2速と巻線切替でEV効率向上

2速と巻線切替でEV効率向上

電気自動車(EV)の性能向上と効率改善のための新たな道筋が、最新の研究によって明らかになった。中国の長安大学と浙江交通職業技術学院の研究チームが発表した論文は、従来の1速ギアボックスに加え、2速ギアボックスと巻線切替式モーターという二つの異なるアプローチが、EVの走行性能に与える影響を詳細に比較したものである。この研究は、自動車メーカーが今後のEV開発において、パフォーマンスと効率のどちらを優先するかという戦略的な判断を下す上で、極めて貴重なデータを提供している。

現在、市販されている多くのEVは、構造がシンプルで信頼性が高く、コストも抑えられるという利点から、1速の減速ギア(シングルギア)を採用している。しかし、この構成には根本的な限界がある。一つの固定されたギア比では、低速域での強力な加速と高速域での効率的な巡航を同時に最適化することが難しい。例えば、発進や登坂に強い加速力を得るためにギア比を短く設定すると、高速走行時にモーターが非常に高い回転数で回る必要があり、その結果、モーターが最も効率の良い回転域から外れ、エネルギー損失が増大し、航続距離が短くなる。逆に、高速巡航に最適化された長いギア比では、発進がもたついてしまう。この「妥協」が、1速ギアの最大の課題である。

この問題を解決するために、自動車業界は二つの方向性で技術革新を進めている。一つは、伝統的な自動車の技術を応用した「2速ギアボックス」の採用である。もう一つは、モーターそのものの特性を変える「巻線切替式モーター」という、より革新的なアプローチである。長安大学の劉永涛氏らの研究は、この二つの技術を、全く同じ車両の基本性能(整備質量、空気抵抗係数、タイヤ半径など)をベースに、詳細なシミュレーションで比較することで、それぞれの真の優劣を明らかにした。

研究対象としたのは、4.5トンの純粋な電動小型トラックである。この選択は、商用車が航続距離と運用コストに対して非常にシビアであるため、効率性の差がより明確に現れるからだ。研究チームは、1速AMT(電気式機械変速機)、2速AMT、そして1速ギアに巻線切替式永久磁石同期モーター(PMSM)を組み合わせた3つの駆動システムを比較対象とした。ここで重要なのは、比較の公平性を保つため、全てのシステムが「1つのモーター」で駆動されるという点である。これにより、モーターの数や配置による影響を排除し、ギアボックスの有無とモーターの構造の違いという、純粋な要因の影響を評価できる。

まず、2速ギアボックスのアプローチは、伝統的な内燃機関車の発想に近い。1速(ロー)では非常に短いギア比を設定し、モーターの回転を大きく減速して、タイヤに掛かるトルクを最大化する。これにより、発進時や低速域での加速力が劇的に向上する。2速(ハイ)では、より長いギア比を用いて、モーターの回転数を下げ、高速巡航時の効率を高める。この方式の最大の利点は、モーターの特性を変えることなく、機械的に走行条件に応じた最適なギア比を提供できる点にある。しかし、その代償として、ギアボックスの構造が複雑になり、重量が増し、コストが上がり、またギアチェンジの際の制御が難しくなるという課題も生じる。

一方、巻線切替式モーターは、全く異なる哲学に基づいている。このモーターは、一つのモーターの中に「全巻線モード」と「半巻線モード」という二つの電気的特性を持つ。全巻線モードでは、コイルの巻き数が多く、低速から中速域で大きなトルクを発生させることに特化している。これは発進や登坂に最適な状態だ。半巻線モードでは、コイルの巻き数が少なくなり、モーターがより高い回転数まで回転できるようになる。これにより、高速域での定格出力(定電力領域)が拡大し、高速走行時の効率が向上する。この切替は、数ミリ秒の単位で電子的に制御され、ドライバーにはほとんど違和感なく行われる。この技術の最大の利点は、追加の機械式ギアボックスを必要とせず、1速のシンプルな構造を維持したまま、モーターの高効率領域を大幅に広げられることにある。構造の複雑さはモーター内部の巻線とスイッチング回路に集中するが、全体の重量やコスト増加は2速ギアボックスに比べて抑制される可能性がある。

