EV用二重環状バランサ、効率と速度を革新
電動モビリティが急速に進化する中、バッテリーマネジメントシステム(BMS)は電気自動車(EV)の性能、安全性、寿命を決定づける要の存在となっている。走行距離の延伸と急速充電への需要が高まる一方で、バッテリー技術のスマート化と高効率化がこれまで以上に求められている。リチウムイオン電池パックにおいて最も深刻な課題の一つはセル間の電圧不均衡であり、これは容量の低下、寿命の短縮、さらには安全リスクの原因ともなる。この問題に真正面から取り組み、画期的な解決策を提示したのが、塩城工学院の研究チームである。彼らが開発した「二重環状バランサ」は、バッテリーの均等化速度と効率を劇的に向上させ、EVのコア技術に新たな風を吹き込んでいる。
本研究は、修士課程の学生であるHan Xinsheng氏が中心となり、同校のKan Jiarong教授、Ling Huiying氏、Wang Peng氏、Cheng Qian氏と共同で進められた。その成果は学術誌『Electronic Science and Technology』に掲載され、DOI: 10.16180/j.cnki.issn1007-7820.2024.04.003にて公開されている。この研究の核となるのは、従来のBuck-Boost回路とスイッチトキャパシタ回路を融合した、二重階層の環状アーキテクチャである。これにより、エネルギーの伝送経路が短縮され、効率的な電力の再分配が可能になる。
リチウムイオン電池は、その高いエネルギー密度と長寿命から、EVや再生可能エネルギー分野、宇宙航空産業に至るまで幅広く採用されている。しかし、複数のセルを直列に接続して高電圧を得る際、個々のセルに存在する初期容量のばらつき、劣化特性の非対称性、温度分布の不均一性が、充放電サイクルを重ねるごとに電圧の不均衡を引き起こす。この状態を放置すると、特定のセルが過充電や過放電に陥り、全体の容量が低下し、寿命が縮むだけでなく、熱暴走(thermal runaway)を引き起こす危険性もある。そのため、直列接続されたバッテリーパックには、こうした不均衡を是正するための「バランサ回路」の搭載が不可欠である。
バランサ回路は大別して「パッシブ型」と「アクティブ型」に分けられる。パッシブ型は、過剰な電荷を持つセルのエネルギーを抵抗を通じて熱として放散する方式で、構造がシンプルだがエネルギーを無駄にするという致命的な欠点がある。一方、アクティブ型は、電力電子デバイスとエネルギー蓄積素子を用いて、セル間でエネルギーを直接移動させる。これにより、エネルギーの損失を最小限に抑えつつ、効率的な均等化が可能となる。近年の研究の主軸は、まさにこのアクティブ型バランサの高度化にある。
Buck-Boostコンバータを用いたアクティブバランサは、そのシンプルな構成と良好な均等化性能から広く使われている。しかし、セル数が増えるにつれて、エネルギーの移動経路が長くなり、伝送効率が低下し、均等化速度も遅くなるという根本的な課題を抱えていた。既存の環状バランサ構造も、この問題を完全に解決するには至っていなかった。
この課題を克服するために、塩城工学院のチームは「二重環状構造」という斬新なアプローチを提案した。この構造では、12個のセルからなるバッテリーパックを、4セルずつの3つのモジュール(M1, M2, M3)に分割する。そして、二つのレベルで均等化を行う。
第一のレベルは「下位環状回路」で、各モジュール内部の均等化を担う。モジュール内の隣接するセル間は、Buck-Boost回路でエネルギーを移動させる。そして、モジュールの最初と最後のセル(例:M1のB1とB4)は、スイッチトキャパシタ回路で接続され、環を閉じる。これにより、各モジュール内では、短距離かつ効率的なエネルギー移動が可能になる。
第二のレベルは「上位環状回路」で、モジュール間の均等化を行う。隣接するモジュール(例:M1とM2)は、再びBuck-Boost回路で接続される。そして、パックの最初のモジュール(M1)と最後のモジュール(M3)は、スイッチトキャパシタ回路で接続され、全体として大きな環を形成する。この二重の環状構造により、エネルギーは「局所的(モジュール内)」にも「全体的(モジュール間)」にも自由に流れ、最も短い経路で不均衡を是正できる。
この設計の卓越性は、物理的な構成だけでなく、その性能を裏付ける分析手法にもある。研究チームは「グラフ理論」という数学的手法を応用し、エネルギーの流れをネットワークとしてモデル化した。このモデルでは、バッテリーセルを「ノード」、エネルギーの流れを「エッジ」、Buck-Boostのインダクタやスイッチトキャパシタを「補助点」として表現する。そして、経路の長さと効率を「重み」として設定することで、均等化速度とシステム全体の効率を定量的に予測・評価することが可能になった。このアプローチは、従来の経験的な試行錯誤から、理論に基づいた予測的な設計へと、BMS開発のパラダイムを変えるものである。
