電気自動車用ユニバーサル受電コイルが登場

電気自動車用ユニバーサル受電コイルが登場

電気自動車(EV)のワイヤレス充電技術における画期的な進展が、業界の長年の課題である「相互運用性」の解決に道を開く。福州大学と清華大学の研究チームは、単極、双極、田字形(クアッドポール)など、現在主流のあらゆるタイプの送電コイルと互換性を持つ、全く新しい「解離型四単極受電コイル」を開発した。この研究は学術誌『Power System Technology』に掲載され、今後、EVワイヤレス充電の標準化と普及を加速させる可能性を秘めている。

EVの普及に伴い、従来のケーブルによる充電の煩わしさや安全性の課題を解決するため、非接触で安全なワイヤレス充電技術への関心が高まっている。しかし、送電コイルと受電コイルの間の磁気的相互運用性が不十分なため、異なるメーカー間で充電器が互換しないという深刻な問題が存在する。現在、送電コイルには主に三つの構造が存在する。一つはシンプルな「単極型」コイル、二つ目は効率と位置ずれ耐性に優れた「双極型」(DD型)コイル、そして三つ目はより複雑な磁界分布を持つ「田字形」コイルである。多くの受電コイルは特定の送電コイルとのみ最適化されており、異なる構造のコイルでは充電効率が著しく低下したり、そもそも充電できなかったりする。これは、消費者にとって大きな不便であり、インフラの整備を妨げる要因となっている。張芸明(Zhang Yiming)教授と毛行奎(Mao Xingkui)教授が率いる研究チームは、この断絶を解消するため、あらゆる送電コイルに対応できる「ユニバーサル受電機」の開発に取り組んできた。

本研究の核心は、従来の一つの大きな受電コイルではなく、四つの小型の「単極型」受電コイルを正方形に配置するというモジュラー設計にある。この四つのサブコイルは、それぞれ独立して動作する必要があるが、物理的に近接しているため、互いに磁気的に干渉し合い、性能を劣化させる「クロスカップリング」が発生する。これを克服するため、研究チームは画期的な内部構造を考案した。各サブコイル内部に、隣接するコイルとの干渉を打ち消す「隣接解離巻線」と、対角線上のコイルとの干渉を打ち消す「対角解離巻線」を追加した。これらの解離巻線は、サブコイルが生成する干渉磁界と逆方向の磁界を発生させることで、他のサブコイルに影響を与えず、各コイルが独立して磁気エネルギーを捕らえることを可能にする。この内部解離技術により、四つのサブコイルは物理的に一体であるにもかかわらず、電気的に完全に分離された状態と同等になる。

しかし、解離さえできれば良いわけではない。次なる課題は、四つの独立したコイルから得られた交流電力を、効率的に一つの直流電力に統合することだった。ここで発揮されたのが、シンプルでありながら非常にスマートな電気回路の工夫である。四つの受電コイルから出力される交流電流は、それぞれ専用のダイオード整流器で直流に変換される。そして、この四つの直流出力を、直流側で直列に接続する。この一見単純な直列接続が、相互運用性の鍵を握っている。直列接続された整流器は、送電コイルと各受電サブコイルの間の「相互インダクタンス」の絶対値を合計した「等価総相互インダクタンス」を生成する。つまり、送電コイルの磁界の向きが受電コイルに対して「内向き」であっても「外向き」であっても、その絶対値として電力が加算される。この仕組みにより、単極型コイルの均一な磁界、双極型コイルの反転する磁界、田字形コイルの複雑な磁界パターンのいずれに対しても、常に正の電圧を生成し、エネルギーを効率的に回収することができる。受電コイルは、あたかもあらゆる磁界の「翻訳者」のように機能する。

