EV充電負荷、交通流で予測
中国の研究チームが、電気自動車(EV)の充電需要をより正確かつ効率的に予測する画期的なモデルを開発した。この新たな手法は、交通流のダイナミクスと車両の充電状態(SOC)を統合し、都市の交通網と電力網が深く相互作用していることを明確に示している。この研究は、電力需要の急増に対応するためのインフラ計画に革命をもたらす可能性を秘めている。
EVの普及が進むにつれ、その充電に伴う電力需要は電力網に大きな負荷をかけている。特に、帰宅時間帯に集中する充電需要は、電力ピークを押し上げ、発電所や送電網の安定運用を脅かす。従来の予測モデルは、個々のEVの行動をシミュレーションする「モンテカルロ法」に依存しており、計算に膨大な時間を要する上、交通渋滞や他のドライバーの選択が自分のルートに与える影響といった、複雑な相互作用を十分に捉えられていないという根本的な課題があった。これらのモデルは、ドライバーが孤立した存在であるかのように扱い、実際の交通網が「ユーザー均衡」と呼ばれる状態に達するという事実を見落としていた。ユーザー均衡とは、誰もが自分の移動時間を最小化しようとする中で、すべての利用されているルートの所要時間がほぼ等しくなる状態であり、これは個々の意思決定が集まって形成されるマクロな現象である。
この研究のブレイクスルーは、EVを単なる「移動するバッテリー」ではなく、交通網という複雑なシステムの「一員」として捉え直した点にある。研究チームは、交通工学の基本理論である「交通均衡理論」をEVの充電需要予測に応用した。彼らが開発したモデルは、「半動的交通均衡モデル」と「組み合わせ充電状態(Combined State of Charge, CSOC)」の2つの柱から成り立っている。このアプローチは、従来の「個別シミュレーション」から「システム全体のマクロな挙動を解析する」へと、視点のパラダイムシフトを実現している。
まず、「半動的交通均衡モデル」は、交通網の時間的な変化を捉えるために設計されている。1日を複数の時間帯(例えば1時間ごと)に分け、各時間帯ごとに交通流の均衡を計算する。ここで「半動的」というのが鍵で、前の時間帯に始まったが、次の時間帯に終わる「残余交通流」を考慮することで、渋滞が時間帯を超えて連鎖する現象をリアルに再現できる。例えば、午後6時の渋滞で出発が遅れた車は、その影響を午後7時にも引きずることになる。このモデルは、各OD(出発地-目的地)ペアのドライバーが、現在の道路の混雑具合を考慮して最短時間のルートを選択し、結果として交通流が均衡状態に達するプロセスをシミュレーションする。この計算により、各時間帯に各道路を走行するEVの台数や、各ルートの所要時間が高精度に求められる。これにより、EVがいつ、どこにいるのかという「空間分布」が、単なる統計ではなく、交通システムのダイナミクスに基づいて決定される。
この交通シミュレーションの結果を受けて、2つ目の柱である「CSOCモデル」が稼働する。CSOCとは、個々のEVのSOCを追跡するのではなく、EVの集団全体のSOCを一つの確率分布として捉える概念である。モデルは、交通均衡モデルから得られたルート情報と所要時間を用いて、EV群のSOCがどのように変化するかを追跡する。EVが走行を開始する際、そのSOCは一定の分布(通常、正規分布と仮定)を持っている。走行中、SOCは走行距離とエネルギー効率に応じて消費される。CSOCモデルは、この消費プロセスを、確率分布全体が横軸上を左にシフトするという形で表現する。目的地に到着した時点で、SOCが事前に設定された「充電開始閾値」(例えば20%)を下回ったEVが、充電需要を生じる。CSOCモデルは、到着したEVのうち、どの程度の割合が充電を必要とするかという「充電確率」を、確率論的に計算する。さらに、充電開始時のSOCが低いほど充電に要する時間が長くなるという特性も組み込み、最終的に各時間帯、各充電ステーションにおける「平均充電負荷」を導き出す。
