EVワイヤレス充電、1.6m範囲で高精度位置特定

EVワイヤレス充電、1.6m範囲で高精度位置特定

電気自動車(EV)のワイヤレス充電技術に新たなブレイクスルーがもたらされた。中国・ハルビン工業大学の研究チームが、従来の課題であった充電パッドへの正確な停車を不要にする画期的な位置検出システムを開発した。このシステムは、車両が±800ミリメートル(合計1.6メートル)もの広範囲にわたって停車位置をずらしても、高精度でその位置を特定し、最適な充電位置への誘導を可能にする。これは、ワイヤレス充電の実用性と安全性を飛躍的に向上させるものであり、EVの普及を加速する重要な一歩となる。

この研究は、Sun Tian(孫天)博士課程学生とSong Beibei(宋貝貝)助教をリードとするハルビン工業大学電気工学・自動化学院の研究グループによって行われ、その成果は電気工学分野の権威ある学術誌『Transactions of China Electrotechnical Society』に掲載された。ワイヤレス充電の基本原理は、地面に埋められた送電コイル(GA)と、車両の下部に取り付けられた受電コイル(VA)の間で磁界を介して電力を非接触で伝送することにある。この技術は、プラグを差し込む手間がなく、悪天候下でも利用可能という利便性から、未来のモビリティインフラとして大きな期待が寄せられている。

しかし、この技術には大きな課題があった。送電コイルと受電コイルが正確に重なっていないと、電力の伝送効率が急激に低下し、エネルギーロスが生じるだけでなく、過剰な電磁界(EMF)が発生する。この過剰なEMFは、周囲の金属物体を発熱させ、火災の危険性を高めるほか、人体への影響を懸念する声も根強く、安全基準の遵守が求められている。そのため、SAE J2954やIEC 61980といった国際規格では、車両の位置を正確に検出し、最適な位置に誘導する「位置検出(Position Detection, PD)」機能が、ワイヤレス充電システムの必須要素として規定されている。

従来の位置検出技術には、カメラやGPS、RFID(無線周波数識別)などを用いる方法が存在した。しかし、これらの方法は外的環境(天候、照明、信号遮蔽)に強く影響されやすく、信頼性に課題があった。一方で、電磁誘導を活用する「低電力励磁法(LPE)」は、充電システム自体が生成する磁界を利用するため、外部環境の影響を受けにくく、システム統合性が高く、コストも抑えやすいという利点がある。しかし、その磁界の空間分布が対称的かつ非単調であるため、ある特定の電圧値が複数の異なる位置に対応してしまう「位置の曖昧性」という根本的な問題に直面しており、検出範囲を広げると精度が低下するというトレードオフが存在した。

ハルビン工業大学の研究チームは、この根本的な問題に正面から取り組んだ。彼らの解決策は、従来の対称的な設計をあえて破るという大胆な発想から始まる。研究チームは、車両側に取り付ける位置検出用のコイルアレイを、「非中心対称構造」に設計した。具体的には、受電コイルの直下に、三つの検出コイルを、中心からずれた特定の位置に配置する。この非対称な配置こそが、今回の革新の鍵である。

この設計の利点は明確だ。対称的な磁界の中を、非対称なセンサー群が動くことで、従来の「ある電圧→複数の位置」という曖昧な関係が、一気に「ある電圧の組み合わせ→唯一の位置」という一対一の関係に変わる。つまり、車両がどこに停車しても、その位置に固有の電圧パターン(ベクトル)が検出コイルに発生するため、曖昧さなく正確な位置を特定できるのである。これにより、±800mmという広大な範囲内でも、位置の識別が可能になった。

さらに、研究チームは検出精度を高めるために、検出コイルの設計にも工夫を凝らした。車両の下部スペースは限られているため、コイルの外周寸法は受電ユニット(VA)と同一に設計され、空間を最大限に活用している。また、コイルの線径、巻き数、線間隔などのパラメータを最適化し、磁束を効率よく取り込む「有効磁束面積」を最大化した。これにより、磁界が弱くなる範囲外側でも、十分な誘導電圧を確保し、微弱な信号でも安定して検出できる高感度なシステムを実現している。