研究チームは、この二つのシステムの性能を、中国の商用車用走行試験サイクル(CHTC-LT)を用いた高度なシミュレーションで評価した。評価の公平性を保つため、単に既存のギア比を使うのではなく、それぞれのシステムに最適なギア比や、2速ギアの「シフトポイント」、巻線モーターの「切替ポイント」を、遺伝的アルゴリズムと動的計画法という高度な最適化手法を用いて導き出した。これは、各システムが最大限の性能を発揮できるように、設計段階から最適化を行ったことを意味する。この厳密なプロセスにより、単なる「好み」の問題ではなく、客観的で定量的な比較が可能となった。

シミュレーションの結果は、非常に明確で示唆に富んでいた。まず、動力性能(加速性能)においては、2速ギアボックスを搭載したシステムが圧倒的な優位を示した。0~50km/hの加速時間で、従来の1速システムと比較して2.63%の短縮が達成された。これは、1速で非常に短いギア比を用いることで、発進時のトルクを最大化できるという2速ギアの本質的な利点が、そのまま性能として現れた結果である。一方、巻線切替モーターも1.38%の改善を記録した。これは、全巻線モードで発揮される高い低速トルクが、発進時のレスポンスを向上させたためと考えられる。しかし、2速ギアの加速力には及ばない。

一方、経済性(エネルギー効率)の面では、立場が逆転した。CHTC-LTサイクルでの100kmあたりのエネルギー消費量を比較したところ、巻線切替モーターを搭載したシステムが最も優れた結果を出した。1速システムと比較して、エネルギー消費量を2.0%削減できた。2速ギアボックスシステムも0.6%の改善を記録したが、その効果は巻線切替モーターには及ばなかった。この結果は、巻線切替モーターがモーターそのものの高効率領域を広げることで、走行中のあらゆる場面でエネルギー損失を抑える能力に長けていることを示している。2速ギアは、高速巡航時のモーター回転数を下げることで効率を改善するが、その効果は特定の走行領域に限られる。対して、巻線切替はモーターの基本的な特性を変え、より広範な走行領域で効率を最大化する。この差が、2.0% vs 0.6%という明確な数値差として現れたのである。

この研究の最も重要な示唆は、EVの駆動システムに「万能の正解」は存在しないということだ。2速ギアボックスは「性能の追求」に、巻線切替モーターは「効率の追求」にそれぞれ最適化されている。自動車メーカーは、自社のブランドイメージや、ターゲットとするユーザー層に応じて、戦略的な選択を迫られる。スポーツカーのような、瞬発的な加速力が命の車種には、2速ギアボックスが最適な選択肢となるだろう。そのコストと複雑さは、得られるパフォーマンスによって正当化される。一方、タクシーや物流車両のように、1日あたりの走行距離が長く、燃料費(電気代)の節約が直接的な利益となる車種には、わずかなエネルギー消費の削減が大きなコスト削減に繋がる巻線切替モーターが、より魅力的な選択肢となる。

さらに、この研究は、EV開発における「ソフトウェアの重要性」を浮き彫りにしている。2速ギアの最適なシフトポイントや、巻線モーターの最適な切替タイミングは、単なる固定ルールではなく、走行状況に応じて動的に変化するべきものだ。研究チームが用いた「動的計画法」は、走行サイクル全体を通してエネルギー消費を最小化するための、最適な制御戦略を事前に計算する手法である。これは、EVの性能が、モーターとギアボックスという「ハードウェア」だけでなく、それらを制御する「ソフトウェア」の知能に大きく依存していることを示している。今後のEV開発の主戦場は、ますますソフトウェアとアルゴリズムの領域へと移っていきそうだ。

結論として、劉永涛氏らの研究は、EVの駆動システムに関する議論を、感覚的なものから科学的なものへと昇華させた。2速ギアと巻線切替という二つの技術は、どちらも有効な解決策ではあるが、その目的と効果は明確に異なる。この理解は、メーカーが製品開発の方向性を定める上で不可欠であり、消費者が自分の走行スタイルに最も合ったEVを選ぶための、重要な知識となるだろう。

劉永涛,劉永傑,高隆鑫,周紫佳,王征,陳軼嵩,王泰琪,長安大学自動車学院,浙江交通職業技術学院,自動車工程学報,DOI: 10.3969/j.issn.2095-1469.2024.02.10