EV電池の過熱リスクを45%低減する3D多孔質構造
電気自動車(EV)の熱安全基準を革新する技術が中国の研究チームによって開発された。リチウムイオン電池パックの温度勾配を大幅に低減し、熱暴走リスクを抑制する新しい冷却手法が、高密度な電池モジュールの熱管理における長年の課題を解決した。
この技術の中核は、銅ベースの多孔質スキャフォールドに相変化材料(PCM)を組み込んだハイブリッド熱管理システムにある。典型的な急速充電シナリオである4C放電条件での試験では、動作開始12分間でバッテリーの最高温度を2.1%低下させ、最大温度と平均温度の差を45.5%縮小。セル間の温度ばらつきも34.1%改善した。これにより、複雑な冷却機構を追加せずに熱的均一性を維持するというEV開発の難題に対応する。
従来技術の限界を打破
自動車メーカーが長距離走行と急速充電の両立を目指す中、300Wh/kgを超える高エネルギー密度セルでは局所的な過熱リスクが増大。空冷システムは能力不足に陥り、液冷システムはポンプや配管などの追加部品により重量と故障リスクを増加させる。有機PCMを使用した受動的システムは簡素さが利点だが、0.2W/(m・K)以下の低い熱伝導率がネックとなり、高負荷サイクルで熱蓄積が発生していた。
新技術はこの課題を多孔質銅マトリックスによって解決。ナノスケールの孔にパラフィン系PCMを封入することで、熱伝導率を44.5W/(m・K)まで向上させた。これにより、従来のPCM単体システムに比べ200倍以上の熱拡散能力を実現している。
動作メカニズムの詳細
多孔質構造は単なる支持体ではなく、熱伝導経路を最適化する設計が特徴。江蘇大学自動車交通工学科の王天嗣教授は「銅骨格とPCMの接触面積を最大化することで、数千の微小熱伝導路を形成。セル表面から効率的に熱を引き剥がす」と説明する。
実際の車載環境を模擬した5直列4並列の円筒型セル構成(総計20セル)で試験を実施。4C放電条件下では全てのセルを4℃以内の温度差に維持し、安全性の閾値とされる5-7℃を大幅に下回った。対照試験では空冷システムで52℃を超えるホットスポットが発生し、温度差が9℃近くに達するケースも確認された。
従来のPCM単体システムでも中心部のセルが高温になる「熱的ボトルネック」が観測され、内部抵抗の増加による悪循環が懸念されていた。多孔質構造はこの問題を銅の高熱伝導性と毛管現象を組み合わせて解消。液体化したPCMをナノ孔隙に保持することで材料の移動を防止し、熱接触の一貫性を保証する。
耐久性と製造プロセスの優位性
熱膨張や相変化に伴う機械的ストレスに対する耐久性も改善。銅フレームワークが応力を吸収し、数百サイクルにわたる使用後も構造の完全性を維持する。製造面ではモジュラー式の挿入部品として既存のバッテリーパック組立ラインと互換性があり、液冷システムに必要な追加部品を排除できる。
欧州EVスタートアップのシニア電池技術者は「コストと簡素さが重要な大衆車向けに、液冷の80%の性能を20%の複雑さで実現する画期的ソリューション」と評価。再生可能なパラフィンと銅を使用する点も環境配慮設計として注目される。
将来展望と規制対応
研究チームは軽量金属フォームや炭素複合材を用いたスキャフォールドの改良を検討。超高性能アプリケーション向けに、多孔質PCM層と微量の液冷チャネルを組み合わせたハイブリッド構成の開発も進めている。
米国国家道路交通安全局(NHTSA)や欧州連合が強化する熱暴走伝播規制への対応においても、5℃以下の温度差維持能力が競争優位性をもたらす可能性が高い。現行の液冷システムがセル間の防火壁で対応するのに対し、均一な熱分布を実現する本技術は絶縁材の削減によるエネルギー密度向上が期待される。
市場導入の可能性
共著者の王晩林が所属する中国の大手電池メーカー、鎮江ヴォナージー・テクノロジーはグローバルOEMへの供給実績を有する。2027年までに次世代バッテリーモジュールへの技術統合が現実味を帯びており、消費者にとってはバッテリー寿命の延長、充電速度の向上、高温環境下での安全性強化が直接のメリットとなる。
既存のNMC、LFP、全固体電池と互換性がある点も汎用性の高さを示す。EV市場が走行距離から総保有コストや信頼性へ競争軸を移す中、システム複雑性を抑えつつ性能を向上させる本技術の価値はさらに増大するだろう。
材料科学とシステム設計の融合
銅とパラフィンという既存材料の革新的組み合わせが、電気推進システムの最大の弱点を克服する好例となった。熱管理技術の進化が、EVの性能限界を押し広げる新たな可能性を提示している。
著者情報
王 天嗣(おう てんし)、劉 浩然(りゅう こうねん):江蘇大学 自動車・交通工学科(鎮江 212013)
王 晩林(おう ばんりん):鎮江ヴォナージー・テクノロジー株式会社(鎮江 212132)
掲載誌:重慶理工大学学報(自然科学版)2024年38巻6号 30–38頁
DOI:10.3969/j.issn.1674-8425(z).2024.06.004