研究チームは、この理論を実証するため、実物大のプロトタイプを構築し、徹底的な実験を行った。結果は極めて有望なものだった。75mmの標準的なギャップ(コイル間の距離)で、単極型送電コイルとの組み合わせでは、最大出力1010W以上、効率86.7%という高い性能を達成した。双極型送電コイルでは、最大出力1081W、効率85.4%を記録。最も複雑な田字形送電コイルに対しても、最大効率82.4%を実現した。これらの数値は、特定のコイルに最適化された専用受電コイルと同等か、それ以上の性能を示しており、相互運用性を損なうことなく高い効率を維持できることを証明している。

実用性を評価する上で、位置ずれ(オフセット)に対する耐性も極めて重要である。実際の駐車では、ドライバーが送電コイルの真上に正確に停車することは難しい。研究チームは、X軸(横方向)とY軸(縦方向)に最大100mmずつずらした状態での性能を評価した。単極型と田字形の送電コイルでは、その対称性により、横方向と縦方向のずれに対して同様に安定した性能を発揮し、大きな出力変動が見られなかった。双極型送電コイルとの組み合わせでは、縦方向のずれに対しては良好な耐性を示したが、横方向のずれでは若干の出力変動が観測された。これは、双極型コイルの磁界分布の特性によるもので、実際の運用においても、縦方向に停車する方がより安定した充電が可能であることを示唆している。重要なのは、100mmという大きなずれでも、実用的な充電が可能となる十分な出力を維持している点である。

さらに、125mmというより長いギャップでの実験も行われた。これは、車両の地上高が高めのSUVや、積雪などによる路面の隆起を想定したシナリオである。この距離でも、単極型送電コイルとの組み合わせで270W以上の出力と81%の効率を維持できた。これは、本技術が理想的な条件だけでなく、より過酷な実用環境でも機能することを示しており、実用性の高さを裏付けている。

この研究の意義は、技術的な成功にとどまらない。EV産業全体の未来に大きな影響を与える可能性がある。自動車メーカーは、このユニバーサル受電コイルを採用することで、自社のEVが世界中のあらゆるワイヤレス充電スポットで充電できるようになる。これは、ユーザーにとっての利便性を飛躍的に向上させ、EVの購入を後押しする強力なインセンティブとなる。一方、充電インフラ事業者は、送電コイルの規格に迷うことなく、最も効率的またはコストパフォーマンスの高い設計を選択できる。市場が一つの「ユニバーサル受電コイル」標準に集約されることで、メーカーは生産コストを削減し、スケールメリットを享受できる。結果として、ワイヤレス充電システムの価格が下がり、より多くのユーザーに普及する好循環が生まれる。

また、研究チームは、解離巻線の重要性を証明するために、解離機能を無効にした状態での性能を比較した。その結果、最大出力と効率が著しく低下し、相互運用性が失われることが明らかになった。これは、解離技術が本発明の根幹であり、単なるオプションではないことを強調している。この内部構造の精密な設計と製造が、本技術の成功を支えている。

今後の課題としては、より高出力(22kW以上)へのスケーラビリティ、-30℃から85℃といった極端な気温下での信頼性、長期間にわたる振動や衝撃に対する耐久性の検証が挙げられる。また、四つの整流器を搭載し、高い直流電圧を扱う車載システムの安全性と電磁両立性(EMC)の確保も、量産化に向けた重要なステップとなる。しかし、これらの課題は、本発明の基本概念の有効性を否定するものではない。むしろ、基礎的な技術的ブレークスルーが達成された今、それを産業界のニーズに合わせて最適化・改良していくフェーズに移行したことを意味する。

張芸明、毛行奎らの研究は、複雑な技術的課題をシンプルでエレガントな設計で解決した、工学の粋を示している。彼らは、異なる規格を一つに統合するのではなく、あらゆる規格を受け入れる「共通の言語」を創出した。これは、単なる部品の改良ではなく、EVワイヤレス充電のエコシステムそのものを変える、パラダイムシフト的な成果である。将来、EVの充電は、駐車するだけで自動的に始まる、当たり前のことになるだろう。その未来の実現に向けて、この四単極受電コイルは、確かな一歩を踏み出した。

張芸明、毛行奎 et al., Power System Technology, DOI: 10.13335/j.1000-3673.pst.2023.0058