高出力密度のSiCパワーモジュールを開発

高出力密度のSiCパワーモジュールを開発

電気自動車(EV)の進化が目覚ましい現代、駆動システムの性能を左右するキーコンポーネントの一つが、バッテリーの直流をモーターの交流に変換する「パワーコンディショナー」の心臓部、パワーモジュールである。この分野で、中国の研究チームが画期的な成果を上げた。中国科学院電工研究所のHui Xiaoshuang、Ning Puqi、Li Dongrun、Kang Yuhuiらの研究者たちは、高出力密度の三相フルブリッジSiC(炭化ケイ素)パワーモジュールの設計と開発に成功した。その研究成果は、学術誌『華中科技大学学報(自然科学版)』に掲載され、EVの次世代駆動システムに新たな可能性を提示している。

この新モジュールの最大の特徴は、その「高出力密度」と「低寄生インダクタンス」にある。従来のSiCパワーモジュールは、2次元的なワイヤボンディング構造が主流であり、これにより必然的に寄生インダクタンスが大きくなってしまう。この寄生インダクタンスは、SiCデバイスの高速スイッチング特性を活かす上で大きな障壁となる。高速でスイッチングを行う際に、このインダクタンスが原因で電圧のオーバーシュート(過電圧)や、ゲート信号の不安定な振動(ゲートリング)が発生し、これがEMI(電磁干渉)の原因になったり、最悪の場合、デバイスの破損につながる恐れがある。また、大きなインダクタンスは、スイッチング損失を増加させ、システム全体の効率を低下させる。

研究チームは、この根本的な問題を解決するために、全く新しいパッケージング手法を提案した。それが「多層直接接合銅(DBC)ユニット」である。従来の平面的な構造とは異なり、この設計では、2枚のDBC基板を上下に重ねて使用する。下層のDBC基板にはSiC MOSFETチップのドレイン端子を直接はんだ付けし、上層のDBC基板にはゲートとソース端子をワイヤボンディングで接続する。この構造により、同じ面積内に2倍の導電面積を確保でき、より多くのチップを並列接続することが可能になる。これにより、モジュールの小型化と同時に、電流容量を大幅に向上させるという、一石二鳥の効果が得られる。

しかし、最も革新的な点は、この重ね構造が「相互インダクタンスの相殺効果」を活用していることだ。上下の層を流れる電流の経路は、物理的に重なっているが、その方向は互いに逆向きである。この逆向きの電流が近接して流れることで、それぞれの電流が生む磁界が互いに打ち消し合い、結果としてモジュール全体の寄生インダクタンスが劇的に低下する。研究チームがAnsys Q3Dを用いてシミュレーションを行った結果、この新モジュールの総寄生インダクタンスはわずか4.74 nHにまで削減された。これに対して、同等の定格出力を備える従来の2次元構造モジュールのインダクタンスは18.84 nHであった。実に74.8%もの低減率であり、これは単なる改良ではなく、技術的な飛躍と言える。

この極めて低い寄生インダクタンスは、実際の動作でも顕著な効果を発揮する。研究チームが実施した双パルステスト(スイッチング特性評価の標準的手法)では、モジュールは800V、500Aという高電圧・大電流条件下で安定したスイッチング動作を示した。特に注目すべきは、ゲート信号の安定性である。従来のモジュールでは、200A程度の電流でもゲートに明確な振動が観測されるのに対し、この新モジュールでは、500Aという大電流下でもゲート信号は非常にクリーンで、不安定な振動は見られなかった。これは、ゲートドライバ回路の設計を大幅に簡素化できることを意味し、システム全体の信頼性とコストダウンに大きく貢献する。

もう一つの大きな成果が、モジュールの小型化である。導電面積の増加と、より効率的な内部レイアウトの最適化により、研究チームはモジュールの総面積を従来比で34.9%削減することに成功した。完成した1,200V/500Aの三相フルブリッジモジュールの単位セルサイズは59mm×32mmであり、商用のEconoDUALパッケージに採用される単相フルブリッジモジュールとほぼ同じサイズに収められている。これは、EVのインバーターユニットの体積と重量を大幅に削減できる可能性を示しており、軽量化による航続距離の延伸や、車両レイアウトの自由度向上に直結する。

小型化と高出力化が進む中で、避けて通れないのが「放熱」の問題だ。より小さなスペースでより大きな電力を扱うということは、熱密度が劇的に高くなることを意味する。この課題に対応するため、研究チームは「ピンフィン(Pin-Fin)ヒートシンク」を採用した。これは、多数の細かいピン(柱)が立った構造のヒートシンクで、冷却水と接触する表面積を最大化する。これにより、従来の平板ヒートシンクよりもはるかに効率的に熱を冷却水に伝えることが可能になる。

放熱性能の検証は、計算流体力学(CFD)シミュレーションと実際の実験の両面で行われた。シミュレーションでは、三相モジュール全体で5,400Wの熱損失が発生するという過酷な条件を想定し、冷却水の入口温度25℃、流速0.52m/sの条件下で解析を行った。その結果、チップの最高接合部温度(junction temperature)は148.42℃、平均温度は123.24℃と予測された。これらの値は、SiCデバイスの通常の最大許容温度(175-200℃)を大きく下回っており、十分な放熱性能が確保されていることを示している。

このシミュレーション結果を裏付けるべく、実際のプロトタイプモジュールを製作し、実験が行われた。実験では、モジュールの1相を直通状態にして300Aの直流を流し、赤外線サーモグラフィーで表面温度を測定することで、チップの最高接合部温度を推定した。その結果、最高温度は約158℃と測定された。シミュレーション値よりもやや高いものの、これは実際の製造における微小なばらつきや、測定誤差を考慮すると妥当な範囲内であり、モジュールが過酷な条件下でも安全に動作できることを実証している。

この新モジュールの開発プロセスは、シミュレーションから実験、そして量産への視野を意識したものだった。チップの検査、パッケージ設計、スパッタリング、真空はんだ付け、超音波ワイヤボンディング、そして真空封止という一連の工程が確立されている。特に真空封止は、モジュール内部を湿気や塵埃から保護し、自動車という過酷な環境下での長期信頼性を確保するために不可欠な工程である。

この技術の意義は、EVの性能向上にとどまらない。産業用ドライブや再生可能エネルギー分野など、高出力密度と高効率が求められるあらゆる分野への応用が期待される。特に、800Vシステムの普及が進む中で、その高い電圧耐性と低損失特性を活かせるこのSiCモジュールは、次世代インバーターの標準的な選択肢となる可能性を秘めている。研究チームが提示した多層DBCユニットの設計手法は、パワーエレクトロニクスのパッケージング技術に新たな方向性を示したと言えるだろう。

Hui Xiaoshuang, Ning Puqi, Li Dongrun, Kang Yuhui, Institute of Electrical Engineering, Chinese Academy of Sciences; Journal of Huazhong University of Science and Technology (Natural Science Edition), DOI: 10.13245/j.hust.240878