、システムと、評価する単位が異なるため、結果を単純に比較できない。第二に、「評価の不完全性」がある。多くの規格が容量や出力に偏り、充電効率、サイクル寿命、熱管理効率といった複合的な性能を包括的に評価していない。第三に、「比較の困難性」がある。試験条件(温度、SOC、放電レート、ソーキング時間)が国ごとに異なるため、あるメーカーのバッテリーが「優れている」とされる基準と、別のメーカーが「優れている」とされる基準は、全く異なるゲームをしている可能性がある。
この状況は、業界全体に深刻な影響を及ぼしている。自動車メーカーにとっては、グローバル展開のためには、複数の規格に準拠する必要があり、開発コストと時間の増大を招く。消費者にとっては、信頼できる性能情報を得るのが難しく、購入時の不安が募る。政策立案者にとっては、EVの普及を推進するための公平な環境を整えることが困難になる。
孫氏は、この問題の解決策として、中国が主導して、既存の各規格の長所を統合した「包括的な国家基準」を策定することを提唱している。その理想の基準は、ISO 12405-4:2018のSOCを細かく分ける動的評価、DB22/T 3410—2022の極寒地対応と熱管理効率の厳格な規定、そしてGB/T 31467—2023のようなシステムレベルでのアプローチを融合したものになるべきだ。このような基準は、中国国内の技術発展と寒冷地でのEV普及を後押しするだけでなく、国際的な規格のモデルケースとなり、世界中の消費者に公平で透明な性能情報を提供する可能性を秘めている。
低温性能の標準化は、技術的な細部にとどまる問題ではない。それは、EVが真に「普遍的な交通手段」として、世界中のあらゆる気候条件の下で信頼され、受け入れられるかどうかを決める、戦略的な課題である。バッテリーが極寒の中でも安定して働き、その性能が公正に評価される世界が実現すれば、電動化の流れは、より一層の勢いを増すことだろう。孫興春氏の研究は、その未来への地図を描くための、貴重な一歩である。
孫興春、中国国家知識産権局特許庁特許審査協作北京センター、『Battery Bimonthly』第54巻第6号、2024年12月、DOI: 10.19535/j.1001-1579.2024.06.021にこの分析を発表。