しかし、高精度な検出信号を得ただけでは不十分だ。その信号から正確な位置を瞬時に計算し出すアルゴリズムが、システムの成否を分ける。研究チームは、ここで独自の「行跡(こうせき)再帰アルゴリズム」を考案した。このアルゴリズムの核となるのは、「曲線交点法」と「検出感度」の二つの概念である。

まず、「曲線交点法」について説明しよう。研究チームは、あらかじめ実験やシミュレーションを行い、車両がy軸(前後方向)に動いた際に、三つの検出コイルそれぞれに発生する誘導電圧の変化を精密に測定し、そのデータをもとに各コイルの電圧-位置関係を表す複雑な曲線をデータベースに登録しておく。実際の運用では、車両が停車すると、三つの検出コイルから現在の電圧値が取得される。この三つの電圧値は、それぞれの曲線に対して「水平線」として機能する。この水平線と予め登録された三本の曲線との交点を求めることで、それぞれのコイルから見た「可能性のある位置」の候補が複数得られる。この三つの候補の集合の「共通部分」、つまり三本の線が同時に交わる点が、車両の真のy座標となる。この方法により、非単調で複雑な関数であっても、正確な逆関数を求めることなく、一意の位置を特定できる。

次に、「検出感度」の概念を用いて、x軸(左右方向)の位置を特定する。車両が停車する際、通常は直進するため、y方向の動きは明確だが、x方向の微小なずれを瞬時に検出するのは難しい。そこで研究チームは、車両が動いている最中の電圧の「変化率」に注目した。この変化率こそが「検出感度」であり、車両の位置によって大きく異なる。アルゴリズムは、現在の電圧値に加えて、直前のサンプリング時点の電圧値も利用し、三つの検出コイルそれぞれの感度(電圧の変化率)をリアルタイムで計算する。この三つの感度値の組み合わせ(ベクトル)もまた、車両の位置に固有のものとなる。研究チームは、あらかじめ登録されたデータベースの中から、測定された感度ベクトルと最も一致する位置を探し出すことで、x座標を高精度に特定する。このように、車両の「動きの軌跡」を活用する再帰的な計算手法が、二次元空間での高精度な位置特定を可能にしている。

このシステムの性能は、実機を用いた厳密な実験で検証された。研究チームは、WPT3 Z2という標準的なワイヤレス充電システムをベースにプロトタイプを構築し、±800mmの範囲内に規則正しく配置された400箇所のテストポイントで位置検出を実施した。その結果、±600mmの範囲内では、位置精度が20mm以下という非常に高い精度を達成。±600mmから±800mmの外側領域でも、精度は50mm以下に抑えられ、全体の位置特定正確率は96%以上と、実用に十分耐える性能を示した。また、位置計算の処理時間は5ミリ秒以下と、リアルタイム性も確保されており、車両のナビゲーションシステムに即座にフィードバックできる。

この技術の意義は、単に「停車が楽になる」という利便性の向上に留まらない。まず、充電効率の安定化により、エネルギーロスを最小限に抑え、よりエコノミカルな充電が可能になる。次に、過剰なEMFの発生を抑制することで、火災リスクや人体への影響を低減し、安全面での信頼性が飛躍的に向上する。これは、規格の適合性を高め、消費者の安心にもつながる。さらに、この技術は自動運転車の実現に不可欠な要素でもある。完全自動運転車は、人間のドライバーの介入なしに、自ら最適な位置に停車して充電を行う必要がある。この高精度で広範囲な位置検出システムは、まさにその要請に応えるものであり、自動運転社会のインフラを支える基盤技術となり得る。

Sun Tian、Song Beibei、Cui Shumei、Zhu Chunbo、Dong Shuai、ハルビン工業大学、Transactions of China Electrotechnical Society、DOI: 10.19595/j.cnki.1000-6753.tces.231670