シミュレーションによる検証は、この二重環状構造の優位性を明確に示した。MATLAB/Simulinkを用いた電力シミュレーションでは、12セルの電圧が完全に均衡するまでに要する時間はわずか0.39秒であった。一方、同条件でシミュレーションされた従来の単層環状構造では、均衡に0.72秒を要した。これは、二重環状構造が均等化速度を46%も向上させたことを意味している。このスピードの差は、急速充電時や回生ブレーキ時のリアルタイム制御において、極めて重要な意味を持つ。
効率の面でも圧倒的な差が生まれた。4セルのプロトタイプを用いた実験では、二重環状バランサのシステム効率が67.32%に達したのに対し、単層構造は40.54%にとどまった。これは26.78%もの効率向上であり、無駄にされる熱エネルギーが大幅に削減されることを示している。この成果は、Buck-Boostとスイッチトキャパシタのハイブリッド構成がもたらす相乗効果の賜物である。Buck-Boost回路は比較的大きな電力の移動に適しているが、スイッチング損失が発生する。一方、スイッチトキャパシタは、小さな電圧調整に特化しており、非常に高い効率で動作する。二重環状構造は、それぞれの長所を活かし、長距離伝送を避け、短距離での高効率なエネルギー移動を実現している。
さらに、Buck-Boost回路の設計では「ゼロ電圧スイッチング(ZVS)」を実現している点も、効率向上の鍵を握っている。スイッチング素子をオンする瞬間に、その両端の電圧がゼロになるように制御することで、スイッチング損失を劇的に低減できる。この高度な制御技術が、システム全体の効率を押し上げている。
この二重環状構造のもう一つの強みは、優れたスケーラビリティである。4セルのモジュールを単純に連結するだけなので、24セル、48セル、あるいはそれ以上の大型パックにも容易に拡張できる。モジュールの数が増えても、各モジュール内の下位環とモジュール間の上位環という階層構造は変わらず、設計の複雑さや効率の低下を最小限に抑えられる。これは、EV用の大型バッテリーパックに最適な設計思想と言える。
制御の観点から見ても、この構造は柔軟性に富んでいる。各モジュールは独立して監視・制御可能であり、局所的な不均衡に迅速に対応できる。一方で、上位環を通じてモジュール間の協調制御も可能で、全体の最適化を図れる。この分散型インテリジェンスは、現代のBMSが求めるモジュール性、耐障害性、適応制御というトレンドに完全に合致している。
本研究の意義は、EVに留まらない。再生可能エネルギーの蓄電システム、無停電電源装置(UPS)、宇宙船の電源など、高信頼性が要求されるあらゆる分野への応用が期待される。世界が脱炭素社会へと向かう中、大規模なバッテリーアレイを効率的かつ安全に運用する技術は、インフラの根幹をなすものである。
実用化に向けた課題も認識されている。現在のプロトタイプでは、個別のインダクタやコンデンサを使用しているため、体積とコストが課題となる。今後の研究では、平面型インダクタや集積化された磁気素子の採用により、小型・低コスト化を図ることが求められる。また、故障検出と分離のための冗長設計や、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)といったワイドバンドギャップ半導体の活用によって、さらなる高効率化が目指される。
この研究は、学術的貢献と産業応用の両面で大きな影響を与える。Han Xinsheng氏らの成果は、BMSの設計に「グラフ理論」という新たな分析ツールを提供し、技術革新の扉を開いた。彼らの研究は、国家自然科学基金や江蘇省研究生実践イノベーション計画といった公的資金の支援を受けたものであり、中国がグリーンテクノロジー分野での自立と革新を推進する姿勢を象徴している。
結論として、二重環状バランサは、アクティブバランサ技術における画期的な進歩である。そのハイブリッドトポロジー、モジュラー設計、そして理論的裏付けは、速度、効率、スケーラビリティという三つの面で優れたバランスを実現している。EVの普及が加速する中、バッテリーの「質」を高める技術こそが、持続可能な電動モビリティの鍵を握っている。Han Xinsheng, Kan Jiarong, Ling Huiying, Wang Peng, Cheng Qian, 塩城工学院, Electronic Science and Technology, doi:10.16180/j.cnki.issn1007-7820.2024.04.003