高速永久磁石モータ制御戦略の革新でEV性能向上
電気自動車(EV)の急速な進化の中で、高効率化・高密度化・航続距離延長を実現するモータ制御技術の開発競争が激化している。合肥工業大学電気工学・自動化学院の朱宇普(Yupu Zhu)、楊淑英(Shuying Yang)、王起帅(Qishuai Wang)らの研究チームが、高速領域におけるモータ制御の難題に挑む新たな解決策を発表した。内蔵型永久磁石同期モータ(IPMSM)の高回転・低キャリア比領域での制御性能を飛躍的に向上させる遅延補償型拡張状態オブザーバ(ESO)を基盤とした電流制御戦略がその核となる。
従来のベクトル制御手法が直面する課題を詳細に分析した研究チームは、電力変換装置の制御遅延がシステムに及ぼす非線形影響に着目。ディジタル制御系におけるサンプリング遅延、演算処理時間、PWM信号生成遅延の総合的影響を理論的に解明し、実用的な解決策を提示することで、業界の長年の課題に応答した。
低キャリア比領域において伝統的PI制御が抱える不安定性の問題を克服するため、離散時間領域に最適化された3種類の遅延対応ESO構造を提案。中でもSmith予測器理論を応用したSmith-DESOアーキテクチャでは、制御入力と電流観測値の時間軸を同期させる前向き補償を実現し、従来比20倍以上の高速応答特性を獲得した。一方、入力電圧を意図的に遅延させるUd-DESO方式はパラメータ変動に対する高いロバスト性を示し、実機試験ではインダクタンス値が70%以上変動しても安定動作を維持することを実証した。
実験検証では、TI社製DSPコントローラ(TMS320F28379)と18kW級IPMSMを組み合わせたEV駆動プラットフォームを構築。電気周波数800Hz(機械回転数18,000rpm相当)という極限状態でも、q軸電流リプル率を37.5%低減し、制御遅延によるトルク変動を実用レベルまで抑制することに成功した。特に低キャリア比5という未踏領域での安定動作は、高回転型トラクションモータの小型化・軽量化に新たな可能性を拓く成果である。
産業応用面では、本手法が誘導電動機(IM)や磁気抵抗モータ(SynRM)など他種の同期機にも適用可能な汎用性を有する点が注目される。自動車メーカーが求める高速化・高効率化・コスト削減の三方良しを実現する技術として、量産車への早期導入が期待される。さらに、完全離散化設計思想により制御系チューニングを簡素化し、車載ECUの演算負荷低減にも貢献する。
本成果は、モデル依存型制御から外乱観測型制御へのパラダイムシフトを加速させる契機となる。温度変動や磁気飽和など実環境要因を「総合外乱」として推定・補償するアプローチは、次世代パワートレイン開発において重要な指針を提供する。特に、ADRC理論と現代制御理論を融合させたハイブリッド設計手法は、学術的にも工学的にも新たな地平を切り拓くものと評価される。
今後の展開として研究チームは、機械学習を用いたパラメータ適応機構の統合や、位置センサレス制御への応用拡張を提唱。EV駆動系のさらなる高機能化・低コスト化に向けた技術進化の方向性を示した。自動運転技術やエネルギー回生制御との協調を視野に入れることで、EVの総合効率向上への波及効果が期待される。
執筆者
Yupu Zhu(朱宇普), Shuying Yang(楊淑英), Qishuai Wang(王起帅)
合肥工業大学 電気工学・自動化学院(Hefei University of Technology, School of Electrical Engineering and Automation, Hefei 230009, China)
掲載誌
Transactions of China Electrotechnical Society, Vol. 39, No. 6, March 2024
DOI: 10.19595/j.cnki.1000-6753.tces.222286
(注:日本語表記における人名は原音に近いカタカナ表記を基本としつつ、学術界での慣例を考慮しています。中国語原音と日本語表記の差異については、国際的な学術慣行に準拠した表記を採用しています)