この2つのモデルを統合することで、驚くべきシナジーが生まれる。交通の混雑は、EVの走行時間を延ばし、それによってバッテリーの消費量が増える。これは、到着時のSOCがより低くなることを意味し、結果として充電確率が上昇し、充電負荷のピークが高まり、遅れるという連鎖反応が発生する。従来のモデルでは、交通の混雑を「平均的な遅延」として静的に扱うことが多かったが、この新しいモデルは、混雑が時間と空間にわたってどのように発生し、進化するかを動的にシミュレーションすることで、充電需要への影響をはるかに正確に描写できる。
研究チームは、このモデルの有効性を、標準的な13ノードのテストネットワークと、中国・広州市天河区の実際の道路データから抽出した大規模ネットワーク(4777ノード、5890セグメント)の2つのケースで検証した。結果は圧倒的であった。予測精度に関しては、100回のモンテカルロシミュレーションとほぼ同一の充電負荷プロファイルを生成した。しかし、計算時間は天と地の差だった。13ノードネットワークでは、新しいモデルはわずか4.8秒で結果を出力したのに対し、モンテカルロ法は4時間以上かかった。大規模ネットワークでは、新しいモデルが16分で終了したのに対し、モンテカルロ法は11時間以上を要した。計算効率が40倍以上向上したことで、このモデルは、電力会社の「翌日予備力計算」や「発電機の運転計画」など、リアルタイムに近い意思決定を必要とする実務に適用可能になった。
この研究は、EVの充電需要についての重要な洞察も提供している。まず、移動需要と充電需要には明確な時間差があること。シミュレーションでは、交通のピークが午後6時であるのに対し、充電負荷のピークは午後7時にずれていた。これは、EVが「走行中は充電できない」という物理的制約を反映しており、電力需要のピークが移動のピークよりも遅れるという重要な事実を示している。次に、EVの普及率が充電負荷に与える影響である。EVの割合が15%から30%、60%と増加すると、日平均の充電負荷はそれに比例して直線的に増加した。これは、普及率の上昇が単純に充電需要を増やすことを意味しており、将来の需要予測においては、普及率の見通しが極めて重要であることを示唆している。
最も示唆に富むのは、道路網の構造が充電需要に与える劇的な影響である。研究チームは、道路の通行能力を低下させる(渋滞を再現)というシナリオを試した。その結果、通行能力が半分になると、交通のピークが1時間遅れただけでなく、日平均の充電負荷も10%以上増加した。これは、渋滞によりEVが長時間道路に滞在し、バッテリーを余分に消費したため、到着後に充電する必要が高まったためである。また、道路の長さを人工的に3倍にしたシミュレーションでは、充電負荷のピークがさらに遅れ、平均負荷が大幅に上昇した。これは、移動距離が長くなることで、当然ながら消費電力が増えるためである。これらの結果は、電力網の安定化を考える上で、交通インフラの整備と都市計画がいかに重要かを如実に示している。電力会社は、電力需要を予測する際に、単にEVの台数を数えるだけでなく、都市の交通状況や道路の混雑度といった「交通網の状態」を積極的に取り入れる必要がある。
この研究の成果は、EVの普及が進む世界中の都市にとって、極めて重要な意義を持つ。電力会社は、このモデルを活用して、より正確な需要予測を行い、ピーク時の電力不足や系統の過負荷を防ぐことができる。また、電力価格の時間帯別設定(トータイム・オブ・デイ料金)の設計にも活用でき、ピーク時の充電を避け、深夜の余剰電力を活用するような「スマート充電」の促進に貢献する。都市計画者にとっては、新たな道路や都市開発プロジェクトが、電力需要にどのような影響を与えるかを事前に評価する強力なツールとなる。また、充電インフラの事業者にとっては、どの場所に、どれだけの充電設備を設置すれば需要に応えられるかという、戦略的な投資判断を下すためのデータを提供する。
著者らは、今後の研究課題として、充電価格がドライバーのルート選択に与える影響や、旅途中の「チャンス充電」の可能性、さらには自動運転車やシェアリングモビリティの普及がもたらす変化を挙げている。これらの要素を組み込むことで、モデルはさらに現実に即したものとなり、電力-交通複合システムの最適化に向けた、より強力な意思決定支援ツールへと進化していくだろう。朱峻良、武志剛、劉嘉寧。電網技術。DOI: 10.13335/j.1000-3673.pst.2023.0095